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異物鑑定士  作者: くらげ
37/51

37 危険がいっぱい

「あ~ぁ、何か変に疲れちゃった……レダさん、現在地って分かります?」


 何とも言えないどんよりとした空気のまま外まで戻ってきた私は、これから移動するにしてもひとまず大体でも現在地を知ろうとレダさんに地図とコンパスを渡した。「どれどれ」とスイスイなぞられていく綺麗な指が止まったのは目的地までおよそ五分の一って辺りかな? カーナビがあるでもなし、精度の程は不明にしても案外結構進んでいたんだね。


 それから返してもらった地図を何気なく見ていたんだけど、そういえば聞きたい事があったんだった。もう一回レダさんに聞いてみようっと。


「レダさんもう一つ良いですか?」


「うん良いよ。どうかしたかい?」


「ちょっとここ見てください」


 そう言いながら指指したのはセントネルズから北に広がる『ノレド大森林』のずっと北、地図上では途切れているけど地図のセントネルズがすっぽり収まりそうな大きさの黒い穴? のような物が描かれている場所だ。いつか聞こう聞こうと思っていたんだけど何やかんや今になっちゃった。


「あぁここか。これは『ノレドの大穴』って言われてる場所でね、実際あたしも見た訳じゃ無いけどとんでもない大きさの穴が開いてるらしい。それに──」


「──それに?」


「いや、折角だし暇つぶしがてら移動しながら話すよ」


 との事なので早速ディドさんに昨日隠してもらったクラートを出してもらい、色々片付けとか済ませて出発した。昨日と同じくらい暑い日差しと照り返しが鬱陶しいなぁもう、まぁそれはさておいてさっきの続きといきましょうかね。


「レダさん、さっきの続きを聞いても良いですか?」


「はいよ~。ちなみにエルマはプルトン教団って覚えてる?」


「確かプルトンっていう神様を本気で蘇らせようとしている迷惑な連中、でしたっけ?」


 これを初めて聞いたのは食人の巣にお邪魔した時か。……いやぁあの時は本当に大変だった、大量の食人に襲われるわ異物に意識持ってかれるわでもう大騒ぎ、だからこそ逆に鮮明に覚えているってのもあるけどね。


「そうそれ。教団曰くかつて大穴が開く前、そこにはプルトン神が居たらしい。だから何がどうしてそんな大穴が開いたのかは今でも分かってないっぽいけど、古くから伝わる『御伽噺』に似通っている点もあるから連中の間では神聖な土地になってるんだって」


 御伽噺……あぁそういえばお父さんから聞いた事あったっけ。確か最初は一つだったプルトン神が強欲な人々に怒ってそれらを消し飛ばし、二つに分裂したとか何とか。まぁ言われてみれば似てなくもないかもだけど、それだけじゃ信憑性が低いと思うけどなぁ。


「流石にそれは発想が飛躍し過ぎだと思いますけどね」


「確かにそれだけだとね」


「と、言うと?」


「その周辺、ノレドの大穴は国が直接管理しているのさ。普段はっきり言って弱腰な為政者もここだけは亜人だろうと人だろうと、プルトン教団でさえ頑なに近づけさせないんだ」


「つまり国が何かを隠しているって事ですか?」


「そういう事。まぁ国の言い分通り、落ちたら危険だと立ち入り禁止にしているだけかもしれないし、神聖な土地を手中に収めようとする教団の与太話の可能性だってある。それこそ国のトップに聞かなきゃわからないから、真相は深い深い穴の中さ」


 まぁ陰謀論なんて私の世界にさえあった位だしね、他の世界にあっても別に不思議じゃない。……でも何でか気になるんだよなぁ。色々調べたい欲求に駆られるけど、下手に藪を突く訳にもいかないし砂漠のど真ん中じゃ調べようにも無理が過ぎる。ひとまず頭の片隅に置いておくことにしよう。




 それから一時間とちょっと経った位かな? たまたま起きていたディドさんが偶然砂に埋もれた遺跡の入り口を発見した。まだそんなに距離を稼いでいないし寄るか進むかで話し合った結果「これから探索を始めれば陽の沈む頃には丁度終わるんじゃない?」とのレダさんの発言により、遺跡に寄る事が決定された。


 一日に二回も遺跡へ潜るなんてまず無いから何か新鮮かも。後は実入りと……変なのが無ければ完璧なんだけどね。こればっかりは行ってみなきゃ分からない。


 という訳で入り口に到着した私達は色々準備を済ませていざ内部へと進入。今回は限りなく自然の洞穴に近い感じで何処を見渡してもがっちりと固まった土ばかり、ただ普通ならなんでこんな砂漠にしっかりした土壌がってリアクションするのが普通なんだろうけど、まぁ今更だよね。そういうもの、だとしか言いようが無いし。……でもそれにしたって何だろう、この変な違和感。


「……こりゃあちょっと、マズいかもしれないねぇ」


「どういう事です?」


 曰く、人が掘ったにしろ自然のものにしろ道の形が一定過ぎるのだそうで、確かによくよく周りを見てみると随分丸みを帯びているように見えた。人工的なそれなら少なくとも足元は平坦なっていてもおかしくないし、自然のものならそれこそもっとゴテゴテしてる筈。


 自然な遺跡を不自然にしたのは誰か、私が聞くまでも無くそれは唐突に姿を現した。


「何……あれ」


「チッやっぱりか!」


「まさか『サンドワーム』が住み着いているとはな……!」


 先の曲がり角から姿を現したそれはミミズとか芋虫とかそんな感じの見た目をしており、この通路をほぼ埋め尽くすような身体と口だけの頭部が目を引く。スンスンと匂いを嗅ぐような仕草をしたかと思えば、こちらを向きながら上がった口角の隙間からだらりと涎を垂らしているけど……これってつまりそういう事だよね!?


