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異物鑑定士  作者: くらげ
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50 最期は神に殉じ

 部屋を離れてすぐ城内を横断し、外の厩舎らしき場所へと向かった。厩舎なので馬ばかりかと思ったらそうではないらしく、用意された馬車……いや馬車で良いのかなこれ? とにかく客車の先には何と大きな赤黒いトカゲのような生物がくっついている。


「やぁエルマ君待ってたよ。さぁ早く乗った乗った」


「え、あ、はぁ。失礼します」


 何とも珍妙な状態を見て呆気に取られている所に、アルバインさんが客車の窓から顔を出しながら声を掛けてきた。どうやら先に乗って待っていたみたいでレダさんとディドさんも中に居る。ただ、まぁディドさんは結構窮屈そうにしているけど仕方ないか、どう見ても亜人向けに作られているように見えないし。


「よぅしこれで全員揃ったね。じゃあ行ってくれ」


「承知しました」


 アルバインさんが御者台の人に合図を送るとそのまま出発。一目見た時は正直ちゃんと引けるのか疑問だったけど、これが中々どうして結構速い。もしかしたら普通の馬よりも速いかも。


「あの、馬の代わりに繋いでいる生き物、あれって一体何なんですか?」


「あれは火吹きトカゲと言ってね。まぁ実際火を吹く訳じゃ無いんだけど生息域が火山って事からその名が付いたんだとか。本当は蒸気機関車を使えれば良かったんだろうけど、その為に時間を割くのも勿体ない、というより相手も間抜けじゃないからだろうまず間違いなく路線近くを通る筈が無い。でも馬で砂漠を行くのは厳しいとなれば、酷暑に強く砂地でも問題ない火吹きトカゲが適材って訳さ」


 要するにラクダ的ポジションなのかな? 確かに砂漠地帯で馬っていうのはあんまりイメージが湧かない。でも、言っちゃ悪いけどこんなので間に合うのかな。教団が何処に居るか分からないけど、少なくとも三日近くは差が付いているんじゃないの?


「でもこれで本当に間に合うんですか? というより何処に向かおうとしているんです?」


「勿論教団の後を追う。御者台の彼は元教団員──というか教団調査の密偵でね、隠れて使う道も精通してる。それに差があるのは確かだけど、それでも間に合うだろうと僕は踏んでるよ」


「その根拠は何でしょう?」


「やはりプルトン神に関する物を運搬してるからか、異常なまでに慎重に運んでるらしいとの情報があったのさ。それが兵器だろうと何だろうと、彼らにとっては依り代どころか神そのものにも等しいだろうからね」


 まぁ万が一にでも傷物にしたら大変だろうし。というか万が一があった場合何が起きるか分かったもんじゃない、冗談抜きで慎重に大事に持っていてもらわないとこっちも困るってものだ。


「ただ、間に合ったとしてエルマ君はどうする? もしそれが本当に兵器だったとして止める手立てがあるのかい?」


「無いです」


「無いって……そりゃあ困ったもんだ」


 だって私の目的って止めるんじゃなくて、あくまでそれが何なのか知りたいだけだし。でもまぁ可能性があるとすれば──


「地中奥深くに埋めればもしかしたらって思うんですけど……ノレドの大穴ってすっごいんですよね? 同様の規模の爆発が起きたらどうやってもヤバいです」


 そうだよ、ヤバいんだった。ってさっきも言ったから分かっている筈なのに何で皆付いてきちゃったんだ。下手したら死んじゃうってのにさぁ……


「というか何で皆付いて来ちゃったんですか? 危険なのはさっき聞いたので分かってましたよね?」


「だって僕は一応監督責任的な所があるし? それに、そんな貴重な物見逃す手は無いさ。勿論君も含めてね」


 う~んこの欲望に忠実を地で行く感じよ。人の事は言えないけど。


「あたしらはまぁ……正直な話それが何だろうとどうでも良い。一番の目的はエルマの事さ」


 ……あぁ~そういう事。よくよく考えればそうだよね、ずっとずっと秘密にしてきたんだし。


「色々隅から隅まで全部聞いてやろうと思ってたんだけどふと思ったのさ、中身がどうだろうとエルマはエルマだってね」


 レダさん……


「まぁ一つだけ不満をぶちまけるとすればあれだね」


「な、何ですか?」


「前に言ってた秘密がどうのって話、あれはあたしらが最初だと思ってたのにさ。先を越されたっていうかいきなり暴露されたのはちょっと面白くないよねぇ」


「いやぁハハハ……あれはしょうがないですって。私もあんな状況になるなんて夢にも思っていなかったんですから」


「まぁそりゃそうだ。流石にあたしだって驚きすぎて何処に突っ込めば良いやらって感じだったし」


 ん、という事は付いてきた理由ってもしかして別にある?


