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マンションの階段から空が見える。その空を進む飛行機が見える。
(もしかしたらこいつにイズルとマウロが乗っているかも)
そんなことを思うと、ヘルメットを脇に抱えてエレベータで降りる。
夏の時間が今僕と共に降りてゆく、そこに何があろうとも時間は僕の側を離れないだろう。
扉が開き眩しい輝きの中に足を進める。
鳴く蝉の声。
路上に落ちて流れる白い雲の影。
僕はバイクに跨った。
エンジンをかけて、ミラーを見る。スロットルを回してバイクを走らせた。
堤防沿いの道を走る。
流れ、流れる街の風景。
ただ、ただ風に身を任せて、進んで行く。
気が付けば潮の香りのするヨットハーバーに居た。
何艘ものヨットが係留されている側で僕は揺れる帆を見る。
潮風に運ばれてくる香りに翼を泳がせる海鳥。
それが空を大きく横切ってゆく。
鳥よ、
お前はどこに行く?
ヘルメットを脇に抱えて小さなベンチに腰を掛けた。
セーリングを終えた人が会話をしながら目の前を過ぎて行く。
「台風が来るらしい」
その声に相手が答える。
「らしいな。何でも今回はでかいらしい。だからかもしれないが沖に出たら風が強くて大変だったよ」
その言葉に顔を上げた僕。
(台風か・・)
スマホを手に取り気象予報のページを見る。
確かに発生したばかりの台風の情報があった。そいつはまだ日本から遥か南の洋上にある。
975ヘクトパスカルーーーー
別にそんなに巨大じゃない。
僕はそのページを閉じるとバイクに歩み寄る。
海を見れば白い帆が輝く海の上で風に流れているのが見え、小さな一艘のヨットが風に揺れた。
(海の上じゃ、強風が吹いているんだ)
ヘルメットを被り、スターターでエンジンをかける。
(台風が過ぎたら、ケイタのとこにでも行こうかな)
僕はスロットルを回して、夏の暑い陽ざしの中へと進んで行った。