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異物鑑定士  作者: くらげ
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51 旅の終わり

 暫くして「見つかったみたいだよ~」と変わらぬ調子のアルバインさんが小走りで近付いて来た。さっきディドさんも言っていたけど何処を見ても身体に傷一つなく綺麗そのもの。硬化出来るディドさんはともかくレダさんでさえ所々傷を作って帰って来たっていうのに、まぁ大したもんだと褒めておくとしよう。


「エルマ大丈夫? 何だったらおぶっていくよ」


「大丈夫です。でもちょっとだけ手を引いてもらっても良いですか?」


 流石に目の前のスプラッター映画も真っ青な光景を見ながらまともに歩いて行ける自信が無い。「あぁ良いよ」と差し出された手をギュッと握りつつ、目を瞑りながらアルバインさんの後を追っていく。……うへぇ鉄臭いし足元の感触も悪いなぁ。


 どうしようもない不平不満を心の中で呟きながらゆっくりゆっくり歩いていくと「エルマ、もう目を開けても大丈夫だよ」とのレダさんの声が。恐る恐るいう通りにしてみると、そこには真っ暗闇が大きな口を開けている。


「これって遺跡の入り口ですか?」


「そう、もっと言えば教団員が出てきた場所でもある。安直かなと思ったけど調べてみたら、まさかまさかって感じだよね」


「つまり中に例の物があったって事かい?」


「僕はまだ見てないけどね。でも中に砂上馬車があってその中にそれっぽいのがあったみたいだよ」


「……行ってみましょう。まず見ない事には話になりませんし」


 今度は案内役の兵士の背中を追いつつ暗い暗い洞窟風な遺跡の中へ。中はかなり広く今まで見た来た中でもトップに入るレベルで、成る程ここなら荷馬車でも簡単に入れられるだろう。……ん? あれって、陽の光じゃん。


「アルバインさん、何であそこから日差しが漏れているんですか?」


「あぁ、どうやら幾つかの通路が外と繋がってるらしい。さっき兵がそんな事を言ってたよ」


 ふ~ん。あれ? って事はその気になれば戦闘中だっていくらでも逃げられたんじゃ? どうしてそうしなかったんだろう。


「逃げ道があるんだったらせめて異物を持って逃げても良かった筈なのに、何でそうしなかったんでしょうね」


「多分、敢えてそうしなかったんじゃないかねぇ。異物がどんな物であるにせよ、連中にとっちゃ命を投げうっても全然惜しくない代物だ。下手に逃がして余計に首絞めるよりもここでケリをつける方を選んだ、そんなとこだろうさ」


 最後に「とんだイカレだよ全く」とレダさんは付け加えた。やっぱり……何処に行っても神様っていうのは人の心を狂わせているんだな。良くも悪くも影響があり過ぎるわ。


「アルバイン様──」


「っと。三人とも着いたみたいだよ。ここまで来といて今更だけど覚悟は良いよね?」


 ……ハッ。そんなの本当に──


「──今更ですよ。それを見る為に来たんですから」


「そういう事さ。でも着いたって割には行き止まりにしか見えないけど」


「いや……壁にしては少し不自然な気がするな」


「ディド君の言う通りこの壁は魔法で作られた急ごしらえの代物だ。そのせいか所々に穴が開いてるでしょ? 不審に思って覗いたら案の定って話だそうだよ」


 ディドさんが「成程な」と呟きつつ魔法で眼前の土壁を崩す。ボロボロガラガラと音を立てながら土くれが地に落ちていくにつれ、ランタンの光が先の通路を照らしていく。そして……


「……本当にあった」


 ……正直な所を言えば怖くない訳がない。ここまでは騙し騙し来られたけど、急に足が竦んで──


「──大丈夫。一緒に行ってやるから安心しなって」


「正体を見ずに帰れる筈が無い。そうだろう?」


「レダさん……でぃどさんも……うん、そうですね。行きましょう」


 よぉし気合を入れろ私! 何処かで「僕も居るよ」と聞こえた気がしたけど気のせいだろう、うん。竦む足と顔に平手打ちを思い切り食らわせ、自分自身に発破を掛けて荷台へと近づき、ゆっくりと幌を開ける。


「……あぁん?」


「……おいおい、こりゃあ」


「……ボロッボロだ」


 確かにそれ自体の形状は異質、というより私も写真で何となく見た事ある所謂『あの形』に似ているようにも見える。でも分厚い威圧感ある殻とは裏腹に劣化がかなり酷い。もしかしたら急いでい逃げられなかった理由って、このせいか?


