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バイクの教習所は自宅から自転車で数分の所にある。
しかし、その数分がいけない。
何がいけないのか?
「暑すぎるからにきまってるじゃない!!」
自宅を出てそんなに時間は経っていないのに、リュックを背負った背中は汗が滝のよう。
「気持ち悪いったらさ、・・・ないよね~」
自虐的に言って、自分を慰めてみる。
まぁ、目標のスタートラインに立った自分を褒めたい気分もあるのだけど、でも今は自虐的に言った方がなんかうけるような気がする。
え?
誰に?
ねぇ?
誰にさ?
いいやん、別に誰だって。
無言で日陰の無い道を進み、図書館の前を過ぎてゆく。
風は全く吹かない。
まるで拷問のようなアスファルトの道。そこをひたすら懸命にペダルを漕いで走る僕。
交差点を勢いよく斜めに横切ると郵便局が見えた。すると赤いポストの前でフレームの派手なサングラスを掛けてこちらを見てるやつがいる。
両腕が小麦色に焼けた両腕がキャミソールから見えて、ピンク色の唇がにっと笑う。
僕にはそいつが誰だか分かった。
勿論、やつも。
イヅル、お前そんなところでなにしてんの?
「お!!こだまー、久しぶり。何してるの?」
サングラス下でピンク色の唇が動く。
そりゃこちらの台詞。お前こそ、郵便局で何してんだよ?
僕はイズルの前で停まった。
「イズル、あのさ。今日から教習所行くんよ。免許取る為に」
「えー、本当?こだま、凄いやんか!!」
イズルの驚いて見開く目がサングラス向こうに見えた。
「車?」
「ちゃう」首を振る。
「バイク」
へーと声も出さずにイズルがサングラス越しに僕を見て、手を叩く。
「じゃさ、免許取ったら連れてってよ!!」
言うとイズルのサングラスが少しずれた。
「どこに?」
お前を?
そりゃー、まぁまぁイズルは可愛いけどさ。
でも、どこに?
どこにさ?
「海!!」
数秒、僕は沈黙した。
「海?」
「そう」
サングラスをかけ直す。
僕は至極真っ当な答えで少し拍子抜けした。イズルはここら辺の友達の中じゃ少し変わったやつだ。だからいきなり、思いもつかない場所でも行こうなんていうのかと思ったのだけど・・・・。
まぁ、良かった。
「オッケー、じゃ免許取ったら行こうぜ、海に」
そう言うと僕は再び自転車のペダルを漕いだ。
もう教習所はすぐそこだ。
一度、後ろを振り返る。イズルが陽に焼けた腕を上げてバイバイしてる。
それを見て少しだけ苦笑。
腕、焼けすぎだよ、イズル。
日焼け止めクリーム塗らないと大変なことになるぞ。