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050. 謎の遺物

「ふう、ようやく終わりましたか」


 レヴィアは額の汗を拭う。

 

 あの後、ルゾルダにトドメを刺した純花は後方へ向かい、苦戦する聖騎士たちへ助けに入った。かなりの傷を負った聖騎士たちであったが、純花無双の末に魔物は全滅。ほぼ同じタイミングでレヴィアたちの方も撃退に成功。

 

「危機一髪だったわね。ネイとスミカが来てくれてよかった」

「ええ。二人がいなければ少々マズかったですわね」


 リズの言葉にレヴィアは同意する。

 

 その当の二人であるが、何やら気まずそうな雰囲気だ。今までのように嫌い合っている感じではなく、どう接しようか迷っているような感じだった。

 

「皆様方。すまないが手を貸してほしい。前衛二人の疲労が激しいんだ」


 ギルフォードの声に聖騎士たちの方を向くと、疲労困憊な様子だった。傷こそ治癒魔法で治っていたが、魔法では失った血液や体力などは取り戻せないのだ。

 

 力に優れるネイと純花が聖騎士二人を支え、一行は三人が逃げた方の通路へと進む。

 

 一連の出来事の犯人がいなくなったので安全だとは思うが、魔物培養器(クレイドル)から新たな魔物が出てこないとも限らない。流石にここで休むのは危険だ。かといって戻った場所は籠城もままならない研究施設。故に一行は先に進む事にしたのだ。

 

 暫く道を歩くと、格納庫のような場所にたどり着く。そこには先ほど戦ったルゾルダと同型の機械が数体あった。頭部と胴体だけの未完成品であったが、その全てに真新しい爆破跡がある。恐らく先ほどの三人が逃げ出す際に破壊したのだろう。こちらの戦力となる事を恐れたのだと思われる。

 

「ルゾルダか……。恐ろしい兵器だった。勇者様がいなければどうにもならなかったでしょうな」


 ギルフォードの言葉にレヴィアは同意した。

 

 恐るべきパワー、巨体に見合わぬスピード。

 

 それだけでも脅威だというのに、メインとなる材質は恐らく希少金属であるミスリルだ。そんなのを切るなど不可能なので純花がいなければやばい所だった。関節部を狙うという手もあるが、頭が吹っ飛んでも動く兵器なのだ。相当の持久戦を覚悟する必要がある。


「ここにあるって事は、アイツらが持ってきた訳じゃないみたいね。こんなのまで作るなんて、古代の人たちって一体どれだけすごい技術を持ってたのかしら?」

「魔法技術、機械技術共にものすごいレベルでしょうね。少々甘くみていましたわ」

 

 今までに多数の遺物を見てきたレヴィアであったが、あそこまで高度な遺物は初めて見た。魔物培養器(クレイドル)も高度といえば高度であるが、あっちはバイオ技術なので魔法のある世界ならありそうな感じがした。

 

 対し、ルゾルダは完全に機械である。それもヒトガタの。

 

 ヒトガタの機械を動かすのは難しい。地球でさえそれが実現したのはほんの少し前で、その大きさはせいぜい人間レベル。それが十メートル以上となれば物理的な制約も出てくる為、現段階では不可能だ。

 

 つまりこの世界の古代文明は地球よりもはるか上の技術を持っていたと考えるべきだろう。ファンタジーの土人集団と考えるのは改めるべきかもしれない。

 

(……機械?)


 ふと、レヴィアの心がざわめく。何か不安のようなものがよぎったのだ。その正体を確かめるべく機械関連の事を思い出そうとするが、何も思いつかない。純花に関係しそうな気がして彼女を見るが、やはり思いつかない。

 

「む? 入ってきた場所と同じような坂道があるな。ここから外に出られるのだろうか」


 そんな考え事をしている中、ギルフォードが発言。その声が自分に向けられている事に気づき、レヴィアは思考を一旦中止して答える。


「恐らくそうでしょう。この巨兵たちの出入口が必要でしょうし」

「成程……。ならば貴殿らは先に行き、魔物培養器(クレイドル)を探してくれないか。ここならば退路もあるし、部下を休ませたい」

「了解しましたわ」


 体力の消耗が激しいギルフォードたち四人はここで待つ事になり、レヴィアたち四人は先に進む事となった。

 

