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ミレニアムの魔術師  作者: 日南田ウヲ
11/81

10

 

 松本

 と、言ったこの人物。

 見ると短髪モヒカンの細面で少し申し訳ない程度の髭を伸ばしている。紺色のジャケットに丸首の白シャツとジーンズ。目は顔の大きさに似合わず小さく、一重瞼で目じりが少し上がっている。

 壁を背にして立っているので身長の大きさは横の書棚と同じぐらいだから、僕より頭一つ小さいくらい・・


 ドスン!!


 そう思ったと時、思いっきり床に落ちた。腹からおちた。

 見事に大の字!!


 雪の上なら見事な漢字を描けただろうな・・


「いやぁー、こだま君。すっぃませ~ん。まだこの手の魔術に疎くて」


 だからその語尾伸ばすのやめろ、気持ち悪いし、痛みが倍増する


「いやはや、御免ですね」


 僕は痛みが消えるのを待って伏せた顔を上げて男を見た。

 つぶらな目がニコニコして、首から吊り下げられた懐中時計がぶらぶら左右に揺れた。

「で、こだま君。君が図書館から借りた例の物?あれはどこに?」


 僕は仏頂面で男を睨めつけた。


 は?あんた何様?


「あんたさ・・人の家に不法侵入して何様なんだよ?警察呼ぶぜ」


 最後は背一杯のドスを効かせてやった。今の僕は怒れる獅子だ!!


「そんなん、どうーでもいいじゃないですか?ええっと・・えっと・・」


 どうでもいいだと!!?


「あ・・あそこにありましたか」


 男はベッドに置かれたラテン語の辞典を見つけると足早に取りに行き、眼前に置く。

 それからジャケットの内ポケットから素早く何かを出すと、僕の前に取り出したものを見せた。

「こだま君、こいつは後で説明しますがね、ルーン石板というものです。綺麗に四角に磨かれていますが、地球が誕生した時に銀河の何処かから飛来してきた鉱物です」

 松本がそいつを辞典の表紙にそっと置いた。

 すると数秒して辞典が輝きだす。


 なんだ、これは!!


 僕は驚いて起き上がった。雑誌が何か光り輝いている!!


 松本は驚く僕の表情を見つめて言った。

「これは今、ルーン石板のデーターをこいつが読み込んでいるんです。こうしてこいつは千年・・いやそれ以上の我々人類のある言語をため込んできたのです」

 言い終わると辞典の輝きが消えた。

 松本はそれを確認すると、辞典を手に取り僕の面前に持ってきた。

「ある言語??」

 僕の言葉に男が笑う。

「魔術という言葉は聞いたことあるでしょう?ゲームなんかで」


 魔術?

 それって


「まー魔法と言った方が良いのかな」

 僕は頷いた。


 魔法、もしくは魔術・・?

 はぁ・・・・・・、

 まぁそいつは何となくわかりますが。


「つまり我々人類が話しているどの民族言語には、誰もが見知らぬ力が宿っていて、そうした言葉をルーン言語と言っている。まぁ現代知られているゲルマン人が用いたルーン言語とは全く別物だけどね」


 はぁ、?


「こいつはそれの集大成でね。まぁ辞典といってもいいかな。この世の全ての『魔』を発露させる沢山の民族言語が書き込まれているんですよ」


 ふーーーーーーーん。


「それでこの存在を知っている人々は『千年魔術書』、まぁ今は簡単に魔術書と言ってますがね。ちなみにこいつの原本は現在行くへが分からず、1,502年にエジンバラで改訂された13冊の内の一冊です」


 ほぉ~~~~・・

 すごいじゃない。


「それで、お願いがあって。こだま君、あなたがそれを預かっていただけますか?私は家庭の事情でね、介護の両親が居てとてもこいつの管理が出来なくて図書館に預けてたんですが、君が借りられたのなら是非、暫くぅ~」


 うん

 うん

 ニコニコ

 いいよ、いいよ 

 預かっておいてあげる。



 んな訳ないだろがぁぁああ!!


 我慢頂点怒髪天!!!


 お前のその語尾伸ばし、非常にむかつくんだよ!!


 僕は勢いよく立ちあがり、松本の頬に腰を捻らせて強烈なストレートを喰らわした。

 不意を突かれた奴は僕のパンチは防ぎようがなかったらしい、見事突っ立ったまま棒立ち状態で、拳が身体にめり込むのを・・・


 ん!!!

 めり込む???


 僕は拳を打ち込んだ状態のまま、松本の顔を見た。

 やつが笑っている。

「こだま君、確かさっき君は言ったよね?僕が不法侵入したと?」

 そう言うや否や、松本の姿が僕の前から消えて、ドスンと床に辞典が落ちた。落ちたそばで黒い影が渦巻き窓の外へ流れて行く。

「こだま君、窓!!窓を開けて下を見えて下さいなぁ~」


 何処か間延びした松本の声。

 僕は窓を開けた。

 目の前に高速道路の巨大な梁が見え、その下の公園のベンチで腰かけた男が手を振っている。

「はーい、ここですよ。こだま君」

 そこに短髪モヒカンの細面で少し申し訳ない程度の髭を伸ばした男。

 紺色のジャケットに丸首の白シャツとジーンズ。

 目は顔の大きさに似合わず、小さく一重瞼で目じりが少し上がった男。

 笑ってこちらを見てる。


 松本!!


「分かりましたか?僕は不法侵入などしてなくて、ここで全部君をコントールしていたんです。まず最初にイズルさんの達の目が大きくなって君を卒倒させたのはゴンゴ族『わが眼を疑うな』と『問いかけは災いのもと』をブレンドした合わせ魔術の技、あと空に浮かんだのは諺にもある『運は天にあり』こいつは、運次第でどこまでも浮くってやつ、はっはっ!!これは効きましたね!!見事な落ち方でした」


 僕は辞典―――いや、いまは魔術書だ!!そいつを脇に抱えマンションの階段を急いで駆け下りる。


「それで最後は自分自身に掛けた『ドッペルゲンガー』があなたの部屋にお邪魔した次第で、あなたはそいつをぶん殴ったんですぅ~」


 松本への一言。

 知るか!!

 そんなことはどうでもいいんじゃ


 唯、ただ、お前にパンチを喰らわしてぶん殴りたい‼

 悪さをした、お前を!!


 夏風が僕と松本の間に吹く。風の吹いた隙間が今の僕と松本の距離なんだ。

 そいつを今僕は急いで埋めている。


 夏風はお前を逃がさないぞ!!


「へぇ・・悪さですか?君にしたことはちょっとしたことで大したことないじゃないですかぁ~?」

 影がゆっくりと松本に戻って来た。

 僕の気持ちが夏風を掴んでそいつをぐいって引き寄せようと走らせる。


「もっと急いで、ほら早く、僕の側へ。だってこだま君、君は人類にとってもっとひどいことをしたんですから・・そいつを早く教えてあげないとこちらだって怒りが収まりませんよ」


 松本はとても冷たく厳しい口調で高速道路の向こうに見える空を見て呟いた。


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