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レヴィア・クエスト! ~美少女パパと最強娘~  作者: ハートフル外道メーカーちりひと
第五章. 悪嬢 vs 悪役令嬢!? 真なるヒロインはどっちだ!
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080. ルシアの工作

 レヴィアを千妃にしてはならないと決意したルシア。彼女の行動は早かった。

 

 まず行ったのは交流のある千妃候補への接触だ。候補の中には貴族令嬢もいる。『将来の国王の生家』というのは貴族にとっても魅力的であり、自薦が禁止されている訳ではないので、多数の女が送り込まれているのだ。公爵令嬢であるルシアは顔が広く、さらに翼の宮にいる后たちも協力してくれるので、協力者には事欠かない。

 

 ルシアが動かしたのはその中でも少々性格に問題のある女。高慢なもの、怠惰なもの、強欲なもの……およそ妃としてはふさわしくない者たち。性格が悪いだけにイジメなど日常茶飯事。毒を持って毒を制そうという考えであった。

 

 が、

 

『うっうっ……。あの女、ひどいんです。私の事、じゃがいもみたいな顔だって……』


『私はドリアンみたいな臭いって言われました……!』


『私にはゴボウみたいな足だって……ダイエットしすぎだって……。適切な食事と運動なんて知らないわよぉ。最初から教えときなさいよぉ。ものすごいお肉がついちゃったじゃないのよぉ』


 正体を現したレヴィアはその全てを撃退。持前の口達者で悪口を言いまくり、彼女らの心に深刻なダメージを与えていた。

 

 陰口を叩いたり叩かれたりするのは日常茶飯事の貴族社会。しかし直接的に言う事は自らの品位を下げる事になるので迂遠な表現が多い。が、レヴィアは悪意をダイレクトに伝えてくる。貴族令嬢の彼女らとて涙目にならざるを得ない。

 

 この結果を聞いたルシアは「しめた」と考える。彼女の振る舞いをロムルスが知れば失望するに違いない。とはいえ、不信に思われている自分が直接動くべきではない。それとなく伝わるよう別の者を動かした。

 

 が、

 

『フン。今度はそういう手か。どんな嘘を言われようが私の愛は変わらぬ』

 

 ロムルスは歯牙にもかけない。レヴィアを中傷する出来事は以前にも起こっていたらしく、それを解決したのはロムルス本人である。故に彼は全く信じなかった。また同じようなイジメだろうと判断したのだ。

 

 完全に盲目状態にあるロムルス。この時ルシアは気づいた。何故レヴィアが何の演技もせず、令嬢たちを悪口で言い負かしたのかと。

 

 ――美しさと優しさゆえにイジメられやすい子。

 

 偽りの人物像であるが、ロムルスの中では確定している人物像でもある。この間の件でレヴィアはその事に気づいたのだろう。好き勝手に振る舞っても、それがロムルスの目の前でない限り“嘘”と断じられる。つまり裏で好き勝手しても問題にならない。

 

(くっ! 何とやっかいな……)


 いまいましく思いながらも次の工作を仕掛けるルシア。次に行ったのは直接的に武力を持つものを仕向ける事だった。

 

 候補の中には冒険者――それも高ランク冒険者がいる。能力重視で選ばれている為だ。その中には結婚に積極的な者もおり、当然レヴィアを快く思っていない。冒険者ゆえに頭の出来はあまりよくなく、動かす事は容易だった。

 

 しかしそれも失敗に終わる。どんな恫喝も「ハッ」と鼻を鳴らし、相手にしない。当然の如く激昂する冒険者だが、レヴィアは逃走。彼女を探していたロムルスと出会う。ロムルスは彼女をかばい、冒険者を叱責して帰らせた後、「平民だろうが貴族だろうが関係ない。君を守りたい」と告白。逆に二人の絆を深める結果となってしまった。

 

(ああもう、ロムルス様! なんてタイミングの悪い……いえ、もしかして……)


 ルシアの頭にとある予想が浮かぶ。これは全てレヴィアの筋書き通りではないかと。

 

 これまでに毎日のように星の宮を訪れていたロムルス。しかし、襲われるこの時までレヴィアと出会う事はなかった。彼女は謎の潜伏技術でロムルスから逃れ、絶対に姿を現さなかったのだ。その理由をロムルスは『自分は妃にふさわしくない』という思いからだと判断しており、誤解を解こうと必死に彼女を探し続けていた。

 

 そんな時にこの出来事。最高のタイミングで誤解が解かれた訳だ。

 

 ――全てはレヴィアの手のひらの上。

 

 それに気づいたルシアは戦慄した。たかが平民が、公爵令嬢として教育を受けた自分の上を行く。知識のみならずロムルスの后として実際に動いていた自分をだ。これはありえない事だった。

 

(少々舐めていたかもしれません。感情的で短絡的な行動が多い事から、もっと行き当たりばったりな方だと思っていました。……いえ、もしかして……わたくしの前で正体を現したのも作戦だった!? なんて知恵の回る女なの……!)


