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かえるの置物。

作者: 林檎

学生の頃、かえるの置物ばっかりプレゼントしてくる友達がいた


クリスマス、誕生日

何となく気が向いたから


何かと理由をつけて、かえるの置物を渡してくる



「どうしていつも、かえるなの?」



不思議に思って、聞いてみたことがある


すると



『何かあった時、助けてくれるから…大事にしてね?』



彼女はそう言って、いつものように底抜けに明るい笑顔をみせたけれど

結局意味はわからなかったな…



変わり者だけど1番の親友だった彼女は、数年経って

海外に留学してしまった


いつも明るい笑顔を絶やさない彼女は

新しい土地でも、活き活きとしているんだろうな


そう思うと、なんだか彼女へ連絡するのも躊躇われて



『ずっと親友だよ!』



そう言って交わした指切りも、遠い記憶となってしまう程

彼女とは、疎遠になってしまっていた



「はぁ…」



会社から帰る道すがら、おもわず漏れたため息が

夕暮れの街に溶けていく


ここ最近、仕事でトラブル続きだったからか

憂鬱な気持ちも相まって

楽しかった昔のこと、色あせてしまった今の自分



しとしと…しとしと…



こんな雨の日は、ついそんなことばかり考えてしまう



「今日も天気、悪いなぁ」



数日降り続く雨は、すっかり私の心もずぶ濡れにしてしまっていた


こんな時、彼女がそばにいてくれたら…

なんて、考えてても仕方ないよね



びゅう!



不意に強く吹いた風に、慌てて傘を持ち直して

雨に濡れないよう、前かがみになって歩いていたとき、



ゲコ!ゲコゲコ!



足元に、1匹のアマガエルが飛び出してきた



「うわ!」



踏みつけないよう、慌てて足を止める



「あぶないよ、ほら、あっちに行きな…」



そう言って顔を上げた瞬間



プアーーー!!



けたたましいクラクションと共に、大型トラックが目の前を横切った



「わあ!!!」



驚いて、尻もちをついてしまった


私の手を離れた傘が、風に煽られて遠くへ飛ばされていく


顔を上げると、驚いたことに、私は赤信号の横断歩道を渡ろうとしていたようだ


もし、あの時もう1歩でも前に進んでいたら…


嫌な想像に、胸の奥底からドキリとした



ゲコ!



さっきのかえるが、ぴょこぴょこと遠くへ去っていく


もしあのかえるがいなければ、わたしは今頃轢かれていたかもしれない



「助けて…くれたのかな…?」



そう呟いた時


さああ、と心地の良い風が頬を撫でたのを感じた


気づくと雨は上がっていて、遠い山間には七色の橋が架かっていた





そのあと、家に帰って、ずぶ濡れの体をお風呂で温めてから

タオルで髪を拭きながら、リビングに戻ってくると



「あれ…?」



親友の彼女に貰った、たくさんのかえるの置物が


1匹、減っているような気がした



「…久々に、連絡してみようかな…」



すっかり湿ってしまった鞄から取り出して

懐かしい、かえるのアイコンをタップした。


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