「僕には朽ちた鉄の塊程度の印象しか受けない訳だけど、エルマ君の見解はどうだい?」


「はっきり言って、これが何かしらの害を及ぼす事はありえないと思います」


「ふむ。その根拠は?」


「だって見ての通り──」


 ──ただの抜け殻だもん。




 『あれ』にどんな夢を見たのか。何故夢を抱いたのか。そもそもどういった経緯であぁなったのか。御伽噺から全てを紐解くのは難しく、妄想にも似た仮説が限界だ。はっきりしているのは『あれ』はもう異物ですらないただの残滓、国が率先してそんな風に情報を流したのも相まってプルトン教団は今や見る影もない。晴れて一連の事件は収束と相成った。


 で、私の処遇はどうなったのかと言うと端的に言えば何も無かった。いや本当に文字通りな~んにも無し。アルバインさん曰く「君という存在自体厄介極まりない物だから、敢えて国も口出しせずだんまりを決め込んだ」らしい。価値の無いように見せかける欺瞞工作と言えば聞こえが良いだろうけど、結局あの頼り無さそうな国王では手に余るから、知らんぷりを決め込んだって方が正しいのかもしれない。……まぁそのお陰で表立って評する訳にもいかなくなったので、先の事件に関する手柄は全てアルバインさんに横取りされる形になっちゃったけどね。


 その後はどうしたかって言うと、ディドさんの故郷に行ってみたりノレドの大穴を観光してみたり、久しぶりに私の実家に帰ったと思えば今度はレダさんの故郷へ。何だかんだかなりの期間旅を続けていた。それが祟ってかクラートは道中でお亡くなりに。修理の当ても無いしそもそも最初から壊れかけの中古品だったんだから大往生って感じだろう。


 あ、そうそう。レダさんの故郷ってウェスタ大草原の果てにあるアルヴの森って場所にあるんだけど……うん、今生類を見ない衝撃体験をしたんだよね。それが──


「お母さんただいま~!」


「久しぶりお母さ~ん!」


「やっほ~エルマ、元気してた?」


「元気元気、まぁレダ達と比べればちょっと物足りないかもだけど」


 とまぁこのように子供が生まれました。お相手は勿論……勿論? なぁんかおかしい気がするのはさておきレダさんとの間に子を生しちゃったのである。どうやったのかは企業秘密……エルフ伝来の秘薬って凄いわ。


「ディドさんの様子はどうでした?」


「それが聞いてよ。あいつ獣人と結婚したかと思えばちゃっかりもう子供まで居やがんの。全く手ぇ出すの早いったらないわ」


「それレダが言うの? 私だって半分襲われたようなもんだったけどねぇ」


「うぐ……だってエルマも何だかんだ了承してくれたし……というか自分だって楽しんでたじゃんかぁ」


「あ~、またお母さん達喧嘩してる」


「んもう。惚気はあたし達が居ない時にやってよね」


 男の子を『ティエルダ』、女の子を『メリエッダ』と名付け、二人共健やかに育ってくれたお陰でちょっとおませな感じの今に至る。ただレダさんの血がかなり色濃く出たらしく、産んでから30年は経とうとしているのに見た目は子供とあまり変わらない。変わったのは私だけだ。


「しっかしエルマもちょっと見ないうちにまた老け込んだんじゃない?」


「うっふっふ。羨ましい?」


「……フンだ、羨ましくなんかあるもんかい。さぁてと、いつも通り鑑定してくれよ」


 もう子供達の体力にすら全く付いていけなくなった私は、セントネルズの亜人街の端っこで細々と鑑定所をやっている。正直常時開店休業みたいなものだけど、どうせレダさん達の為にやっているようなものだしそこはまぁ別に気にしていない。私は最期の時まできっとここに居るだろう。




 きっと私はレダさんや二人の子供を遺して先に逝くだろう。その時はきっと私の事だ、未練がましく子供達の晴れ姿を見たかった、なんて愚痴ばかり漏らすに違いない。皆を置いて一足先に逝くのは正直すんごい寂しい。でも私の両親もきっとこんな気持ちだったんだろうと思えば、贖罪にもなろう。


 そして何より、今度はちゃんと看取ってくれる人が居る。それだけでもう少し頑張ろうという気持ちになるってものだ。


「それじゃあ、一つ目はこれを鑑定してみましょうか」

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