 ルシアは己の油断を悔いる。

 

 もちろんその殆どは勘違いと偶然、そしてギャルゲー計画によるものなのだが、彼女が知るべくもない。恐ろしい女を相手にしているとルシアは認識。警戒を強め、次こそはと計画を考え始めるのであった。




「…………」


 翼の宮にある自室で、一人悩むルシア。椅子に座り、紅茶を口にしつつもその表情は険しい。

 

 失敗した。もっと調べてから動くべきだった。拙速より巧遅を選ぶべきだった。自分に対し初対面で正体をバラした間抜けな女。そう思っていた故に油断してしまったのだ。

 

 遅まきながらレヴィアについて調査を命じたルシア。その報告を受けた彼女は理解したのだ。状況は既に詰みつつあると。

 

 星の宮で行われていた事。出会いから始まり、様々な困難が起こり、幸せな結末を迎える。間違いなくレヴィアがロムルスを落とす為に計画し、実行したものだ。これをされればどんな男とて心を動かさずにはいられないだろう。まるで一つの物語を見ているようだった。


 結果としてレヴィアはロムルスの揺るぎない愛と信頼を得ており、それはちょっとやそっとじゃ崩れない。むしろちょっかいを出した分だけ強くなりそうだ。故にルシアは様々な計画を考えてはいるものの、行動に移せないでいた。

 

 とはいえ、本当に何もしない訳にはいかない。ロムルスの……ひいては国の将来がかかっているのだ。故に彼女はこうして考え込んでいるのである。

 

(本気で暗殺を考えるべきでしょうか? 后になってからよりは、候補の時にやる方が動揺は少ないでしょうし。……いえ、その場合ロムルス様が暴走する可能性があります。いっそ后として認めて、徐々に教育していくとか? 后になれば案外マトモに……いえ、ないでしょうね)


 今のレヴィアの振る舞いからそれはないと判断。后になる事自体を阻止せねばならない。

 

 しかしその方法が全く思いつかない。いや、思いつかなくはないのだが、どれも利用されてしまいそうなのだ。仕掛けるたびにロムルスとの絆が強まってしまいかねない。

 

 険しい顔で考え続けるルシア。そんな時、扉の外の従者が来客を伝えてきた。

 

 恐らくは妃のうちの誰かだろう。遅々としてレヴィアの排除が進まない事に焦っているのだと思われる。

 

 彼女らをなだめるのも自分の役目。そう考えているルシアは快く入出を許可する。

 

「ルシア様。ご機嫌麗しゅう」

「クリスタ?」


 入ってきた者の姿にルシアは少し驚く。長い茶色の髪に、優しそうな瞳の女。ロムルスの第四妃、クリスタ・ヴィペールであった。

 

 彼女とルシアは仲がいい。出身が公爵と男爵という地位の違いはあれど、親同士の仲が良く、幼い頃からの友人だ。少々内気なれど、周囲を気遣う優しさを持っており、后の中でも評判は良い。その優しさは平民にも向けられているらしく、彼女の地元たる男爵領での人気も高いのだとか。

 

 ルシアからすれば妹のような存在。ロムルスが困った弟とすれば、クリスタは聞き分けの良い妹といった感じだ。もっとも男爵家という貴族の中でも低い出自ゆえ、幼少時にロムルスとの面識はないが。

 

 その訪ねてきた妹分は恐縮しながら言う。

 

「あの、すみません。ルシア様はお忙しいというのに」

「いいのよ。ちょうど考えが詰まっていたところだし。さ、座って」


 ルシアはにっこりと笑いかけながら椅子をすすめる。その言葉に従い、クリスタはルシアと対面する場所に座った。

 

「それで、どうしたの? 何か相談事?」


 クリスタの雰囲気から何かに悩んでいる事をルシアは察していた。その予想は正しいようで、彼女は下を向いて話すか話すまいか悩んでいる様子。しかし少しだけ間を開けた後、話し始める。


