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1 わたし告白します

 今年で十五才になるレイラ・ベル・ガードナーは温かい家族に囲まれて蝶よ花よと育てられた結果、それはそれは美しい令嬢に成長していた。


 青みのかかった銀色の髪は雪解けの小川のように清らかで、青い瞳は澄んだ泉を思わせる、まるで水の妖精が生まれ変わったかのような美少女だった。


 加えて教養を身につけたレイラはどこに出しても恥ずかしくない伯爵令嬢となり近い将来、王族と婚約するのではまことしやかに囁かれていた。


 そんなおりにおとずれた突然の事故。とあるパーティでなれないヒールを履き、足をすべらせたレイラは階段から転げ落ちてしまった。


 だがそれが運命の岐路となる重大な出来事だった。すなわち――。


 前世の記憶がよみがえった!


「うっそ! マジ?」


 気絶してから目を覚ました第一声である。とても淑女らしくない言葉を発してしまったと反省していると、執事のクリスが怪訝な顔をして頭を検査しはじめた。失礼しちゃうがわからないでもない。現世の記憶もしっかりあるのでレイラの勘違い貴族っぷりを見てきたクリスが戸惑うのも無理はないだろう。それにしたって頭さわりすぎでしょ。かなり恥ずかしいんですけど?


 ともかくベッドの上で記憶の糸ををたぐり寄せながらブツブツと物思いにふけるレイラの姿は実に奇妙であったがそんなこと気にしてる場合ではない。


 クリスのやさしい手が邪魔ではあるが今は思考に集中したい。ちょっとやめて、耳に息を吹きかける必要がどこにあるの? くすぐったい!


 心配しすぎのクリスが邪魔をしてくるので、その日は考えるのをやめてされるがままにして屋敷へと帰った。


「今晩はお嬢様が寝付くまでお側におります」

「やめてよ恥ずかしい!」


 翌日からレイラは屋敷の書庫にこもった。果たして前世の記憶が正しいかいなかを調べるためだ。その結果……。


「間違いない……この世界は乙女ゲーの世界でわたしは……わたしは……」


 悪役令嬢だ!


 現世でプレイした乙女ゲーの世界と酷似した記号の数々を照らし合わせると、まずまちがいなく主人公を困らせては徳を減らしていく悪役のなかの大本命レイラ・ベル・ガードナーそのひとであった。


「いやいやまだ悪役じゃないか……でも学院に入学して卒業するころには立派な悪役になってる……はず」


 しかしそうと決めつけるのはまだ早いか。レイラはまだ十四才で物語は始まるまでには二年の歳月がある。レイラがなにゆえ悪役令嬢になったのかを知っている自分なら回避できるのではないか?


「そもそもは主人公に手を出さなければいいわけだし……いやでも冤罪も多々あったなあのストーリー……」


 取り巻きによる冤罪もあるしイケメンヒーローたちの勘違いもある。全てを回避することができる自信がない。そもそも運命をねじ曲げることなんてできるのだろうか?


 この世界において正史である悪役令嬢の運命を変えようとすれば歴史の修正力的なものが発生するのではないか? 


 現世の父の影響でわりとSF好きだったレイラにはそのあたりが大いに引っ掛かった。


「じゃあどうするって話なのよね……」


 正史を受け入れるなんてまっぴらごめんだ。なにせガードナー家は没落するし、レイラは生死不明の行方しれず……なんとなく死んでるのでは? という描写もあった。


 最悪だ。座して待つなんて記憶を取り戻したいまは考えられない。


「お嬢様、根をつめられてはお体に触ります。休憩しては如何ですか?」

「うわっ! いたのクリス?」

「今しがた。お嬢様が本を開きながらブツブツと物騒なことを呟いていたことは知りませんよ」

「ずっと聞いてたんじゃない!」


 まったくもうクリスときたらこちらは真剣に悩んでいるというのに……。まあ事情を知らないからしかたがないのだが……。それにしてもいちいちからかってくるので、シリアスも忘れてついついツッコミを入れてしまう。それもこれもクリスが自分の想像していた執事と違うからだ。


 輝くような金髪にどこか愁いを帯びた蜂蜜色の瞳をもつ美男子な見た目はたしかにレイラのよくしる執事なのだが、その性格がイメージと違う。


 悪役令嬢の執事とあって出番は少ない。ただレイラに忠実で最後は失踪した主についていったほど愛されている。それなのに現世の記憶を思い出してみても腹の立つことばかりでしょっちゅうからかわれていた。主従の関係とはとても思えないほどだ。だけど……クリスだけは信用できる。それだけは間違いない。


「クリス……もしもわたしが失踪したら……どうする?」


 真剣に話せばクリスは真剣に答えてくれる。だから……。


「すぐに探し出して連れ戻しますよ」

「帰る家がなくなってたら?」

「変わりません。ぼくのもとへ連れ戻します」

「その後は……?」

「一緒にいますよ……ずっと」

「クリス……それって――」

「失礼。訂正いたします。ぼくの足下へ連れ戻して飼ってあげましょう」

「わたしは犬か!」


 絶対この男はサドだ。そもそもからかうという行為からして……。


「まあいいわ。あなたなりの照れ隠しなんでしょうからね」

「おやおや、これはまたとんだ勘違いを……まあいいでしょう」


 こいつは……主従関係を無視してこの言いよう。本来ゆるされないことなのだが、それは過去の自分が望んだことだ。だからこそ本音も聞けるし信用もできる。


 一人で思考しいきずまっていたレイラは決心した。


「あのねクリス……大切な話があるの」


 レイラはクリスに告白するのだった。


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