13
「それでこだま君、本題ですがね。君が封印を解いた魔法陣、そうミレニアムロックですが・・」
そう言った時、松本のスマホが鳴った。
「あ、失礼」
松本が僕の側を数歩離れてスマホを耳に当て背を僕に向ける。誰かが電話をかけて来たのだろう。
僕は奴が背を向けてる間、先程説明をしたことを懸命に頭でまとめる。
えっと
ビッグバン
バベルの塔
神の言葉
ルーン鉱石
そんで
その鉱石がなんか探知機で魔術の発動機で
スマホにも使用されているらしい
とか・・?
そんなことを言ってたんだよな?
「あ、はい。分かりました。ええ、すいません。ケアマネさん、何卒、宜しくお願いします」
それで松本が電話を切り、僕の方を見た。
「すいませんね、家の母親が要介護で少し認知症がありましてね。ははは」
そう笑うと、一つ咳払いをした。
「で」
松本が言う。
「君が興味本位で行ったミレニアムロックの解除、そもそもミレニアムロックというもがどういうものか?それを教えましょう」
するとまたスマホが鳴った。
その呼び出し音は先程に松本のスマホの着信ではなかった。
ましてや僕の着信音でもない。
でも、鳴っているのは僕のスマホだった。僕はスマホを手に取った。ラインに着信が着いている。しかし全く身に覚えがない、着信。
なんだ?これ。
僕がその着信を見たと同時にスマホからデジタル音声が流れて来た。
ピー
#ロックは解除されました。
ピー
#これより人類は至急非難を始めて下さい。
なんじゃこれは?
「貸せ!!」
驚く僕の顔を見て、松本がスマホを取り上げる。
僕は松本の険しい表情をじっと見た。松本のつぶらな眼が食い入るように画面を見ている。
やがてデジタル音声が消えた。
松本が僕のスマホを手にしたまま頭を掻いた。
「こだま君、ミレニアムロックというのはね。この地球の環境を人間が住みやすいように神が仕掛けた封印なのです」
神が仕掛けた封印?
「良く聞いて下さいね。そもそもこの地球というのは人間、いや地球に生きる生命種にとって本当はとても厳しい星なのです。地球本来の姿は種にとって本当に過酷で生きることも困難です。氷河期というのを聞いたことがあるおもいますが、もし、そんな氷河期が来たら地球上の種はどれくらい生き残るでしょうか?いやそれだけではない。今の地球全体の地表が三分の一、海に沈んだら?もし旧火山が本来の姿を取り戻したら?もしアマゾンの森林がこの世界から消えて二酸化炭素が溢れた世界は?そうした考えられる『もし?』を沢山並べてみて下さい。地球は本当に美しく生命が生きるべきエデンと言えるでしょうか?」
僕は松本の台詞を聞いて、確かに・・と思った。
もし日本の全ての休火山が全て爆発したら、日本は人間の住める世界といえるだろうか?
もし昨日のような巨大な地震が毎日襲えば人類にとって過酷な環境ではないだろうか?
そう・・ひょっとしたら人類は絶滅するのでは?
え・・
人類の絶滅?
だって??
「そうです」
松本の擦れた声が聞こえた。
「つまりミレニアムロックというのは神がこの地球を人類が生きることができるように仕掛けたそうした気候変動を抑えた封印なんです」
僕は沈黙する。
冗談じゃない。
「それじゃ言うけどさ。そんな神様がいるんだったら、神に頼んだらいいじゃない。神様に頼んで、そのなんとかという封印をもう一度してもらえば・・」
そこまで言うと松本は肩をすくめて僕に言った。
「それができないんですよねぇ~」
ここに来て嫌な語尾の伸ばし方!
「ど、どうして?べつにいいじゃん。もう一度頼べばいいじゃん!!ちゃうん??」
奴が首を振る。
「なんで?なんで、できないのさ?」
「こだま君、君・・知らない?この言葉をぉ~?」
「な、何をさ??」
松本が真顔で言った。
「ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェの言葉」
え?
「神は死んだ」
松本がスマホの画面に言葉を書いて手渡す。僕はスマホを見た。
そこにルーンに反応して輝く言葉が見えた。
そう、
神は死んだ
つまりその言葉は・・
「そうです。魔術なんです。魔術が発動して神はこの世界から消えたのです」