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コンパスが北西を指した。
その日は、それだけで別れた。
「明日は残業だから」と松本が言って、僕に地図を見て今いる場所から北西上に何か目ざといものがあるかどうか、調べておいてくれと言って去った。
めっちゃアバウトやね
心で呟きながら僕は深夜の街を歩く。人はまばらで誰も居ない。
誰も居ないバス停。
あと数時間もすれば今と通り過ぎたバス停に早朝のバスを待つ人が並ぶだろうな。
朝を待つ時間というものはどこかいつも不思議だ。
過ぎ去る夜とはじまりの朝。
地球は幾億年もそうした時を繰り返している。
僕は不意に曲が聞きたくなった。YouTubeからピーターガブリエルを検索する。
―――While the earth sleeps
映画のサウンドトラック曲をケイタが僕に教えてくれた。多種多様な民族の声をデジタルにサンプリングした曲。
While the earth sleeps
地球が眠る間
なんか今の状況にすごくはまる。
部屋で一眠りしてから、図書館へ行こう。そこで北西に線を引いて松本の言う通り何か見つけれないか、調べてみよう。
僕は薄く紫の筋が見え始めた空を見た。
朝が始まろうとしている。
僕は思う。
僕らの眠りに関係なく、世界は動き始めようとしているんだ。