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異物鑑定士  作者: くらげ
42/51

42 鉄の巨体

「で、あたしらをこんな地下深くまで連れて来てどうしようってのさ」


「まぁまぁ、もう少しで着くから」


 アルバインさんに連れられたのは邸宅の地下深く。動力不明のエレベーターに乗って何をどうやったらこうなるのか分からない固められた地下通路、魔法で何やかんやしているのは何となく想像出来るし恐らく正解だろうけど、やっぱり実際目の当たりにすると不可思議としか表現出来ない。


「正直工場の方に直行すると思っていましたけど違うんですか?」


 私がそう尋ねるとアルバインさんはちょっとだけ笑った顔を向けながら、物々しい扉を開けた。すると開けた瞬間、何か硬い物を叩いたり削ったりしているような音が一気に広がり、特にレダさんはすぐさま耳を塞いだ。


「ちょっとぉ! 何なのさこの喧しい音!?」


「ここはまぁ端的に言えば銃を作ってる工房さ」


「工房? じゃあ地上にある施設は何なんですか?」


「あれは製鉄とかそういうのだね。いくら何だって地上で秘匿品を作る程馬鹿じゃない、最悪無くなっても影響が少ない物を地上に置いて欺瞞してるって訳さ」


「成程……敢えて聞きますけどそんな重要な情報何故私達に流すんです? いくら私に価値を見出したとはいえ、ちょっと……おかしいと思うんですけど」


「それだけの価値があると値踏みしたんだ。それじゃ不服かい?」


 不服かどうかで言うならはっきり言って不服でしょ。自分が言い出しっぺだから言うのもあれなんだけど、ここまで秘匿情報を流してまでやらせたい事とか……ちょっと怖くなってくるって。そんな不穏な空気を感じながら工房を横目にさらに奥へ奥へと進んでいく。まだ奥があるのか、広過ぎでしょこの地下。漫画か何かの地下基地かっての。


「さぁここにお目当ての物がある。エルマ君、是非とも君自身の目で感じて欲しい」


 さっきの工房の入り口も十分物々しい扉だったのに、ここは守衛まで付いていてまさに特別な場所だというのが想像出来る。……鬼が出るか蛇が出るか、いざ。


「……うっわぁ」


 何かしらの部屋というよりも倉庫的な印象が強いそこを見た瞬間、私は思わず引いた。というかレダさんも「何だこれぇ……」って言ってるしディドさんに至っては口をへの字にして絶句してるし、皆ドン引きだよ。


「これ……全部銃、ですよね? 一体どれだけあるんですか?」


「ヴァイスどれくらい?」


「詳細は明かせませんが一万以上はあるかと」


 い……一万!? そこら中の樽だの箱だのに突き刺して保管してある数は確かに尋常じゃないけどまさかそこまでとは……


「君達はこれ程の量でとても驚いてるけど、もし……隣国と本気で事を構えるような事態になれば恐らくこれでも全く足りないと思うよ」


 そう言いながらアルバインさんは近くの箱から銃を一丁取り出し、私達の近くまで持ってきた。そういえばさっき私の銃をここよりも進んだ物と言っていたけど、確かにガワの装飾はともかく機構は長い歴史から見ても恐らく初期の方だと思う。


 正直銃の歴史は人に講釈出来る程詳しくない。でもこれは……かつて日本を一大生産地とさえ言わしめた火縄銃にとても良く似ている。


「やはりエルマ君にはこれが一体何か理解出来るようだね」


「いやだって自分でも銃の工房だって言ったじゃないですか」


「確かに僕はそう言ったけど、じゃあ君達はこれが銃に見えるかい?」


 アルバインさんは視線をレダさんとディドさんに移しながらそう問うと、私の予想とは裏腹に顔を顰めうぅむと言葉を濁す。


「確かに先に銃の工房だって言われたから成程そうも見えるけどねぇ……」


「事前情報が無ければ正直な所杖とかそういう物にしか見えなかっただろうな」


「実際の所、今でこそこれが銃という武器だと認識出来ているけど、僕もこの目で撃つ様を見るまでは二人と大体同じ反応だったよ」


「……う」


 何か以前もこんな事あった気がする……いやだって仕方ないじゃん分かっちゃうんだもん! 知らないフリなんて出来る訳ないし、そもそもそんな演技力が私にあるんだったらこんなに苦労しないっての!