「逃げるよ!」


 レダさんの言葉にハッとした私はとにかく足を動かし出口を目指したは良いけど、当然といえば当然(私達)を逃がすまいと巨体をズリズリ動かしながら追いかけてくる。


「ほらほら急いで! あれに喰われちまったらディドだろうと粉微塵になっちまうんだから!」


 それを聞いて後ろにチラリと視線を向けると、大きく開かれた口は通路の隙間をきっちりと埋め、逃げ遅れた餌を受け入れる万全の態勢になっている。『土よ来たれ!』とディドさんの詠唱に応えた周囲の土が太い柱になったりとげになったり、はたまた壁を作ったり、本来崩壊する可能性があるから滅多にやらない事を今ばかりは惜しげもなくやってみせる。


 それでもサンドワームの動きを抑える事が出来ないらしく、生成された物は悉く噛み砕かれ口内の擂り鉢状になった強靭な歯によって擦り潰されながら体の奥へと消えていく。……もしあんなのに飲み込まれたら、考えるだけで……うわ、鳥肌やばい。


「ちょっとディド! もっと気合入れて足止めしてよ!」


「無茶言うな! なんだったらお前が口の中に飛び込んで来い!」


「あ~それ良い案ね、じゃあちょっと硬くなって飛び込んで来なよ!」


「ふざけんのかお前!」


「ふざけてんのはそっちでしょうが!」


「二人共こんな時に喧嘩しないでください!」


 私を挟んで口喧嘩なんかしないでよ、全く鬱陶しいたらないってば。良くもまぁこんな状況でそんな余裕出せるもんだと感心したのは置いといて、実際問題足止めが出来ないのはかなりマズい。あれだけ巨体の癖に随分と動きが速いから少しずつ距離が縮まって来ているし。


「……仕方ない。ディド、遺跡を崩すよ」


 顔を顰めながら頭をバリバリと掻く様を見る限り、本当はしたくないんだろうと私でも察しが付く。いくらそこかしこに遺跡があるとはいえ、崩すという事は一生日の目が当たらない異物が出てくるだろうし、そもそも私達だって無事で済むか分からない。まさに命を対価にした賭けになる、それをディドさんも重々理解しているらしく「本当に良いんだな」と問いかけると、レダさんは「良いからさっさとやる!」と声を張り上げた。


「合図したら全力で走れ!」


「今も全力なんですけど!?」


「もっと死ぬ気でだ! 行くぞ……『土よ、来たれ!』」


 詠唱が済んだ途端に足元が揺れ、地鳴りと共に砂塵が吹き荒れた。多分だけどそこら中で崩落が始まっているんだと思うけど、ここまでド派手になるとは思わなかったなぁ! 冒険映画の主人公かってくらいだよもう!


「ほら走ってエルマ! こんなとこで死んだら承知しないからね!」


「分かってますってばぁ!」


「出口が見えた、もう少し踏ん張れ!」


 本当だ、出口だ! あとちょっとだけなら多分保つ! そう思った矢先、突如前方の通路が激しく崩れ始め、どんどん出口の光を遮っていく。迂回路も無く後方からはサンドワームが崩れた遺跡を頬張りながら迫って来ている。


 あっこれもう駄目だと正直足が止まりそうになっていたんだけど、「邪魔だぁ! 『土よ来たれ!』」と先頭を走るレダさんが唱えると崩れた土壁が強引に両端へと追いやられ、何とか一人分通り抜けられるような隙間が出来た。まだ……死ぬには早いって事か。


「よい……しょっと!」


 私とレダさんは天井からサラサラと流れ落ちてくる砂のシャワーを被りながら、一番大きいディドさんは自慢の腕っぷしでこじ開けながら何とかこれを凌ぎ、そして──


「ぃやったぁ~!」


 光へとダイブした私は思い切り顔を砂に埋める羽目になったけど、不快な砂の感触も暑い日差しも今だけは愛おしさを感じる気がする。あ~ぁ、何とか逃げ切れて良かったぁ……って、感傷に浸っている場合じゃない、サンドワームは!?


 勢い良く振り返って見ると、かつて遺跡の入り口があった筈の場所は無残崩れ落ち、隙間から砂が流入しているらしく所々蟻地獄のように窪んでいた。サンドワームも追ってきている気配が感じられないし、もしかして……中で死んだりとか?


「ディドさん、サンドワームってどうなったんでしょうか?」


「多分死んではいないと思うぞ。これ位で倒せるなら俺達もここまで苦労しない」


 まぁ確かに。あんな見た目して崩落に巻き込まれて死ぬとは到底思えない。じゃあ何で追って来るような気配が無いんだろう。


「サンドワームは非常に縄張り意識が強くてな。(ねぐら)に入り込んだ奴は徹底的に追い詰めるが、逆にそれ以外は結構無頓着らしい。だから脱出さえ出来れば奴は追って来る気を無くすという訳だ」


 つまり私達はサンドワームの無頓着さに助けられたって感じかね。まぁもうどうでも良いか、生きて戻って来られた訳だし。


 その後野宿が出来そうな場所を探す為に早々に出発したんだけど、手頃な遺跡とか穴倉とかそういうのは残念ながら見つけられず、この日は正真正銘外で過ごす事になった。ディドさんが魔法で周囲を囲ってくれたとはいえ、結構寒かった……いや本当に。


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