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2 責任なんてとれません

「――それでね。婚約破棄されたことをきっかけに私の運命は……って聞いてるのクリス! いま欠伸したでしょ! ていうかあなたくつろぎすぎじゃない?」


 クリスは自分でいれたお茶を飲みながら優雅に足など組んで話を聞いていた。


「だって長い話になるから休んで聞いてちょうだいと仰ったのはお嬢様ではありませんか。ぼくは主の命令を忠実に実行しているだけですよ」

「ぐぬぬぬ……」

「誤解もとけたようですしお話を続けて下さい。お嬢様の気が済むまでお付き合い致しますよ。たまに目を閉じることもあるかもしれませんが、耳はかたむけていますので起こさないで下さいね」

「寝る気まんまんじゃないの!」


 目をつぶりたくなるような話をしておいてなんたる言い草だろうか。自分でなければ一笑して生暖かく見守っていたに違いない。


「よろしいですかお嬢様」

「なによ?」

「はっきり申しまして冒頭が長すぎます。いきなり回想ばかりでは読み手も逃げていきますよ。もっとキャラクターを動かしていく方がよろしいかと」

「なんの話しをしてるのよ?」

「創作の話でしょ」

「違うわよ! 前世の記憶だっていってるでしょ!」

「つまり前世の記憶をもったお嬢様が主人公の物語――」

「違うって言ってるでしょ! あとそういうメタっぽい発言やめなさいよ!」

「めたっぽいと言われましてもなんのことだか」

「だからやめなさいよ! わざとやってるでしょあなた!」


 心外だ。ときおりわけのわからない言葉を使うレイラにツッコミをいれて脱線させてこなかっただけでも感謝してほしい。それほどにレイラの妄想は難解だった。


「だいたいなんで脈絡もなく創作の話をすると思うのよ?」

「書庫にこもっていたのが伏線かと」

「違うわよ!」


 顔を真っ赤にしているレイラの姿もなかなか可愛いのでしばらく見ていたかったのだが、そろそろ本気で怒りそうなのでこのへんでからかうのはやめておこう。それにしても今の話をどう受け止めるべきか……。


「創作うんぬんの話はいったんおいておきましょう」

「あなたが言いだしたんでしょ!」

「まあまあ……それでお嬢様は記憶にある未来が現実となることを恐れておいでだと……そういう理解でよろしいですか?」

「そうよ。婚約破棄されてから階段を転げ落ちるように破滅の未来へね……」

「まずはそこですよ」

「そこって?」

「そもそもお嬢様はまだ婚約されおりません」

「え! そうなの……でも言われてみればそんな記憶ないわね」

「お嬢様の話ではブルーム王国第三王子と婚約しているとのことですがぼくも初耳ですよそれ」


 まあ妄想なんだし当然なのだが……野暮なことは言うまい。


「そうよ! そのとおりだわ! やるじゃないクリス!」

「はぁ……恐縮です」


 浮かれるレイラの姿を見てほっこりする。何がそのとおりなのかはよくわからないが……。まあ壁を突破されたのだろう。創作のことはよくわからないが産みの苦しみというやつだ。めでたしめでたし……。


「さっそくお父様のもとへいくわよクリス!」

「は? なぜ旦那様のもとへ?」

「そんなのきまってるじゃない!」


 嫌な予感しかしない……。


 事情を聞く間もなく書斎へとずんずん進んだレイラに即されて入室の許可をとる。なぜ自分がこんなことを?


「失礼いたします旦那様」

「かまわん。クリス……とレイラ? 二人そろってどうした?」

「お父様に申し上げることがありますの。クリスはその証人ですわ」


 いったい何を言い出すのだこのお嬢様は?


 クリスが戸惑っているとレイラは大きな声で宣言した。


「わたしは結婚いたしません!」


 万年筆をもったまま呆気にとられる旦那様が不憫でしかたがない。誰がこんな育て方をしたのか。とても伯爵家の一人娘の発言ではない。


 意識を取り戻した当主がクリスに視線を移したが、何も答えることができなかった。まさか妄想の果てにこんな行動に出るとは思ってもみなかったのでゆるしてほしい……。


「レイラ……きみはいきなりなにを言い出すんだね?」

「ですからわたしは結婚しませんと言っているんです!」


 勝ち誇った顔を向けるのはやめて下さい。巻き込まれるのはごめんです。


「クリス……これはいったいどういうことなのかね?」

「えっとその……創作――」


 キッて睨むのやめて下さい。


 板挟みとなったクリスは頭を捻り必死に言葉を紡ぎ出した。


「つまりですね……どこかの家……例えば王族との婚約をお考えなら待ってほしいとお嬢様はおっしゃっておりまして――」

「結婚しません!」


 黙ってろと視線を向けるがどこ吹く風。意趣返しのつもりなら状況を考えてほしい。浅はかなお嬢様め……。


「ほう……王族との婚約か。また具体的な例えだね?」

「いえ……あくまでお嬢様のお考えでして」

「なるほどレイラは王族とは結婚したくないと?」

「はい、お父様。もっといえば第三王子と婚約したくありません」


 どこまでぶっちゃける気なのお嬢様? 怪しまれるでしょうそんなこと言うと。ほら見たことか。当主が眉間に皺を寄せている。


「これは恐れ入った……完敗だよクリス」

「は?」

「レイラをその気にさせる前に牽制されたわけだね。現王族の血を我が家へと考えて話を進めていたのはたしかだ」


 マジですか? 家格的にも有りと言えば有りだが一人娘を嫁に出すとは思っても見なかった。


「婿養子は難しいだろうが子供の一人でも跡取りに出来れば我が家は安泰だからね。わたしとしても考えてはいたさ」


 お嬢様がほらねって感じでこっちを見るのでそれ以上はやめてほしい。


「とはいえ現王家とはあまり親しい間柄ではないからね。無理矢理とは考えていなかったさ。レイラも喜ぶかと思って進めていたぐらいだよ」


 まあ妄想を膨らませる前のお嬢様なら王子様との婚約という、貴族令嬢の夢みたいな展開を大いに喜んだことだろう。しかしいまは違う。


「お父様、わたし第三王子とは婚約いたしません」

「わかったわかった。きみがそれほどまで拒むとは予想外だったが理解した。それで……クリスにいったいなにを吹き込まれたんだい?」

「何も吹き込んでなどいませんよ!」

「そうですよ、お父様。これはわたしが導き出した答えです」

「ほう……でもきみは最初に結婚しないと言っていたね。まさか一生一人で寂しく生きていくつもりだったのかい?」

「それなら心配無用です。だってクリスが一緒にいてくれるって言いましたから」

「ほう……」


 旦那様がニコニコしていらっしゃる。あらぬ誤解を生んだことにクリスは猛烈な後悔をしたのだった。



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