プロローグ
お嬢様の様子がおかしい……。
クリス・オブ・ミラーがガードナー家の令嬢であるレイラ・ベル・ガードナーに仕えて五年経つがここ最近のレイラの姿は別人のように見えた。
具体的な話をするにあたりレイラがいかに素晴らしい淑女であるかを説明せねばなるまい。ブルーム王国において西の要所を預かるアルバート・G・ガードナー辺境伯の一人娘であるレイラは蝶よ花よと育てられたこともあり、世間知らずのわがままな令嬢――つまり生意気なありふれた貴族のメスガキに育った。もちろん冒頭は皮肉である。
そんなメスガ――貴族令嬢であるレイラがここ最近はわがままどころか使用人に気を遣う姿を度々見せてクリスを驚愕させた。
どこかで頭で打ったのか、あるいは熱で頭がやられたのか、使用人の間で様々な憶測が連日飛び回ったことは言うまでもない。クリスは薬物の可能性を示唆してレイラの部屋を徹底的に調べさせたが何も出てこなかった。浅はかな令嬢のくせに実に手強い……。
そんなある日のことだ。レイラから大切な話があると呼び出された。いよいよ観念してゲロする気になったお嬢様のことをクリスは責めないつもりでいた。誰にだって間違いはある。ことレイラに関しては誰よりも、それこそ家族よりも理解しているつもりだ。だからクリスはレイラの告白を真摯に受け止めることにした。
「あのね、クリス……どうやらわたし――悪役令嬢に転生してしまったようなの!」
「お薬をもらってきますね」
クリスはこの日から悪役令嬢に転生したという妄想に取り憑かれたお嬢様を救うために、知恵を絞り走り回り執事の領分をこえた苦難の日々がはじまるのだった……。
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