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044. パパは空気です

「純花! 聞いてますの!?」


 耳元でカン高い声が響く。それを意図的に無視し、純花は調査を続ける。

 

 どれも関係ない記述ばかりだ。軍事目的の研究内容ばかりで、純花が欲する帰還の”き”の字も無い。イライラしながら紙を机に戻す。

 

(ここには無い。次)


 憮然としつつ部屋の出口へ向かう。相変わらず片耳から説教の声がするも、純花は反応を返さないでいた。色々と言われているが、要は「やりすぎ」という内容の繰り返しだった。

 

 そうは思わない。純花からすれば首を折らなかっただけマシだと思っている。とはいえ口に出せば反論が返ってくるだろう。故に相手にするのも面倒。無視一択。

 

 ふと、目の前が明るくなる。いきなりの(まぶ)しさにまぶたを閉じ、再び開けると、天井の明かりが灯っていた。天井や壁、床の一部には緑色の淡い光の線が走っており、特徴の無い施設が一気にSF的になった。

 

「電源が入った? 誰かがつけたのでしょうか?」


 レヴィアは警戒した様子を見せる。どうやら辺りに電気が来たらしい。いや、電気ではないかもしれないが、とにかくエネルギー源から動力が供給されたのだ。

 

 原因は不明だが、今の純花にとっては朗報である。物が探しやすくなるし、書類もよく見えるようになる。純花は歩みを進め、次の部屋へと移動した。

 

 机や棚をひっくり返し、資料をあさる。やはり見つからないが、無ければ次に行くだけだ。

 

「純花。一度戻りますわよ。ネイも気になりますが、流石に戻ってくるでしょう。もし戻らなければ他のメンバーと合流してから……」


 どうでもいい。それよりも調査だ。ネイや他のヤツの事など気にしてられない。死のうが何だろうが知った事ではない。そんな事よりも早く――

 

 

 

 ――パァン!

 

 

 

 頬に痛みが走る。何だろうと正面を見ると、赤い頭巾――リズが目を吊り上げていた。

 

「スミカ。いい加減甘えてんじゃないわよ」


 ……甘える?

 

 この子は何を言ってるのだろう。甘えてなどいない。自分だけを頼り、他人は利用するだけ。甘えてなど――

 

「分かってないようね。甘えるなってのは、自分の感情に甘えるなって事。よく考えなさい。アンタが少しでも早く帰る為にはどうすればいい? 自分一人で頑張る? そうじゃないでしょ」


 …………。

 

 それは、そうだ。

 

 人手が多ければ多いほど調査は進む。遺物だって見つかりやすい。そう思ったからこそレヴィアの同行の申し出を受けた。

 

「勝手に召喚されて、お母さんと離れ離れになっちゃって。辛いのは分かる。余裕がないのも分かる。けど、他人からしたら文字通り他人事なの。悲しくても辛くても知ったこっちゃないの。……だから、上手くやりなさい。完全に合わせる必要はないけど、相手を思いやるような行動が無いと人はついてこないんだから。みんないなくなっちゃえばその分帰るのが遠くなる。でしょ?」


 …………。

 

 確かに、そうかもしれない。

 

 他人をアテにせず、自分だけで頑張る。日本ではそれでうまくいっていた。故に人にどう思われようが問題なかった。

 

 しかしここでは他者を頼る必要がある。なのに自分の行動は変わらず、以前と同じように動いた。己の感情が第一で、人の事など気にもしなかった。その結果がこれだ。二週間も経たないうちに一人と決裂してしまった。


 もちろん言い分はある。が、いきなり拒絶する必要はなかった。冷静に話し合えばよかったのだ。

 

 つまり今までの自分では上手く行かない。やり方を……自分を変える必要がある。

 

 正直、抵抗しかない。他者への気遣いなど殆どしてこなかったのだ。今回のようにこじれてしまう前に対処できるだろうか?

 

 純花の不安。それを感じ取ったのか、リズの表情が優しいものなる。


「大丈夫。上手くいかなくても私とレヴィアがフォローしてあげるから。ああ見えてレヴィアは頼りになるのよ? いつもは困ったヤツだけど、何だかんだで決めるところは決めるんだから。ね?」

「……うん」


 思わず返事をしてしまった。母の事を思い出したからだろうか?

 

 リズとは髪色が同じくらいで、見た目も性格も似てない。説教の仕方もぜんぜん違う。が、本気で怒った時はこんな感じだった。怒られてる途中はへこむが、最後は優しく導こうとしてくれる辺りがそっくりだ。

 

「ほら、行くわよ。とりあえず皆と合流しないと」

「……分かった。そうする」


 リズに手を引かれ、抵抗する事なく従う純花。空気と化していたレヴィアが「リズさんすげぇ……」と小さく拍手している。

 

「何してるの。レヴィア、アンタも」

「お、おう。分かった」


世の中のパパは大抵娘に甘い説。

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