 格納庫から続く道に入る。先ほどまでは天井が非常に高い場所だったが、この辺はせいぜい二、三メートル。あちらがルゾルダが通る事を想定しているとすれば、こちらは人間用の通路だろう。

 

 右の部屋を眺めれば、万全な状態の遺物がいくつも転がっている。過去に来た魔王の軍勢はここを見つけられなかったようだ。よみがえった魔王の部下たる彼らもここまで破壊する時間はなかったらしい。

 

 ただ、魔物培養器(クレイドル)は無事ではなかった。発見したそれは煙を吹いており、故障していた。恐らくケモミミたちが無茶な生産をしたのだろう。昨日に比べれば今日の魔物は少なかったので、今日のは元々想定外だったに違いない。故に無茶な使い方をせざるを得なかったのだ。


 その後も調査を続けるが、帰還に関するようなものは見つからない。ここまでに見た設備を思い返しながらレヴィアは考察。

 

「ふむ、どうやらここは兵器関連の施設みたいですわね。恐らくさっきのルゾルダとやらを製造する場所でしょう」

「って事は、ここには……」

「無いでしょうね。帰還の為の遺物は」


 純花はがっくりと肩を落とし、うなだれた。運よく遺跡を見つけたと思えば、中身はハズレだったのだ。ハシゴを外された気分なのだろう。

 

「ゆ、勇者……いや、スミカ」


 その純花に対し、ネイは絞り出したような声で話しかけた。

 

「その……気を落とすなよ。まだ一つ目なんだ。次こそはきっと見つかるさ」


 気遣うような言葉だった。その言葉を不思議に思うレヴィア。さっきは怒っていたはずなのに。


「いや……」

「それと、すまなかった。お前の大事なものを踏んでしまって。申し訳ない」


 それどころか頭を下げた。一体どういう心境の変化だろうか。そもそもからして今のネイはおかしい。いつもの感じなら秋波を送っていたジェスの事でヘコんでいるはずなのに。もしやニセモノ……?


「……まあ無事だったんだし、いいよ。それよりこっちもゴメン。ネイさんの事、勘違いしてた」

「勘違い……? い、いや、確かにそうだが、何故……」

「えっと……全部聞いてたんだ。地下で喋ってたの」

「!?」


 謝罪を返してきた純花を不思議がるネイ。そして理由を聞き、恥ずかしがるようにのけぞった。

 

「そ、そうか。因みにどこから聞いてた?」

「……私の話をし始めた辺り?」

「! そ、そうか! それなら、まあ……」

 

 明らかにほっとした様子のネイ。何か間抜けな事をやらかしたのだろうとレヴィアは察する。どうやらニセモノではなさそうだ。

 

「と、とにかくお互い色々と勘違いしてた訳だ。タイミングも悪かったしな。これで手打ちとしないか?」

「……いいの?」

「勿論だ。泣いている子供を放っておくなど私にはできんからな」

「……泣いてなんかないけど」

「フフッ。そうか、そういう事にしておこう」


 ネイはちょっぴり大人ぶっている。対し、純花はふいと視線をそらして恥ずかしがっていた。経緯はよく分からないが、和解している雰囲気であった。

 

「よかった。仲直りしたみたいね。純花、やればできるじゃない」

「まあ……。その、リズもありがと」

「どういたしまして。これからもよろしくね」

「うん。よろしく、二人とも」


 それどころか三人で仲良くなっている。

 

 ……というか二人? 二人って……。


「あっ! あれは何!?」


 レヴィアはテキトーな方向を指差した。ただの壁で特にめぼしい物はなかったが、自分の存在を主張しておきたのだ。ここで主張しておかねば自分を放置して三人でキャッキャウフフしそうな雰囲気だった。

 

「何って……」

「ただの壁じゃないか」


 そう言いつつも、ネイは何があるのか確かめようと壁に近づく。そして何気なく壁面に触れると――

 

「おわっ!」

「ネイ!?」


 何と壁にめり込んでいった。一行は驚きながら彼女がめり込んだ場所へ近づく。

 

「何これ。壁の中に入れる?」

「見た目は周りと全然変わらないのに……。レヴィア、良く見つけたね」


 リズは不思議がりながら壁に腕を突っ込んでおり、純花はレヴィアの洞察力に感心していた。

 

