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分かっていること。
それは自分が学び得たこと。
まだ知らないこと。
それは自分が学び得ていないこと。
今の僕がその二つから得たことは
松本は魔術なんてなくても普通に強く、自分はまだこの世界の本当を知っていない存在なんだということ。
高速道路の下の小さな公園で僕は地面に大の字のまま松本を見上げた。
奴を掴みかけた瞬間、勢いよく襟首を掴まれて空に投げ出された。
怒りの勢い何て持続性を持ち合わせていないロケット弾みたいなもんさ。
エネルギーが切れれば一気に落ちるだけ。
そう、だから一気に意気消沈。
あとは唯冷静に相手との力量を図るバロメーターが動き出すんだ。
ただのおっさんだと思っていたのに。
確実に武術をしたことのある人物の投げだった。武術などしたことがない僕など歯が立たないことは瞬時に分かった。
「こだま君、大の字のままでいいから聞いてくださいね」
松本が地面に投げ出された魔術書を手に取って開いた。
「君、ここにあったQRコードみたいなものをスマホで読み込みましたね?」
僕はじろりと見た。
「こいつはね、実は高度な魔法封印なんですよ。そうその封印は千年以上の物で通称千年封印、ミレニアムロックというんです。そしてQRコードみたいに黒くなっている部分には実に小さくて巧妙なルーンが書かれているんですよ」
松本が屈みこんで倒れている僕の眼前でそれを広げる。
「良く見てください」
じっと見る。
・・・いや、見えないけど?
「じゃこれで見て下さい」
松本がジャケットから例の四角・・ルーン石板というやつをかざした。すると石板にQRコードが映し出され、それをスマホの画面で拡大するように親指と人差し指で広げる。
ん?
僕はそこに何かを見つけた。
広げられた箇所に松本の言うとおり何か言葉がぎっしり書かれている。
「見えましたね。つまりこれはルーンを小さく書き込んだ魔法陣なんです。昔のドイツの芸術家デューラーにもできない程の素晴らしい細密な工芸品です。これは封印されたものを閉じ込めた魔法陣でこいつを開放する方法は実は今まで不明だったのです・・しかし・・・」
ごくり
「偶然にも君がそれを開放したんです。つまりそのスマホで魔法陣を読み込み、自動解読、恐らくスマホのQRコードを解読する技術が魔法陣を開放する技術だったんでしょうね。全く驚きでした、そんな技術がこのミレニアムロックを解除する方法だったなんて・・」
スマホが?
全然関係ないだろ?
「そう思いますか?そんな顔してますね。さぁ立ってください。少しだけ魔術の事を説明しましょう」
松本が差し出した手を僕は握り立ち上がる。砂埃を松本が手で払ってくれた。
「こだま君、この世界にはまだ知らないことがあるのですよ。それらの事を知ることは『知の探究』と言える事かもしれません。それはこの世界の複雑な構造を解明し、この世界の真を知ることでしょう」