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「ごめん…、俺やっぱり…」
「急にどうしたの?」
「君のピアス…俺…」
浜辺は何のことを言っているんだという目をして僕を見た。
しかし感のいい彼女は、大体の事を想像してしまったらしい。
「ピアス…してこなきゃよかった…。」
浜辺は耳元のピアスを触っていた。
目に薄っすら涙が浮かんでいた。
「ごめん。…本当にごめん。」
上着を着てドアへ向かった。
浜辺が後ろから抱きついてきた。
僕は浜辺をぎゅっと抱きしめた。
長い長いハグだった。
浜辺も僕をぎゅっと抱きしめてくれた。
あの夏の日のたこ焼き屋でいきなりキスされた事や、「おっぱいと東京、どっち?」って睨みつけながら言っている幼い浜辺の顔や、大人になって、めちゃくちゃいい女になって僕の前に現れた彼女の笑顔が頭の中を駆け抜けていく。
「ありがとう。」
そう言うのが精いっぱいだった。
浜辺は僕をドアの外に追い出した。
「もう二度と会ってなんかあげないわ。」
彼女は一度微笑んで、そして強くドアを閉めた。