「まぁまぁ、そんなに警戒しなくても良いよ。むしろ素晴らしいともろ手を挙げて称賛したいくらいさ。そして本命はこれじゃあない」


 そう言いつつアルバインさんに手招きされて倉庫の一番奥に行くと、そこには色んな動物の皮を繋いで大きくしたシートが被さっている何かが待ち受けていた。


「ヴァイス、剥がしてくれ」


「かしこまりました」


 バサッと大きな音が上がると共に埃が舞い散り、思わず手で口を押え顔を顰める。口を押えたのは勿論埃のせいなんだけど、顔を顰めたのはそういう訳じゃない。だってこれは……こんな物まで異物になっているなんて……!


「その実、銃や蒸気技術に関する異物を掘り出し管理してたのはアルバイン家なんだけど、そもそも異物が鑑定されたのは一度国にこういう物が出てきたと提供してからなのさ。で、こちらに返却されてから暫くして父上と国との間で一悶着起きてしまった。まぁそれはどうでも良いんだけどこればかりは流石に大き過ぎて長距離輸送はちょっと難しいっていう名目でここに置かれる事になった」


「名目? って事は裏があったのかい?」


「僕もあんまり詳しく無いんだけど、まぁはっきり言っちゃうと隠し玉として残しておきたいとか何とかって話を父上から聞かされたよ。まぁ腹の内を何でもかんでも見せるのも不愉快なのは僕も同じだし、今もこうしてここに置いてるんだけど」


 アルバインさんは姿を現したそれに手を置きながら「そんな事よりも」と私に視線を向ける。思わず視線を逸らしちゃったけど、逆にそれがマズかった。この人飄々としている割に機微にとにかく敏感で、恐らく感づかれてしまったと思う。


「君達はこれがどんな物なのか、想像出来るかい?」


 アルバインさんが敢えて私ではなくレダさん達に話を振ると、「そう言われてもねぇ」と首を傾げるレダさんを脇目にディドさんは「いや……この形状何処かで」と地面に接している部分を繁々と眺める。


「そうだ、この形状大きさは違えど俺達が乗ってるあれと同じだ」


「あ、あぁ~……確かにそう言われると似てるかも」


「二人の言う通り、これの車輪に相当すると思われる部分には君達が乗ってた蒸気車両と酷似してる点が幾つもある。それと上部に筒状の柱が長く伸びてるが、形状から察するに恐らく銃のような機能が備わってるのではないか、というのが仮設となってるんだけど、結局の所鑑定するには至ってない。そこでエルマ君、敢えて聞こう。君はこれが何か分かるかい?」


 この人、見た目とは裏腹に本当底意地が悪いな。分かるかだって? そんなの……分かるに決まってんでしょ! 世界最強最大の工業国がその力を如何なく発揮し各国が採用する程の大ベストセラーにまで上り詰め、馬鹿でも乗れるとさえ評価された傑作。兵器関連に疎い私でさえその姿と名前を何度も見たっての。


「アルバインさん。私も敢えて聞きたいんですけど……もし仮にこれを鑑定して世に放ち、まして量産するような事態となれば隣国とのパワーバランスが滅茶苦茶になりますよ」


「……! 成程、君がそこまでの考えに至ってるのも興味深いけど、そうか、これはそれ程までの代物か」


「膨らみ続ける軍備はいつか必ず限界が来ます。そして一度暴発してしまえば、後はもう引けませんよ」


「フフ、まるで君は見て来たかのように言うんだね。とても面白い。でもね、これが隣国にない確証は何処にも無いし、もしかしたらさらに上を行く何かを隠し持ってる可能性さえある。便宜上仕方なく軍に籍を置いてるのもあるけど、ここは僕の故郷だ。あらゆる可能性を考えて最善を尽くさなければ、その時に後悔したって遅いんだ」


 言っている事は正直分からないでもない。もし……もし仮にかつての大戦でこんな風に技術を獲得出来たならと思うと、何かと妄想が膨らむし。


「……正直、こんな物を世に出したと名を刻むのは嫌なんですけどね」


「大丈夫。汚名となるかはともかく世に出す時は僕の名を使うから」


「なんの慰めにもなってませんよ。……今一度確認しますけど、本当に良いんですね?」


「勿論。それが血を流す結末になろうと、けじめは僕が付けるさ」


 ……あ~ぁ、とんでもない事に巻き込まれちゃったもんだわ。でもまぁ、それこそ後悔先に立たず、か。この手の物を鑑定するのは久し振りだ、ちゃんと戻って来れれば良いんだけど、まぁなるようにしかならない。


「スゥ、ハァ。……良し」


 皆の視線は一身に私へと注がれ、誰かの固唾を呑む音も聞こえる。やはり興味津々なのは皆も同じなのだろう。そして私が手で触れながら「戦車、だよね」と口にすると、バキッと音を立てながらひび割れていく。うん、思った通り。という事は……意識を持ってかれるのも……予想、どお……

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