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ミレニアムの魔術師  作者: 日南田ウヲ
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 小雨が降っている。それが吹く風に舞い上がると気絶して倒れている男の頬を濡らす。

 それがまるで男の悔し涙に見えた。

 僕は松本の言葉に首を傾げる。



 うーーん?

 聞いたこと無い単語だ。


「ですよね?彼らはこの世界の真を『知る』者、あるいは『知恵』を持つ者とも言い、古いケルト民族社会で文字を司る人の事を言うんです。彼らはバベルの塔の崩壊後、遠く離れたブリタニアンに棲み、神の言葉を森の奥深くで研究したと言われています」


 ふーん・・


「つまりそのドルイド達の棲む森はエジンバラに在って、そこがこの魔術書が編纂された場所なのです。そう、魔術書を作ったのはドルイドなんです」

「えっ!!そうなの??じゃあんたはそのドルイドってこと??」

 松本が首を横に振って魔界ジオラマを僕の手から取った。

「厳密には少し違います。ドルイド達が魔術書を編纂しましたが、それら魔術が発動できることを発見したのは全く後世の別の集団です」

「つまり・・発明者とその実験者が違うということか」

 松本がジオラマをなぞる。 

「彼らが存在していたのは四世紀から良くて中世頃迄です。その後、彼らは歴史から姿を消し、現代ではドルイドの知識等を受け継いでるのは魔術ギルドとその旗下に居る魔術師だけです。つまり魔術書はドルイドが編纂つまり発明し、その後現れた集団が実験者の魔術師なんです」

「じゃぁさ、そのドルイドはもう存在しないんだよね・・それでこれが魔術師の仕業でないとすれば??前に言っていたはぐれとかいうの(たぐい)の仕業?」

「それも考えましたが違います。はぐれは確かに魔術師の弟子になった者ですが、破門された者です。破門されると・・『魔』に関する知識はその人物から一切消え去るんです。魔術書がその個人を認めなくなるので」


 ――そう言えば、猪熊が言っていた。

 魔術書は意思を持っていて、自ら認めた者にしか言葉を示さないと・・


「そうなんだ、じゃぁ天草四郎も?」

 松本が頭を掻く。

「ですかね・・彼は言い伝えでは破門後、神の奇跡が使えなくなったそうですからね・まぁ本当の所はわかりませんが・・・」


 そうか・・


「そうです。でも・・?」

「でも?」

「ドルイドと同等の知識力とルーン鉱石やその成分を含むものがあれば、実はこうした『魔』を使うことができるということは魔術ギルドでも分かっているんです」

「ドルイドとして同等?それはどういうこと・・??」

「ドルイドは分かり易く言えば神の言葉を探求する学者で、最も神の言葉を理解しています。それに彼らの多くは魔術書に書かれている言葉を諳んじているものがほとんどでした。つまり魔術書など彼等には元々不要なのです」


 それって凄いね・・


 ドルイドって現代の超一流大学教授の頭脳レベルなんじやない??


「しかし、そのドルイド達でも『魔』の発動の仕方は知らなかった。ルーン鉱石が必要だということを。ただ、時代が下がるにつれやがて自然と彼等の中に神の奇跡を媒介するには何かがあるのだと気づく者が出てきたんです。それで神の奇跡ともいうべき力である『魔』を発動させ、それを自らの私利私欲に使おうとブリタニアの森から出て行ったドルイド達が居た。魔術ギルドではそうした者を『堕落した者』と言います」


 堕落した者・・?


「そうです。まさしく彼らの心に『魔』が差したんです」

「それで・・その後、彼らは」

「欧州をはじめ世界各地へ自ら『魔』の発動の原理を求め散らばっていきました。自らの頭の中に神の言葉を宿して」

「それで・・見つけれたの?魔術の仕組みを」

「ですね」

「ほんまに?」

「ええ、そうです。彼らはルーン鉱石を使って『魔』が発動することを知り得た訳ではないのです。それは油でした」

「油・・?」

「そうです。正確には石油です」

「石油だって?」

 うんと頷く松本。

「石油もまた地球の鉱物資源です。つまりルーン鉱石に含まれる窒素などの成分が微量でも含まれているのです。その為、勿論その魔力は著しくルーン鉱石に比べれば落ちますが、石油のルーン鉱石の純度成分が高くなればそれなりの力を使えます。しかし弱い力を増幅するには彼等には独自の方法があって、それには電気を使います」

「電気・・?全然、関係ないじゃん」

「ええ、何故電気が力を増幅させるのかは分かりませんが、電気は電気でも・・・彼らは動物の心臓を流れる電気を使うんですよ。噂では生きた動物の心臓を瓶に入れて持ち歩くという噂です。その理由は魔術ギルドも今のところは知らないんですが。本当なら狂ってますがね。まぁでも最近は普通に電気を利用してるみたいですが、さっきの魔界ジオラマも乾電池でしたし・・」



 マジかよ・・

 痛い奴らだな。

 この堕落したドルイドって・・



「だから蔑んで彼らの事を昔はこう言ってたんです」

 言ってから松本が激しく魔界ジオラマを地面に叩きつけると、乾電池が飛び出てジオラマが破壊された。

「何と?」

 松本が短いモヒカンを整えて言う。


「魔女と・・」



 魔女だって・・?


