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異物鑑定士  作者: くらげ
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48 悪魔の光は神の御名

「では何を以てして大義とするのでしょう?」


「教団が持ち出した例の異物、それを危険である証立てて頂きたい。いくら事件を起こしたとて現状はただの石、それだけの理由で勅令を出したとなれば弾圧と取られかねません。ですがもし仮にその異物が伝説通りの危険物であれば、少なくとも世論は平行線となると踏んでいます」


 教団は危険だ、だから解体とする。としたい訳ね。でも一つ重大な問題がある、そもそも──


「教団から奪い返すのはともかくとしても、異物の正体が分からなければ難しいのでは? ……いや、敢えてそれを仰ったという事は、教団が持ち出した物の正体をもしや御存知なのですか?」


 そう、鑑定されなければただの石でしかない。逆に言えば持ち出された物が伝説通りならという曖昧な根拠ではなく、本当に危険だと知っているからこその提案なんじゃないの? アルバインさんの推察通り国王の顔がどえらい渋くなっているし。


「……その実、私もまだ信じ切れていないのが現実です。しかしこの者の話……いや出自を聞いたら全くの出鱈目とも言えなくなってしまった」


 この者って隣に立っている黒髪のおじさんの事か。というかよくよく見たら大分白髪交じりだし皺も深いし、結構歳いってるのかも。


「確か……古くからの従者の方でしたよね。僕も幼少の頃父と共にお会いした記憶がありますが」


 あぁ成程、そりゃ歳食っているように見えるわ。でもだから何って話だけど、そんなにびっくりするような出自なのかね。


「国王陛下、後は俺の口から」


「えぇ。私では凡そ正確に伝えるのは無理ですし、貴方から直接語られるのがよろしいでしょう」


「俺の名前は、いや今はゲンヴィックと名乗っている」


「今は? という事は別の名があるって事かな?」


 アルバインさんの問いかけに男性は「あぁ」と答えながらも何故か私に視線を向けた。……? 私どっかて会った事あったっけ? いや無いよなぁ。


「俺の本当の名は……『ロクサダキハチロウ』という」


「ロクサダ、キハチロウ? 聞き慣れない名前だけど、どこかの異国出身だったり?」


 いや……ちょっと待って。私は、私は聞き慣れた雰囲気がある……! いや、そんな事あり得るの!? だって、これは──


「日本、という遠い遠い国だ」


「嘘でしょ!? 何で!?」


 私の耳と頭がおかしくなっていなければ、この人は間違いなく『日本』と言い放った。まさか私の他に同じような境遇の人が居るなんて……って、あっ! 思わず思いっきりテーブル叩いちゃった。……あぁ~やっぱり皆こっちに注目しちゃっているし、完っ全に下手打っちゃったなぁ。


「エルマ君、もしかして日本なる国を知ってるのかい? 僕も商人の端くれ、諸外国の事を学んでた自負があったけど、申し訳ないが生まれてこのかた一度も聞いた事無い国名だ」


 ……これは、言って良いんだろうか? もうしらばっくれるのは無理だろうし……いや異物の本に書いてあったとかで誤魔化す? あぁもうどうすれば良いの!? レダさんとディドさんに相談出来る訳も無いしさぁ!


「聞いた事が無いのは当然だ。何故なら……この世界には存在しないんだからな」


 ……あ~ぁ、この人言っちゃったよ。


「存在しない、とは?」


「全くそのままの意味だ。この世界と全く異なる世界、言うなれば異世界か。この世界には異物なる代物があるだろう? それの人間版といった方が近しいか」


「……いやはや驚きだ。ともすれば与太話だと鼻で笑ってる所だけど、成程……国王陛下が悩ましく思うのも無理はない」


 恐らくアルバインさんの言葉は本当に心からだろう。だってレダさんもディドさんも同様に……同様に? という割にはアルバインさん程驚いているように見えないけど、気のせい?


「時に国王陛下、何故この方の言葉を信じる気になったのです? 僕は先だっての国王陛下の言葉があってこそですが、何を以てして信に足るとお思いに?」


「その答えはアルバイン殿が、いえアルバイン家にある物が答えです」


「……! まさか銃を鑑定したのは──」


「──想像通り、彼なのです」


 ……今思えばそうだよね。本とか宝石とかならともかく、異物を銃として理解していなければまず鑑定出来る筈が無い。いつか学を積めば到達出来るかもしれないけど、私と同様に銃を知る世界から来た人間の可能性から考えた方が良かった。……ん? という事は教団が持ち出した物ってつまり、そういう類の物?


「……これまでの生涯以上の驚きをこの一時に味わったような気持ちだ。異国どころか異界の民となれば聞きたい事も山程あるけど、そんな座談会の場ではないのが惜しい。率直に聞かせて欲しい、ゲンヴィック氏──いやロクサダキハチロウ氏は教団が持ち出した物をどう見てる?」


 そう問いかけられたゲンヴィック? ロクサダさん? まぁロクサダさんで良いか、ともかく彼の顔が恐ろしいまでの剣幕に変貌した。


「……実際の所、俺も確証を持っているとは言い難い。だが伝承にある人々を消滅させた極光やノレドの大穴、そして何故か耳に残る神の名。聞けば聞く程、見れば見る程……俺の脳裏にあの光景が浮かぶ……!」


 違和感が全く無かったかと問われれば、恐らく心の何処かでは感じていたと思う。元は一つだった神、人を消滅させる程の極光、『プルトン』という名。そして、砂漠で偶然見つけてしまったあの異物(悪魔のコア)。そう私は、私達は……これの正体を知っている……!


「奴らが持ち出したのは恐らく、核爆弾だ」

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