24 掘り当てた異物は
私がはじめてを捨ててからおよそ二か月が過ぎた。色々と忙殺されれば少しでも記憶が薄れるかなと淡い期待をしていたんだけどやっぱり駄目……時々夢に出ては思い出してばっかり。それでもと自分の意思で覚悟を決めたけどさ……ずぅっとこのままだと思うと気分も上向かないよねそりゃ。
で、私の心境はどうでも良いとして私達はちょっとしたピンチに陥っている。ズバリここ最近めっきり遺跡探索の成果が出なくなっちゃったのである。というのも流石に二か月も進めば中央都市にも結構近付いている、という事は当然人の往来も増え同業者との早い者勝ち競争になるのは避けられないって話。同業者が増えるって事は遺跡内でも顔を合わせる機会が多くなる訳だけど……運が良かったらしくちょっと空気がピりつく程度で済んでいた。
そして今、レダさんとディドさんは近くの遺跡に入るか否かで揉めている。
「いくらアガリが出ていないとはいえ、流石にこの遺跡はどうかと思うぞ」
「だからこそさ。普通は危険だから一角狼のテリトリーなんか入らない、そこが狙い目だって言ってんの」
曰く、ここの草原と少しの木々が生えた場所は一角狼と呼ばれる魔物のテリトリーになっているらしい。最初なんで分かるのか不思議だったけど、よくよく見たら木々に変なひっかき傷やら香しい糞尿の匂いやら、教えてもらうと確かにそういうのが確認出来た。
今は獲物を探しに何処かへ行ってるらしく留守番も居ない、そこへ空き巣に入ろうってのがレダさんの主張で、もし戻ってきたらどうするというのがディドさんの主張。どちらかと言えば私はディドさん寄りだけど……あ~ぁ、案の定強引に行く事が決まっちゃったよ。道を示してくれるのはある意味頼もしいけど、わざわざ危ない橋を渡ろうとしないで欲しいものよ。
「ったく、さっさと切り上げて逃げるんだからな」
「いちいちうるさいねぇ、一度決めたんだからちゃんとしな。それでも男かあんたは」
「うるさいのはお前だ、そもそもお前が強引に決めたんだろ。もし何かあったらお前の責任だからな」
「あぁもう、二人共喧嘩は止めてくださいって」
口喧嘩に挟まれる気持ちになってよもう、私より遥かに歳取ってるくせにそういう所は子供っぽいんだから。それにしても見渡す限り土、土、土、梁の一つも無いなんて、どちらかと言えば自然の洞窟みたい。蟻の巣もそうだけど良く保ってられるよねこういうのって。
「あぁクソ、ここもハズレか」
「おいレダどうするんだ。わざわざ危険な場所に踏み込んだってのにアガリのあの字も無いぞ」
「うるっさいねぇ、言わなくたって分かってるよんな事。次行くよ次!」
「……やれやれ、困ったもんだ」
「アハハ……」
部屋っぽくなっている場所はそれなりにあるんだけど、全部スカ。苛立つレダさんの気持ちも分からないでも無いけど、これじゃ骨折り損の何とやらだよ。さて次の部屋は……あぁ、ここも無さそう。あるのは一目で分かる石ころばっかり。……うん?
「……油の匂い?」
と言ったものの実際は多分していない、自分でも何でそう思ったか分からないんだけど何故かそんな気がした。
「こっちかな?」
直感を頼りに地面の土をペタペタ触ってみると、んん? ここだけ変に出っ張っているような気がする。ちょっと掘ってみるか、えぇと確かここに……あったあった。スコップなんて触るのいつ振りだろ。うん、まぁちょっと固いけど何とかいけそう。
「エルマ、何してんのさ」
「いやぁ何かここに埋まってる気がするんです」
初めは半信半疑な様子で見ていたレダさんも、少しずつ何かが姿を見せ始めた事で目の色を変えて手伝ってくれた。……のは良いんだけど、デカくない!? 二人で息上げながらやってるのにまだ全然出てこないんですけど!?
「何だいこれ!? 全然出てきやしないじゃないか」
ぶつくさ愚痴を漏らしながらも明らかに異物のそれと分かる形状で、手を止めようとしない。それにしても……はて、この板みたいな物が綺麗に並んでいる物……何か見た事あるような無いような……?
