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異物鑑定士  作者: くらげ
36/51

36 お宝なれど

 遺跡探索は夜が明けてからとの事なので、初めて砂漠の夜を過ごした訳だけども。……うんまぁ知っていたけど結構さっぶい、入り口に近いとはいえ遺跡の中で火を起こしていたにも関わらずよ。そりゃあこんなにしんどかったら好んで砂漠に行きたいって奴の方が酔狂だわ。


 とまぁ一通り愚痴を漏らしたのは置いといて、今は遺跡探索の真っ最中。典型的な石造りの道を注意しながら進んでいる。砂漠という土地柄同業者にかち合うのはあまり考えにくいらしいんだけど、逆に言えばそんな所で仕事に励んでいるって事は余程の熟練者って訳。さらに人の出入りが少ないって事はそこに巣食う魔物が増える事も、とあれば私を挟むディドさんとレダさんがピりついているのも頷ける。


「それにしても屋内ってだけでも大分マシになりますね」


「そうだねぇ。やっぱ本気で殺しにかかってるお日様を避けるだけでも違うよ」


 視線だけ後ろに居る私に向けたレダさんは、「おっと」と一瞬後ずさりするような感じで動きを止め、途切れた壁の向こうをそっと眺めた。多分広間か何か発見したんだと思う。……変なのが居なきゃ良いけど。


 そんな私の不安は運良く杞憂に終わり、レダさんがグッと親指を立てる。……フゥ、割と場数を踏んできたつもりではあるけど、やっぱりどうにも慣れるもんじゃないよこの緊張感は。まぁ愚痴を言っても始まらないしお仕事でも始めますかっと。




「う~ん……あんまり期待した程じゃないですね」


「まぁねぇ。もうちょっと何かしらあっても良かったのに」


 幾つか部屋を探索して見つけたのはちょっとしたマグカップやソーサーだけ。異物由来だから珍しいのは間違いないにしても折角ここまで来たんだからもう少し、ねぇ? 色々ときめく物があっても良いんじゃないかなって思うのは私が欲深だからでは無い筈。


 レダさんと一緒に愚痴を漏らしていると、最後尾のディドさんが不意に立ち止まり積まれた石壁に手を当てた。「ディド、どうかした?」とレダさんが歩み寄ると触ってみるように促され、自身の手で触れてみる。すると「へぇ、これはまた……」と何とも物珍しそうな様子で呟き、ペシペシと石壁を叩いた。


「二人共どうしたんです?」


「エルマもここの隙間に触れてみると良い。そうすれば分かる筈だ」


 ディドさんが指指す場所に私も恐る恐る手を触れてみると、手のひらに何かを感じ思わずバッと離す。……いやいや待って、まさかこれ!?


「隠し部屋……ですか?」


「恐らくな。何となく風を感じたような気がして触ってみたら見つけた」


「いや、良く見つけましたねこんなの」


「偶然だ偶然。それよりもどうする?」


「どうする? とは?」


「開けるかどうかに決まってるだろ」


 そうか、中に眠っているのがお宝とは限らないもんね。それこそ以前の植人だとか、もっとヤバい魔物の根城になっていてもおかしくない。この世界ではどんな言い回しか分からないけど、所謂触らぬ神に祟りなしってやつ。


 でもディドさん、それは愚問ってもんですよ。そこにお宝の可能性があるのなら言ってみるのがむしろ礼儀です。レダさんと口を揃えて「開けましょう」「開けるに決まってんじゃん」と頷くと、ディドさんも「分かった」と告げながらフッと笑みを零す。なぁんだディドさんも初めからそのつもりだったみたい。


「今開けるが気を抜くなよ。いきなり襲って来るかもしれん」


「ハッ、誰に物言ってんの。こっちはいつだって気ぃ張ってるっての」


「この風の流れを聞き逃した割には立派な心掛けだ」


「……そういう事もあるっての。良いから早くやんなよ」


 あぁ……まぁこの中じゃ一番耳の良いレダさんが最初に感じ取ってもおかしくないよね。自分でも気にしているらしくばつの悪そうに唇を尖らせながら顔を背けると、それを尻目にディドさんが『土よ、来たれ』と唱える。


 正直ディドさんなら力づくで実際どうにか出来ただろうけど、ここは遺跡の中で当然地下。下手に振動を与えようものなら崩れる危険性がある。ちょっと失礼な物言いをするとそこまで脳筋では無いのは意外でもなく、異物収集家なら慎重になって当然だからね。


 それはさておき行く手を阻んでいた石壁は魔法によって綺麗に組み直され、およそ人一人分の隙間が出来上がった。先の通路にレダさんが腕を伸ばしランタンを突っ込むと、意外と奥まで続いているようで先は暗いまま。ただいきなり襲ってくる魔物も現れず、レダさんは安心したのかひとまず構えていた短剣を下げた。


「さぁて、この先にゃ何が待っているやら」


「珍しい異物なら嬉しいですけどね」


「ま、得てしてこういう所にお宝が眠ってるもんさ」


 「なら良いけどな」と後ろ向きな発言をするディドさんのお尻に膝蹴りを一発かましたレダさんは「さっさと行くよ」と暗がりを照らしながら先へと進んでいっちゃったので、私達もはぐれないようぴったりと付いて行く。