「ええと……レヴィアという女の件、何とかなりましたでしょうか」


 どうやらクリスタも心配に思っていたらしい。頭は良いが、政争の類には全く関わろうとしない彼女。いや、関わらない故に気になるのかもしれない。レヴィアが妃になれば英雄殿の中は間違いなく荒れ、なし崩し的に関わらざるを得ないのだから。

 

 彼女の言葉にルシアは首を横に振って返答。

 

「残念ながら、今のところは全く……。わたくしの策は全部レヴィアに見抜かれてしまっていたみたい。ロムルス様の愛は日に日に強く……」

「そうですか……」


 目を閉じ、何かを考えているような姿のクリスタ。もしかして何か策があるのだろうか。

 

「何かあるなら教えて頂戴。頭の良いアナタですから、わたくしよりもいい案が思いついたのでは?」

「いえ、その……す、すみません。実はロムルス様にお願いがあって。ルシア様から言って頂けないかと……」

「お願い?」

「はい。東の方に魔王の異形が出現したのはご存じでしょうか?」


 異形。魔物とは明らかに違う様相で、ここ数か月の間に突然現れた存在。タイミング的に魔王が関わっている事は間違いなく、その不気味な姿から人々に“異形”と呼ばれ恐れられている。

 

 幸いにして王都周辺での目撃事例は無いが、東部では頻繁に出現しているという。現状はその土地の領主が対処しているものの、中には強力な個体もいるらしく、馬鹿にならない被害が出ているのだとか。当然その事はルシアも知っている。

 

「勿論よ。援軍を求める声が王都にも来ていて、明日には軍が出発するはずだわ」


 クリスタの問いにルシアは答える。クリスタは「そうですか……」と浮かない顔のまま言った。しかし、そのうち意を決したように口を開く。

 

「あ、あの! 救援にはロムルス様も同行して頂きたいんです! 元々は同行して下さる予定だったらしいんですけど、途中で行かないという事になったらしくて……」


 その事についてもルシアは知っている。レヴィアに篭絡され、王都を離れる事を惜しんだロムルスは「あ、やっぱなしで」とキャンセルしたのだ。

 

 あまりにも愚かな振る舞い。とはいえ、次期国王たる第一王子が前線に向かうなど普通はしない。ロムルスが例外なだけだ。故にルシアはその事についてうるさく言わなかった。

 

 ルシアは考える。クリスタの言う事も分かるが、ロムルスの身も大事。跡継ぎという点ではカエサルやパオロという有望な男子もいるにはいるし、ロムルスの“炎剣”であればほぼ間違いなく一蹴できるだろうが……。

 

 しかし何故彼女はロムルスの出兵を望むのだろうか。クリスタの実家の領地は東部ではなく、西部の方だ。民思いの彼女の心がそうさせるのだろうか……?

 

 疑問に思うルシアだが、ふと閃く。

 

(ロムルス様が出兵すれば、一時的にレヴィアは無防備になる。そうすれば……いえ、違う。そうではなく、もっと……)


 顎に手をやり、考えを巡らす彼女。ロムルスがいない。ロムルスの目が届かない。千妃祭まで残り二週間を切ったので間違いなく渋るだろう。だが王都から離す事が出来れば……。

 

「……いいでしょう。わたくしからロムルス様に……いえ、宮廷に働きかけてみるわ」

「本当ですか!?」

「ええ。魔王の異形といえば近い未来戦う相手。そしてロムルス様が連合国の主力になる可能性は非常に高い。戦った経験はないよりある方がいいでしょう」

「あ、ありがとうございます!」


 笑顔を見せるクリスタ。その笑顔に「いいのよ。ロムルス様の為にもなる事なんだから」と返す。そして彼女との会談を切り上げると、ルシアはさっそくとばかりに王宮へと向かう準備をする。出陣はもう明日だ。それまでに有力者たちに働きかけなければならない。

 

「ルシア様、よろしくお願いします」

 

 クリスタに見送られ、鷹の宮を出る。思いついた計画を頭の中で練り続けつつ、ルシアは振り返る事なく王城へと歩みを進めた。

 


 

 故に、彼女は気づかなかった。

 

 

 

 ――己の後ろにある、暗い笑みに。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 大事なところでポカするのがレヴィアっていう認識 相手側視点で語られるのって結構好きです ルシアさんがんば〜
[良い点] 主人公が相手を手玉に取る流れがすごい好き [一言] 「あ、ミスった」とか言って失敗しなければいいけど……
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