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「では、つまりミレニアムロックとはパンドーラの箱を開けるものだったということなんだ」
僕は猪熊に言った。
「そうです。こだま君。ミレニアムロックはつまり世界中の災いを詰めた箱。それを開ける鍵がミレニアムロックです。それが宣教師と共にアジアへ流れてきていた。ルソンの壺・・そのなかの『開かずのルソンの壺』こそがそうだった」
「利休、何故おみゃーはそれを交換にしたんだ」
松本がじっと見つめる。
「それを何に使うつもりだったのか?」
猪熊は続けて言う。
「ルソンの壺を開けて、災いを開放するためです。我らの神の為に」
「我らの神?」
松本が眉間に皺を寄せる。
「それは何だ?」
猪熊が頭を掻く。
「藤吉。私はアジアに流れるまで沢山の所を渡り歩いてきた。歩きながら私は沢山の神の存在を知った。それはこの魔術書が定める神以外の神、そうそれは悪魔ともいわれたりするが、・・私はそんな悪魔と定義されるような神とは違う異質な神を知ったんだ」
「悪魔とは異質な神・・??」
それは・・・
「それはクトゥルフ」
言うや、方丈の囲い窓がいきなり開いた。するとゆっくりとのそりと誰かが入って来る。ぴちゃぴちゃと音を立てながら、そいつはゆっくりと顔を上げた。
「あっ!!お前は」
僕が指差す先に居た者。
そう、それはあの雨の中で会った河童だった。
方丈に上がって来た河童がにやりと笑うと猪熊の方へ歩み寄る。
「大体、お話はおすみましたか?」
赤い唇がにちゃにちゃと動く。
長い髪が濡れていて、シャツにひっついている。
「終わったよ。我らの信じる神の事までお話ししたよ」
猪熊がふふと笑う。
僕は猪熊が言った言葉が分からなかった。
なんだろう
クトゥルフ・・って
僕は松本を見る。
見れば松本はスマホを取り出し、調べているようだ。
せわしくその単語を調べてるのだろう。
何かを見つけたのかじっと見ている。
「分かったの?」
松本が顔を見上げた。
「ええ・・そうですか。成程、こうした神がいたとは」
こうした神?
「それは・・どういう」
僕が聞く。
すると松本が言った。
―――遥かな昔、眷属と共にゾス(Xoth)星系から飛来し、地球に降り立ってムー大陸を支配し、ルルイエと共に海底に没した。「四大元素」論派においては、旧支配者の一柱で「水」を象徴し、水神と解釈されることがある。
「そうとも!!俺にとっては今まで信じて言えた水神なんかよりもはるかにカッコいいのよ!!」
けっけっけと河童が笑う。
「つまりだ利休。お前はバベルの塔を破壊した神以外の神、このクトゥルフを・・ということか」
眼鏡を上げて松本を見る。それはどうだ難しい方程式が解けたかと自慢する先生のような満足した表情をしていた。
「そうだな。以前の地球のあらゆる神など問題ない。新しい神は宇宙の遥かよりこの地球を支配していたのだ。私は発見した。そして奇書である魔術書、それとパンドーラの箱を手に入れ、ルルイエに眠る神が再びこの地球へ出現できるよう、この惑星の真の姿を現したかったのだ」
やはりラスボス。考えていることがスケールがデカい!!
「この地球をクトゥルフが存在していた姿にすること、その為に必要なことがミレニアムロックとパンドーラの箱なんだ」