表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミレニアムの魔術師  作者: 日南田ウヲ
8/81

7

 空になったグラス。

 その中で溶けだした氷。

 差し込んだストローで氷をくるくるかき回して、グラスの底を覗き込む。


 氷が解けて水になった。その現象を化学式で説明せよ。


 そう誰かに聞かれたら、直ぐに説明できるか?

 僕は首を振る。

 できないよ、難しい。

 でも・・言語の説明、まぁ翻訳はどうだろう?

 それは簡単だ。

 今の時代、スマホのアプリで簡単にできちゃうでしょ?

 だからだから正直翻訳すること自体、必要じゃない時代なんだ。


 だよね?


 それが新しいミレニアムを生きる人類のプラットホームじゃない?世界中の人類が話す言葉なんて誰もが簡単に翻訳出来て、会話ができる。

 聖書に書かれているバベルの塔では、神様が塔に(いかずち)を落としてばらばらになった人類互いの言葉を分からなくさせた。

 でもさ、その人類が現代のスマホを持っていればそんなこと絶対在り得ない。だからそんな説得力の無い説話なんて聖書から削除だよ、おそらく、これからの時代は。

 一昔前なら人間の行動を規律させる説話は沢山あると思う、でもこれからの時代、そうした事柄は人類の意識がアップデートして遥かな彼方へと押しやるだろうね(多分・・・・)

 だからこそ、こいつが訳せないのが解せない。


 あーーー!!

 イラつく!!

 何でさ、訳せないんだ。


 僕は開いてたページを捲り、次のページを見た。


 見ろ。

 ここにはなんか図案がある。

 何だ、これは?

 よく見りゃ、なんかすっげぇQRコードに似てる。

 その下に小さな絵があって、なんかドアが開く絵になっている。


 まぁ絵の意味も正直分からん。


 僕はじっとそのQRコードみたいなものを見つめて、スマホの画面でピントを合わせ、


 カシャ


 写真に撮った。


 読み込めたりして。

 お、ビンゴ!!

 そいつを認識してるのか、読み込みが始まった。

 へー、意外や意外。

 絵画を写真で撮ると顔認証するようにこれをQRコードとして認識しているんだ。

 数秒、時間が過ぎてスマホが急にシャットダウンした。


 あ、なんだ、なんだ。

 大丈夫か?


 直ぐにスマホが再起動した。

 心配ない。

 僕は認証ロックを解除する。

 スマホの画面にはいつも通り自分が使用するアプリが出てきている。


 あ、よかった。


 なんか少しスマホが熱くなっている以外は何も異常がない。充電後の時のようになっているだけだ。

 僕は安心してラテン語の辞典をリュックに入れて立ち上がろうとした。

 その瞬間、


 ゴ・・

 ゴゴゴゴゴゴゴ、


 な、なんだ!!

 大きく建物が揺れている!!


 やべっ‼

 地震だ。


 思うや否や、僕はテーブルの下に急いで身体を潜らせた。カフェ中にガラスの割れる音や客の悲鳴が響き、緊急地震速報の緊急音が鳴り響く。

 頭を抱えてテーブルの下で身体を強張らせる。目の前で空のグラスが落ちてきて割れて氷が飛び散った。

 揺れは一分近く続いただろうか、やがて止まった。


 僕は恐る恐るテーブルから顔を出す。見ればグラス類だけでなく天井から落ちて来た天板やらが割れて散乱している。

 カフェにいる人達は互いに顔を見合わせて無事を確認している。

 僕はカフェの外に出た。

 地震の揺れで急に止まったのかドライバーが青い顔して身体を乗り出して外を見ている。

 見回せば自転車が数台、その他は街路樹が折れて道に倒れている。

 僕は恐る恐る自転車を起こした。

 大きい地震だった。自転車のハンドルを握る手が震えている。

 通りには民家から人が出始めている。

 警察か救急車か分からないけど遠くでサイレンの音が聞こえる。

 僕は身震いしながら思った。

 ミレニアムとか人類の新世紀とか言っても、地球の気候や地殻変動に決して人間はこれからも立ち向かえない、絶対的に。

 今の僕みたいに震えて、街の通りにできている人のように恐れおののくのみだ。


 ひょっとして、

 自分が聖書の事を揶揄したんで

 神様が怒ったの?かな。


 そう思いたくなる程、いいタイミングだった。


 今日はもう家を出ないでおこう。

 じっとしているしかない。

 するとLINEにメッセが届いた。


 #こだま

 やばくなかったか?


 ケイタだ。


 #問題ない、すっげぇ揺れたけど。


 それだけ書いて返信する。


 するとLINEに再びメッセが届いた。

 見れば見たことがない差出人。


 なんだ、

 知らないやつは着信が出来ないようにロックしているはずだ。


 一体誰だ?


 そう思った瞬間、また激しく地面が揺れた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ」

 僕は声を出してスマホと自転車を投げ出して頭を抱えてしゃがみ込んだ。


「余震だ!!」

 誰かが叫ぶ。

 地面が揺れに揺れる。

 右に!!

 左に!!

 僕は頭を抱えてしゃがみ込みながら地面にしがみつくのが精いっぱいだった。目の目を右に左に地面を転がるスマホが見える。


 スマホなんかに構っちゃいられない。


 恐怖に引きつられながら僕は大地にしがみつく。

 その時、転がるスマホからデジタル音声が流れた。


 ピー

 #ロックは解除されました。


 ピー

 #これより人類は至急非難を始めて下さい。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