 現代にいるの?魔女って?


「じゃ・・あいつが魔女だと?」

「可能性はあります。魔女も僕等魔術師ように人知れず生きています。魔女は本来ドルイドです。彼らが好むのは知識なんです。だから彼らの多くは今でも知識に寄生して生きている、ひょっとすると彼女はどこかの大学や企業等の研究機関とかで働いているのかも知れませんね」


 そう言えば・・

 あいつ、図書館で働いていたな。

 図書館と言えば、知識が詰まった箱舟みたいなもんだ。


「じゃぁ・・あの猪熊も?」

「だと思いますけどね。彼の団体名が確か・・」


『真の地球』

 なんかいかにもそれ臭い・・


「知識に寄生するんだ」

「ええ・・、知識に寄生することで彼らは僕ら魔術師と違う『答え』を探してるんじゃないかと言うのが最近の魔術ギルドの考えです」


 答え?

 そんなもんはどうでもいいや。


 そっか・・

 あの斜め野郎と猪熊はグルなんだな・・

 つまり

 魔女連盟というところなのか・・


 生あったかい心臓を持ってほくそ笑む二人の姿が浮かぶ。



 ぶるっ!!

 こわっ!!

 変態野郎ども、


 ん??


 しかし・・・


 ちょっと


「ちょっと待てよ。そのさぁ、聞くけど魔女って・・不老不死?ずっと生きてるの?」

 松本が少し何か思いつくような素振をして、僕に向き直り笑った。

「いやいや、さすがに寿命がありますよ。彼等も人間ですから」

「転生なんてしないよね?」

「ですね」

「安心したよ。それだったらまるっきりゲームだもんな」 

 外を見れば雨雲が流れて行く。

「見てください。こだま君」

 松本が向うを指差す。

 小雨の向こうで霧が突然現れて、それが魔界ジオラマに向かって流れてきた。

 僕は霧が発生した場所を見た。

 霧の中に見事な伽藍が見えた。しかし、それらはゆっくりと霧になってここに向かって流れて来ている。

 つまりあれは幻影だったのだ。

 それらが霧となって今は霧散しようとしている。

 目を細めると、もとが廃寺だったのが朽ち果てて崩れ落ちている土台が見えた。

 小降りの雨粒が廃寺に降り、腐りつつある土台や叢を濡らしている。

 霧散し始めたあの幻の伽藍を見つめて思った。


 魔界ジオラマか・・

 まるである意味、理想の夢だな。

 誰かが作ったものだろうけど、ひょっとするとあの見事な伽藍と豪華絢爛な金屏風の襖絵・・それはこの廃寺自体が持った理想の夢だったのかもしれない。

 しみじみと思う。


「露と落ち露と消えにし我が身かな」

 突然、松本が言った。

「え?何」

「ああ、今のですか?秀吉ですよ。豊臣秀吉の時世の句です。何か、まるであの廃寺を見ていると心が湿りましてね」

「そう、まぁ僕もだけどね」

 言ってから、僕は足元に転がる男を見た。

「で、どうする?こいつ?僕等を殺そうとしたんだ」

 松本を見る。

「そうですね・・でも別に命をとろうなんて気はさらさらないですけどね。まぁこんな奴等、僕にすれば大したこと無いですからねぇ~」

 語尾を伸ばして得意げに僕を見る。

「へぇーー、魔術師と言う奴は紳士的で心が広いもんでなっ!!」

「まぁそうですね。魔術師は慈悲深く、人間を愛するものですから」


 ほー

 そうでっか!!


「じゃ、早くこいつを正気に戻して、ちょっとその辺の理由を聞こうか。後、こいつも魔女かどうか調べないと」

「ですね」

 松本が男を抱え上げようと背を起こした時、手からスマホが落ちた。

 拾い上げると画面を見た。

 すると電源が点いて、画面に見たことが無いアプリが出て来た。

 思いつくことがあった。

「どうしたんです?」

「いや、さっきひょうたんの中でこいつらの会話を聞いていたんだけど、その時あのゴーレムを停止するアプリがあるらしいんだよね。そいつがこれなのかなと・・」

「へぇー・・」

 松本が覗き込む。

 すると神妙な顔つきで言う。

「このアプリ・・止まってますかね」

「え??どうして」

「いや・・なんかGPSみたいな画面があるんですが、何かこちらに向かってきてません」


 え・・


 あれ?

 あれ?


 確かに。


 何か三角印二つが動いている。 


 それも現在位置に赤丸に・・向かって。


 その時、

「伏せて‼!こだま君!!」

 反射的に伏せた。

 その頭上を太い丸太が突風を起こして過ぎた。



「 「 「 うごぉおぉぉおぉぉっぉぉぉ 」 」 」

 叫ぶ声を見れば、二体の仁王像がこちらを見て吠えている。


 停止していたアプリが起動してこいつらが動き出したんだ!!



 こ、こりゃ

 死の第二ラウンドの始まりだ!!



 呆然とする僕。


 すると手をはたきながら松本が言った。

「こだま君、簡単にケリをつけましょう。一気にね。それについでですが・・新しいタイプの強烈な魔術で仕留めちゃいましょう。そう・・、伝説のあいつの力でね」




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