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異物鑑定士  作者: くらげ
41/51

41 理由

 そんなこんなで私達はこの微妙に胡散臭い男の後に付いて街中をどんどん進んでいくと、工場の手前辺りにあるひと際大きな建物に通された。正直工場に直行するのかと思っていたから拍子抜け感は否めないけど、ここはここでまぁ……何と言うか金持ちってこういう家だよねを地で行っている感じで、それなりに興味がそそる。


「さて、応接室に着いたよ。君達も存分にくつろいでくれたまえ」


 一階奥のとある一室の中は、男が言うように客人を招きもてなす為の調度品やら何やらが整然と置かれている。真ん中にあるソファも思わずうわぁと声を上げてしまう程柔らかく、正直座りにくいような気さえしてくるレベル。いやはやお金ってあるとこにはあるもんだ。


「それで、わざわざ俺達に……いやエルマに何をさせるつもりだ」


「まぁまぁゴレム族の君、少し落ち着きたまえ。少なくとも取って食おうなんて気は無いよ」


「はん、どうだか。軍の連中を使って我が家にご招待なんて、聞いた事も無い」


「いやぁ癇に障ったのは申し訳ない。でもあの場で撃たれても僕も困るし君達も困った事になる。致し方無い事だったのさ」


「それです! 何故貴方は『これが何か』分かるんですか!?」


 そう言いながら外套の奥から銃をチラッと見せると、男は「君も随分せっかちだね。ほら丁度良く茶の用意も出来た事だし、まずは一服つこうじゃないか」と笑みを浮かべる。


「一応聞いとくけど毒を盛ったりしてないだろうね」


「それは流石に心外だなぁ。何だったら好きなカップを選んで取っても良いよ」


 正直この男の提案が本当に毒が盛られていないのか信に足るか微妙だけど、結果だけ見れば誰も具合を悪くしていないみたいだし、取り敢えず良しとしよう。


「さて君達も疑問が山程あるだろうが、まずは自己紹介と行こうじゃないか。最初はこの僕、名前はアルバインだ。よろしく。こっちが執事のヴァイスね」


 あぁさっきお茶を淹れてくれたおじさんね。やっぱり執事って特徴的な髭がイメージ強いけど、例に漏れずこの人もやっているし、みんな考える事同じなのか。というのはどうでも良いとして、何でか二人が固まっちゃったんですけど?


「アルバインって確か……この国で指折りの豪商じゃないか」


「やぁエルフ族の人も知っていたんだね、その通りだ。アルバイン商会は我が先祖が興し、今は父が長を務めている。本来僕の名である『エイガー』って名乗った方が良いんだろうけど、アルバインの方が通りが良いからね」


「そんな豪商の子息が何故こんな場所に。軍に金でも払って雇っているのか?」


「いや違うよ。だって僕ここの市長だし、もっといえばここの駐在軍の一番偉い人だし」


「……は?」

「はぁ!?」

「なっ……」


 私達が各々反応を示すと、アルバインさんは「良い反応だね」と笑い飛ばした。


「ここは蒸気都市と呼ばれる遥か前からアルバイン家が仕切っていた父祖伝来の土地でね、今程栄えてないにしも砂漠のオアシスを抑えるのは大変重要だと早々に手を出したらしい。で、国の上層部は何を思ったのかここを蒸気施設を主とした軍事拠点したいと言い始めたのさ」


「それが蒸気都市ヴェイパの始まり、という訳か」


「そう。でも当然ながら事はそう簡単に決まるもんじゃない。当時の長は僕の父なんだけど、ここをそんな訳の分からない物にする訳にはいかないって突っぱねたそうだ。当然だよね、オアシスを潰す訳に行かないし何より国がでしゃばるのも面白くない」