「お、おほほほほ! まあ純花の為ですからね! 気をとがらせて探してましたのよ」

「そっか。ありがとう」


 思いっきり虚勢を張るレヴィア。ちょっと気まずいと思いつつも、自分の存在を主張できたので結果オーライ。

 

「皆、来てくれ。奥に道が続いている」


 めり込んだ先からネイの声が。三人が先へ進むと、確かに奥に道が続いている。

 

 その先には仰々しいまでに装飾された扉があった。黄金や宝石で彩られ非常に豪華だが、同時に神聖さも感じられる。中心には何らかの紋章が描かれているようだ。 


「ル……ルディオス?」


 その扉に書いてある文字を純花が読むと、一行は文字を凝視しながら口を開く。

 

「えっ? ルディオスって、確か一番偉い神様の名前よね?」

「そうだ。最高神の名だな。この名前が記されているという事は……」

「何か重要な物があるかもしれませんわね。例えば精霊石のような」

「……!」


 三人の言葉を受けた純花は飛び出すように前へ走り、扉を押す。が、開かない。取っ手も何もないので横に開く訳でもなさそうだが……。

 

「待って。隣に操作盤がありますわ。恐らくカギかパスコードのようなものが必要――」


 ガァン!!

 

 レヴィアの言葉を聞く間もなく、純花は扉を蹴り倒した。十センチはある丈夫な金属扉が大きくへこみ、吹っ飛んでいった。


 中にもう一つ同じような扉もあったが、同様の末路をたどる。その先に入った純花たちが見たものは――

 

「こ、これって……」


 部屋全体に緑色の紋様。

 

 複雑な形を描いたそれは部屋の中央へと収束しており、中央には謎の物体が浮いている。

 

 緑色に輝く縦に細長い八面体。大きさは両手で持てるくらい。材質は不明だが、何かの結晶のようにも見える。

 

「わっ」

 

 純花がそれを手に取ると、部屋の中が薄暗くなってしまった。部屋全体の緑色が輝きを失ったのだ。

 

 その現象に少し驚きつつも彼女は手に持った物体を見つめ、首をかしげる。

 

「何だろコレ?」


 道が隠されていたり扉が頑丈だったりしたことから重要な物であることは予想がつくが、何に使うものなのか全く分からない。

 

「ふーむ。何だろうな。説明書きとか置いてないか?」

「部屋の中には無いみたいだけど……ちょっと貸して」


 リズは純花からその物体を受け取ると、意識を集中している。

 

「すごい魔力。精霊石に似てるけど、ちょっと違う? 風の精霊魔力(マナ)がたくさん……」

「ふむ、似てるという事は、似たような使い道をするのか?」


 ネイは思いつきの言葉を軽く口にした。その言葉に純花はぴくりと反応。


「じゃあ、もしかして帰るのに使える……?」

「うーむ。リズ、どうだ?」

「分かんないけど、可能性はあるかも。召喚に使った精霊石に似てるし、扉に一番偉い神様の名前も書いてあったんでしょ?」

「……!」


 リズが自らの予想を言うと、純花はその顔に喜色を示し、弾んだ声で言った。

 

「そっか……! それで、どうやって使うんだろ?」

「セントリュオでは儀式をやって召喚してたけど……ちょっと分からないわね。資料を探してみて、見つからなかったらセントリュオに……」


「魔法都市」


 レヴィアがぼそりと呟く。

 

「魔法都市なら分かるかもしれませんわ。色々な魔道具を研究して、日々新しい技術を生み出しているとか。それに、召喚した本人らが素直に帰してくれるとも思えませんし」

「確かに……」


 レヴィアの予測にリズも同意する。彼らの目的は魔王の討伐だ。仮に知っていたとしても正直に答えるはずがない。魔法都市でも分からない場合は別途考える必要はあるが……。


 とにかく目標はできた。完全に手探り状態だった事からすれば大きな進歩である。ネイは純花に対し、笑顔を向けた。


「よかったなスミカ。希望が見えてきた」

「うん……!」


 純花も笑顔を返す。彼女がこの世界に来て、初めての心からの笑顔であった。


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