「じゃあ付いてきた本当の理由って?」


「教団の追跡となれば、いくら軍が動いているとはいえ戦闘に巻き込まれる可能性がある。となればエルマを一人で行かせる訳にもいかんだろう」


「というのは半分建前で本音は単純に付いてきたかったってだけだけどね。あ、一応言っとくけど何があろうとちゃんと守ってあげるから」


「まぁそういう事だ。今更留守番なんてのも面白くないだろ?」


 ……フフッ。二人共ほんっとうに良い性格してるよ。


「さてさて。エルマ君との楽しいお喋りは後に取っておくとして、軍の追跡部隊に合流出来るのは恐らく三日程掛かる。しかし見ての通り食料その他を十全に積む事が出来なかったので、少しでも消耗を抑えるべく体力の温存に努めてくれたまえ」


 何じゃそら。見た目の派手さに能力値振り過ぎなんじゃないのそれ? まぁかといって荷駄隊を編成するのも時間が掛かるだろうし「部隊と合流さえ出来ればどうとでもなるから」とアルバインさんも言っているし、大人しくしているのが賢明かね。




 こうして一日辺り片手で余る程度の焼き菓子とお水で空腹を誤魔化し、お腹が鳴るのも耐えながらひた走る事三日と少し。ちなみにどこを見ても砂だらけで何の目印も無い場所で何をしているのかと言うと──


「見つけたぞ! 全て切り捨てろ、生かして返すな!」


「仲間の仇討たせてもらうぞ!」


「何が仲間だ! 愚かな不信神者め、今に神の裁きが下ろうぞ!」


「プルトン神の裁きを待たずとも我らの手で葬ってくれるわ! せいぜい神の御許で反省するが良い!」


 ──とまぁ絶賛修羅場も修羅場、鉄火場も裸足で逃げ出す殺し合いの真っ最中。アルバインさんの見立て通りの日付で追跡部隊と合流、そのまま行動を共にするのまでは良かったんだけど……何とビックリ遺跡の跡地からひょっこり出てきたのは例の連中。休憩をしていたか欺瞞行動だったのかは知らないけど、まぁ出会ってしまった以上こうなるのは予想の範疇。こんな急展開を除けばね。


「エルマはこの中で待ってて。間違っても先走っちゃ駄目だからね?」


「アルバインも──む? 何をしているんだ?」


「何って僕も戦うよ。半分お飾りみたいなもんだとしても、そこはまぁそういうフリをしとかないと他の皆に示しが付かないでしょ?」


 フリ、ねぇ。つまり本気で切り結ぶつもりはないって事か。ホント強かな人だよ。


「アルバインさんはさておいて、皆気を付けてくださいね。彼らは間違いなく死に物狂いで掛かってくる筈です」


「あぁ分かってる。そいじゃ、行くよディド!」


「一つずつ端から潰してくぞ!」


「僕は隅っこで目立たないように頑張ってるフリしてるから、君達頑張ってくれたまえ~」


 私は部隊後方に停められた客車の中で一人お留守番。ただ御者台の人は最低限の護衛というか、そもそもこの人が居なくなると運転に支障が出てしまうので、同様にお留守番といった方が正しいかも。


 ……今回の軍は本気だ。恐らく練度も頭数もあの事件の時と比べれば段違いだろう。それでもなお拮抗を維持出来ているのは、思いの力というより他無いだろう。例え血で道を作ろうと全く動じないその姿勢は正直圧倒されるし、見事だよ、本当に。


「でも、だからといって、かつての殺戮をさせてたまるかっての」




 車内に居てもはっきりと聞こえる剣戟や怒号や悲鳴、それらが聞こえなくなってからじきに「オォー!」と勝ち鬨を上げる声が代わりに聞こえるようになった。どうやら戦いが終わったらしい。この中で待っているよう言われていたけど……ちょっとくらいなら良いよね?


「よいしょ、と。……って、うぇ、うぷ……ぅ」


 私達の方が勝った、それは良い。良いんだけど……目の前に広がるのは死体、死体、死体……軍人なら、この異世界の住人なら然程気にならない光景なのかもしれないけれど、私は無理。これまでにそういう光景を見た事が無い訳ではない、でも慣れない、慣れる筈がない。


「ちょっとエルマ!? 大丈夫!?」


「ぁえ? ぁぁレダさん……良かった、無事だったんですね」


「いや、うん。あたしは大した事無いけどさ、どう見てもエルマの方がヤバいってのよぉ……」


「レダはまず落ち着け。エルマは少し吐き戻しただけのようだ、落ち着けばじきに良くなる」


「あ、ディドさんも無事で良かった……」


「あぁ、ついでにいうとアルバインもピンピンしていたぞ。まぁ結局誰とも相対していなかったようだから当然といえば当然だがな」


 この乱戦の中で誰にも標的にされなかってのは、ある意味才能とも呼べるんじゃないかね。……ってそうだ、あれは!?


「例の持ち出された異物はどうなったんですか!?」


「今アルバインを含めてそこら中を探し回っている。適当に誰か捕まえて吐かせれば楽だったんだろうが、連中もこれまでと思ったのか揃いも揃って死にやがった」


 神に殉ずるとはまさにこの光景を言うんだろう。愚かと言える程彼らを知っている訳では無いけど、それでも、もう少しやり方があったんじゃないかと何ともやるせない気持ちだ。

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