077. ロード・オブ・傾国
しかしその超理論は正しかったのか。
それからのロムルスは他の女に目もくれず、星の宮へと通い詰める。
午前中にパパッと仕事をこなし、ランチタイムから夕方まで星の宮で過ごす。そういう生活であった。
とはいえ、王族の公務が午前中だけで終わる訳が無い。放置状態にある仕事はいくつもある。
「お、王子! 軍と共に東部へ向かう件は……!」
「ああ、それか。キャンセルだ。私は忙しい」
「王子!?」
そのうちの一つを持っていた将軍が焦りながらロムルスを追う。しかしロムルスは相手にもしない。
(早く会いたい……。最近ようやく自然な笑顔を見せてくれるようになったのだ。またあの笑顔を、声を聞きたい……)
女とみればすぐ手を出す彼。しかし今回は別だった。とある理由により千妃候補には手を出さないと決めていたのもあるが……逢瀬を重ね、相手の心を解きほぐす過程がとても楽しい。他の女の妨害を退けたり、レヴィア自身の心の問題を解決したりと、起こる出来事が非常に多いのもその一因だろう。控えめに見せるかすかな好意はとてもくすぐったく、心がきゅんきゅんする。まるで恋愛小説の世界に入ったようだ。
もちろんこれは偶然ではない。レヴィアたちが行った作戦の一環である。レヴィアは男のロマン……すなわちギャルゲーを参考にした計画を立案し、現実で再現していたのだ。魅力的なヒロインにシナリオまで加わったとなれば、如何に王子とはいえ陥落せざるを得ない。激ハマリするのも当然であった。
今までの出来事を思い返し、ニヤニヤしながら王城を歩くロムルス。今日はどんな事が起こるのだろう。いや、起こらずとも構わない。彼女と一緒にいれるのであれば……。
「ロムルス様」
そんな感じで気分よく歩いていた彼。しかし背後から聞こえてきた声にビクリと体を震わせる。非常に苦手な声だった。
出来れば無視したいのだが、無視するとさらに長い説教が待つ事になる。故に仕方なく振り向くと、案の定厳しい顔をしている金髪縦ロール……ルシアがいた。
「や、やあルシア。元気かい?」
「元気かい、ではありません! 何ですか最近のロムルス様は! たるんでいるというレベルではありませんわ!」
早速とばかりに説教が始まる。それら全てがもっともな内容だった。
この国の実質的最高権力者であるロムルス。彼でなければできない仕事は多い。なのに定時帰宅どころか喫茶店でサボる営業以上に仕事をしない。政務は滞り、部下たちの忠言も耳から耳。傾国の美女にハマッた男そのものである。
「困ったところは多々あれど、それを上回る功績をロムルス様は残してまいりました! が、最近はぼけーっとしているだけ! 全く集中しておられない! このままでは宮廷どころか民にまで影響が出てしまいますのよ!? いえ、既に出ているとの話も聞きます! ですよね将軍!」
同行していた将軍へと目を向けるルシア。将軍はうっと声を詰まらせた。確かにその通りだったが、ロムルスの前で全肯定するのもはばかられるのだろう。
しかし彼女はその沈黙を肯定と見たらしく、再びロムルスを睨む。先ほど同様ビクリとなるロムルス。
延々と続く説教。しごくもっともな内容ばかりなので下を向いて聞き続けるしかない。しかしその圧力に慣れてきたロムルスは次第にうざったくなってくる。
(ああ、早くレヴィアの元へ行きたいのに。なんでこんなどうでもいい事を聞かねばならぬのか。早く、早く……)
「聞いているのですかロムルス様!」
「聞いているさ。うるさいな……」
「うるさい……!?」
ぽろっと出てしまった本音。その言葉に彼女は声を詰まらせた。やべっという顔になるロムルスだが、時すでに遅し。吊り上がり気味の彼女の目がさらに吊り上がってゆく。
結果としてさらなるお説教が待っており、ロムルスは否応なしに政務に戻される事となってしまった。