「だぁぁもう疲れる! ちょっとディド、少しは手伝ってよ!」
「そう言われてもお前らが陣取ってたら居るスペースが無いだろ」
嘘だ、絶対に嘘だ。だって顔がニヤニヤしてるもん。あれでしょ、少しはレダさんに苦労させる為にわざと黙って見てたでしょ。しかも私をついでに巻き添えにしている辺りディドさんも中々人が悪いよ。
「ディドさん、何かこう魔法でどうにか出来ませんか?」
「仕方無い、少し離れてろ」
「ちょっと、エルマと扱いの差酷く無い!?」
「うるさいからさっさと退け、邪魔だ」
顔をぶすっとさせながらもちゃんと退くんですねレダさん。ともかくバトンタッチされたディドさんはどんな手段を取るのか楽しみだ。
『土よ、来たれ』
ディドさんがそう唱えると、異物の周りの土がどんどん柔らかく砂状になっていき、どう表現したら良いやら……何か蟻地獄を逆再生するような感じで異物が上へ上へと昇って来る。……マジ? こんな物も異物になるの!?
「さっすがディド、頼りになるぅ」
「フン、調子の良い奴だ。それにしてもこれ……一体何だ?」
「さぁ? それよりこれどうやって運べば良いのか考えようよ、いくらディドでも担ぐのは無理でしょ」
「流石にここまで大きいとなると厳しいな。やって出来なくも無いかもしれないが、一角狼に絡まれたら厄介極まりないぞ」
「だよねぇ。……固くなったまんまテリトリーを突っ切れば? そうすれば一角狼に噛みつかれたって安心さね」
「一角狼の危険な所は牙じゃなくて角だ、下手すりゃちょっとした鉄板だって貫通するんだぞ。いくら魔法を使おうが貫かれて終いだ……というかお前分かってて言ってるだろ」
「さぁてどうだか」
ま~た言い合ってるよこの二人、本当飽きないねぇ。まぁ二人は放っておくとして……このキャタピラ二つにタイヤが一つ、正直近代の戦争史はあんまり詳しくないけど……どう見てもその辺りの代物だよなぁ。
「ねぇエルマ、もしかしてあんたならこれ鑑定出来るんじゃない?」
「……多分」
まぁこっちに振って来るのも予想していた。でも……戦争絡みって事は、嫌だなぁ、正直ロクな予感がしない。
「一応やってみますけど、念の為に身体を支えてもらってて良いですか?」
「ん……分かった。もし何かあったら引っ叩いてでも戻してやるからね」
「お願いします」
レダさんも私の口振りで何となく察したらしく後ろからしっかりと抱き締めて来た。いや、そこまでやらなくても良いような……? まぁ良いか、何となく気持ち良いし。……良し、取り敢えずハンドルっぽい場所を握ってっと。
「……乗り物?」
……? あれ、何にも起きないや。
「なぁんだ、案外エルマでも分からない事があるんだねぇ」
むむむ。何よレダさんそのがっかりしたようなホッとしたような不思議な声は。……ふむ、流石に範囲が広かったかな。じゃあこれならどうだ。
「車両、でどうだろ」
ピシッ
おっと大正解。……って事はこっちも、やっぱり……かぁ。
──ったく、まさかこんな泥沼如きで立ち往生とはな。なんて運転してんだよ。
──仕方ねぇだろ、元々騙し騙し使ってたんだからよ。
──それはそうだが……こんな泥沼じゃ修理も無理だしどうしたもんか
──そもそもお前修理なんか出来たのかよ
──まぁほんの応急処置位ならな。
──何だよ期待させやがって。
──うるさい。……ハァ、取り敢えず燃料だけ抜いて行くぞ。こればっかりは置いてったらぶっ殺されそうだ。
──あ~ぁ、余計な荷物増やしちまった。
「エルマ~大丈夫?」
「ぅん……あぁレダさん、おはようございます」
「はいおはよう。目覚めはスッキリ?」
「えぇ何とか」
う~んこのムチムチぷにぷにベッド癖になるかもしれない。それはそれとして……おぉ、見事に戻ってる。記憶を見た感じ仕方無く置き去りにした感じだったし、修羅場の真っただ中じゃなくて良かった。いやホント。
「で、これって一体なんなのさ」
「これふぁ……んん、ほっぺを引っ張らないでくださいってば。えぇと、残ってた記憶によれば乗り物見たいです」
「乗り物? って事は馬車みたいな感じか。確かにひっくり返せば荷車みたいなのがありそうだけど……そもそも動くの?」
「どう、でしょうね。一応やってみます」
さっきの記憶でも見えていたけど燃料、多分ガソリン? を抜いていたから実際どうだろう。多分この世界にそんなの無いよねぇ。




