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ミレニアムの魔術師  作者: 日南田ウヲ
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 人生で人はいくつの超常現象に出会うだろう。

 そもそもそんなものは無いのじゃないのだろうか?

 僕は今までそう思っていた。

 じゃぁ今目の前に迫りくるこの状況は何といえばいいのだろう。

 仏像の仁王像が動き出して、自分達に迫りくる。


 リアルは小説より奇なり。


「こだま君、早くこちらに!!」

 松本の声に我に振り返らなければ、僕は仁王像の大きく踏み出した足で潰されていただろう。


「「「ぐぉおあぁああああああああ」」」


 仁王像の空気を震わす叫ぶ声が耳をつく。二体の仁王像の動きは非常の滑らかだ。ゲームの世界に存在するのかと思うぐらいだ。


 ゲーム??

 そう、

 こいつは何か非道ゲームなんじゃないのか??



 嫌、違う!!


 それは僕の鼻先を掠めた太い木材で思った。

 仁王像はあろうことか自分達が先程まで鎮座していた門柱をもぎり取るとそれを投げつけてきたのだ!!


 びゆーーーーーーーっっ


 びゆーーーーーーっっ


 僕と松本はそれを間一髪避けて行く。

「な、何じゃこりゃ!!」

「さぁ、何でしょうね、これは」

 松本がまた材木を躱すと身を低くして辺りを見回す。 

 視線の先に何か見つけたのか、指を指した。

「あそこに本堂が見えます。あそこに避難しましょう!!いくつかの建物があるからそこに隠れて時間稼ぎをしましょう」

 見ればしっかりとした伽藍のお堂が見えた。

 僕達の側を投げつけられた木材の影が過ぎた。

「今だ!!」

 一斉に降り出す雨の中を影となって走り出す。


「 「 「  ぐぉおあぁあああああああ 」 」 」


 背後で仁王像の叫ぶ声がして、ドスンという音がした。

 やつらの雨の中を歩き出す音だ。

「松本さん・・ハァハァこいつら何なんだよ」

 前髪に掛かる雨滴を払う。

「そうですね・・以前、チェコに居る魔術師とスカイプで話した時、聞いたことがあるのですが・・」

「何??何??」

「彼が言うには、様々な素材の像にたまに命が宿ることが有ると言うんです」


 ハァハァ・・

 生命が?


「ええ・・、芸術家とか・・ほら、まぁ人間が一生懸命作るものに・・こだま君もたまにテレビとかで聞くでしょう『こいつには作家の魂が宿ってる』みたいなコメント」

「そっすね。あります」

「つまりそうした物のごくわずかに本当に魂が宿っていて、何かのきっかけで本当に生命が宿るものがあるのです・・ハァハァ」


 


「 「 「 ぐぉおあぁああああああああ ・・ドゴダァ!! 」 」 」


 やつらの叫び声が!!


 ドスン!ドスン!!


 空気を震わす足音!!


「それらを僕らは・・ハァハァ」

「僕等は???」


 しっと言って松本が伽藍の下に背を丸め込む。僕も同じように丸め込み、素早い猫のように動く。

 その数秒後、やつらの走り来る足音が聞こえて目の前を勢いよく過ぎて行った。


 やり過ごした・・


 静かな沈黙の中で松本が囁くように言っ・た。

「その正体はゴーレム・・ヘブライ語で「胎児と言う意味があって・・ユダヤ教だけでなく、世界各地の民話や伝承の世界には存在するものです」


 ゴーレム・・そいつはゲームでも聞いたことがある。

 大体、マジに強い奴だ・・


「じゃぁアレがそいつだと?」

「でしょうね・・僕も初めて見ましたけど。でもゴーレムとして動くには・・特殊な術が必要なんです。それを使うことができるのは・・」

 言いながら松本が背を軽く叩き指さす。薄い床下の先に光が差し込んでいる。

「あそこに行きましょう」

 僕は頷く。

 まるで猫のように音も立てず、屈み腰で歩いて行く。

 外ではあいつら仁王像―――(いや、ゴーレム・・と言ってやる。だって・・仁王像に失礼だ。本来は金剛力士像という存在で我々を見守る仏さんなんだから!!)

「それで、それを使うことができるのは?」

「しっ!今はまずは避難場所を探しましょう」

 光が差し込むところを見上げながら松本が言った。

「これ・・床板が外れるようですね」

 そっと床板を押した。

 すると板が一枚取れた。

「本当だ。なんでだろう?」

 松本が手を左右に動かしながら床板を何枚か外していく。すると正方形の空間ができた。

「こだま君、ここで少ししゃがんでください」

 言われた通りにしゃがむと背中に重さを一瞬感じた。

 松本が僕の背を踏み台にして猫のように堂内へと飛び込んだ。

 松本が堂内を忍び歩いているのか、床板が何も音をしない。

 僕はその間床下で蹲る様に怯えている。


 おぃおぃ・・


 少しの間の孤独が非常に不安にさせた。

 静かな沈黙が流れて行く。


 おぃおぃ・・

 不安が段々と大きくなっていく。


 僕は背を伸ばして手だけを出して振った。



 松本ぉおおおお~

 いるのかぁ~~


 心の中で叫ぶ。


 返事がない。静けさだけが響いている。


 もう一度、

 松本ぉおおおお~

 いるのかぁ~~


 すると僕の手を柔らかい松本が掴んだ。あまりの不安と孤独に浸りすぎだ・・、松本 の手の温かさに思わず声が出た。

「引き上げてくれ!!」

 言うと、松本が手を力強く引き上げた。

 堂内へ飛び込んだ僕は、この堂内があまりにも煌びやかで美しい場所なので驚いた。襖が四方にあり、そこには金屏風で動物の絵が描かれている。

 美術の本でしか見たこと無いが、狩野派とか言うそんなレベルの美しい襖絵だ。


 すげっ!!

 なんか京都にある名古刹みたいなところだ・・


「なぁ・・、、松本。凄くない・・ここ」

 そう言って振り返った。


 そう、

 振り返った。





 ・・・うげぇ・・・


 僕は思わず驚きで尻もちをついた。

 予想もしなかった人物がそこに居たからだ。


 超自然現象、摩訶不思議

 待ったなしの

 ジェットコースターだよ、これは!!


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