「それにしてもこの壁……床と天井もそうだけど今まで見た事無い作りだねぇ」


 しきりに腕を動かし明かりを移動させながら繁繁と呟くレダさんに、「磨いた石かと思ったがそれにしては綺麗過ぎるし、何より継ぎ目が殆ど感じない。察するに全て同じ素材だとは思うが……何をどうしたらこうなるのか見当がつかん」と壁をコンコン叩いている。


 苔のような物が繁茂していたり至る所がひび割れ欠けていても不自然なまで綺麗な作り、石のような風合い、単一と思われる素材。正直物珍しさの方が勝って気付くのが遅れたけどこれ……いや、まさか、ね。


「そういえばディドさん、石造りの建物って隙間はどうしてるんですかね」


「うん? 随分突然だな。確か石灰と火山で採れる土を混ぜて水で寝ると固まる、セメントとかいうのを使ってると聞いた事がある」


「……成る程、ちなみにセメントって昔から使われてたんでしょうか」


「俺もそこまで詳しくないがセントネルズの大壁を見る限り昔からあったんじゃないか?」


 偶然なのかそれとも蒸気機関と同じように異物から紐解いたのかはともかく、セメント自体はある。でも二人の反応を見る限りそれじゃない。って事はやっぱり……コンクリート、だよね多分。前も防空壕っぽい場所に繋がっていた遺跡もあったから可能性は全く無い訳じゃ無いと思う。……だからこそヤバい、そんな気がする。


「二人共お喋りはそこまでにして、中に入るよ」


 真っすぐな道の恐らく終点であろう部屋の入り口の扉は完全に朽ち、どんな物だったか造像すらつかない。それと内部もこれまでの通路同様大分痛んでいるものの無機質な綺麗さは維持、ただ一部の天井と壁が壊れていてそこから流れ込んだ砂が山となっている。


「珍しい作りではあるが見た感じ何も無さそうだな」


「ちぇっ、せぇっかくお宝にありつけると思ったんだけどなぁ。ま、不貞腐れても仕方ないし適当に調べてみますか」


 この部屋がまともだった頃、一体何に使われてたのか現状想像すら出来ない。二人が言っているようにそれ位何も見当たらない。それっぽい欠片を拾っても壁か天井の破片だったりで、はっきり言っちゃうと作りが珍しいだけのただの空き部屋。流石に私もショックというか残念というか、そんな感じで肩を落とした。あ~ぁ、本当勿体無い。


「探せども探せども砂と石ばかり。本当に何も無さそうですね」


「そうだねぇ。まぁ珍しいもんを見れたから良しとするしかない、か」


 大きく溜め息を吐いたレダさんがディドさんを呼びつけようと砂山の方に顔を向けると、「もう少し待て」と片手間に告げる。あぁその砂山に手を付けたんだ、どうしようか迷ってたけどもし下手に触って余計に崩壊したらマズいし、正直あんなどでかいの弄るの面倒だったからレダさんも揃って触れなかったんだよね。でもディドさんなら土の魔法に長けてるし力持ちだし、何とかなりそうかも。


「何かありそうですか?」


「そう焦るな。こういう時こそグッと堪えて慎重に、だ」


 いやはや分かるけどやっぱりソワシワしちゃうのが人ってもんですよ。私とレダさんもちょっとお手伝いしながら砂山を退けていくと、最奥から何かが顔を覗かせる。明らかに崩れた壁とかの一部とは違い、異物特有の石見た目に否が応でも私達の期待が膨らむ。……けど、それの全貌を一目見た瞬間、私は思わず後ろに飛び退いた。


「嘘……でしょ……!? 何でこんな物が!?」


「どうしたいきなり!? これが何か──」


「──触っちゃ駄目!」


 それを触ろうとしたディドさんに思わず私は声を荒げて止めた。その時どんな顔だったのか自分では分からない、でも二人のギョッとした反応から察するに凄い剣幕だったんだろう。


 それが私の思っている物とは限らない。良く似た物かもしれないし、勘違いかもしれない。……でも、だからこそそれに触れる訳には、ましてや世に出す訳には絶対にいけない。


「お願いしますディドさん、それを地中深く……絶対に誰も見つけられないような深さまで埋めてください」


「……エルマのこの怯えよう、余程ヤバい代物には違いなさそうだ。正直惜しい気もするけど、言う通りしてやんな」


「おう」


 私の提案に乗ってくれたディドさんは魔法でそれを砂の中に追いやり、何処まで行ったか分からないけどとにかく深い深い場所に埋めてくれた。


「ねぇエルマ、別にあんたの事を疑っちゃいないんだけど……あれってそんなにヤバいの?」


「もし、私の予想通りで尚且つ鑑定してしまっていたのなら……恐らく皆揃って数日中には死んでいます」


「……そりゃあまた」


「……とんでもないお宝だったな」


 脅しでも何でもないと朧気ながらでも理解したらしい二人は背筋をゾクリと震わせ、元あった場所を一瞥。そしてそそくさと部屋を後にした。


 私が元居た世界では、過去に色々な研究者が色々な研究に日夜明け暮れていた。それも飽くなき探求心と功名心によって世に誕生した訳だけど、そんな無垢なる卵はただひたすらに純粋に彼らの命を奪った。そして誰が言ったかそれはこう名付けられた。


 悪魔のコア、と。

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