「でも結果だけ見れば国の言う事を呑んだんでしょ? 何で心変わりしたのやら」


「なんでもヴァイスの入れ知恵があったんだってさ。ねぇ?」


「入れ知恵、とは悪い側面もありますので『はい』と首を縦に振るのも憚られますが、確かにご助言差し上げたのは間違いありません」


「その助言とは?」


「当時巷ではこんな噂が流れるようになりました。『隣国に異物由来の秘匿情報が流れた』と。もしかしたら皆々様も存じ上げておりますやもれしませんが、その噂の真偽はさておき隣国にそういった動きがあったのもどうやら事実、ともすればこの地は戦火に呑まれる可能性もあると先代様にご助言差し上げた次第です」


「そして現在に至る、と」


「……父は今わの際まで悔いてたよ。アルバイン家が管理していた秘匿情報がまさか流出するとはってね。しかもそれを初めて聞かされたのが国からって言うんだから恥なんてもんじゃない。そしてある種戒めとする為にこの駐在軍の長も務めるようになったって話さ」


 要約するとアルバイン家が発掘した異物の情報は国へ提供され、その情報が何処からか漏れたと国が言い出した。最初こそ拒否していた先代もそれを聞かされてはどうにもならず、ある種責任を取るような形で長を務める事となった、と。端的に言えば後ろ暗い気持ちに付け込んだ感じか。随分といい性格してるね、お偉いさん達は。


「ところで身の上話はともかくもうそろそろ本題に入りませんか?」


「おぉそうだったね。……本来ここで作ってる物は国のあらゆる異物においても秘匿中の秘匿でね。隣国にはどうせ漏れてるだろうかあれだとしても、少なくとも国内においてその存在を知ってる者はまず居ないと断言して良い。それを踏まえて君に問おう、何故銃を持っている? それもここで作られている物よりも小さく高性能と思しき物を」


 ……ここで銃を作っているのも衝撃だけど、そこに突っ込んでくるとは……参ったなぁ。


「それを聞いて……どうするんですか?」


「どうするもこうするも無いさ。本来世に出回ってない筈の持ち歩いてるんだ、情報漏洩の嫌疑を掛けられても全然おかしい話じゃないって事。僕が言ってる事、理解出来るだろ?」


「じゃあ何だい、エルマを隣国だか何だかに情報を流したって疑ってんの!?」


 レダさんの激昂にちょっとビクッとしたけど、そう言ってくれるのはとっても嬉しい。ただアルバインさんは恐らくそんな事聞いているんじゃ無いんだと思う。だって私が異物鑑定士である事を知った上でここに連れてきた訳だし。ちょっとそれで攻めてみるか。


「少なくとも私は初めてここに来ましたし、そもそもヴェイパ(ここ)を知ったの自体つい最近です。それにアルバインさんは私が何なのか知っている時点でもう答えを用意している筈では?」


「まぁそれでも一応ね。そして君がそう言うのであれば、ここに来てもらった理由もつまりそういう事だよ」


「でしょうね。でなければわざわざ私を鑑定に呼びつける筈が無い。逆にどうやって私の事を調べたのか聞きたいくらいです」


「ま、君は自身が思ってる以上に噂になってるよ。それらをヴァイスが精査して僕の耳に届いたって訳だね」


 あぁ~……まぁなるべく目立たないようには振舞っていたけど難しいよなぁ。そもそもあんなもの(クラート)を乗り回していた時点で衆目に晒されているようなものだし。


「僕が求めてるのは普通の異物鑑定士じゃあない。事実これまで数多の鑑定士に依頼してやってもらったけど、誰一人鑑定に至る事は無かった。そんな頃偶然君の話が飛び込んできたのさ。未だかつて誰も見た事が無い蒸気車両を駆り、ここで作ってる物よりも進んでると思われる銃を所持してる。これは逃す手など無いだろう?」


 だろう? じゃないっての。あぁなんて運命的な出会いなんだ~みたいな雰囲気出しているけどさ、結局は一方的なのを分かっていないんだよね。

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