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異物鑑定士  作者: くらげ
20/51

20 仲間入りは断固拒否

「ほら~エルマ行くよ~。早く準備しないと置いてくよ~」


「ちょっと待っててくださ~い、もう少しで終わりますから~」


 あぁもう、あの人昨日の夜しこたまお酒を飲んでたのに何でこんなに元気なのよ。こっちは殆ど飲んでないにも関わらず、久し振りの快適さでほんのついさっきまで寝てたってのに。ぶつくさ文句を垂らしながら何とか荷物を纏め終わり、宿の外で合流した。うんまぁ予想はついてたけどディドさんも同じ位飲んでいたにも関わらずピンピンしていらっしゃる、化け物かよ。


「さぁ英気を養った事だし、今日からまた張り切って行くよ」


「は~い」


「ほらほらエルマ、しゃんとしなって」


 あぁ……さようなら愛しのベッド。何とも後ろ髪を引かれる気分になりながら町を出た。次に町で寝泊まり出来るのは果たしていつになるやら、もう考えるだけで足が重くなりそう。


「それで今日はどうするんです?」


「う~んとねぇ、こっからちょっと北に行った窪地の辺りに遺跡があるって話だ。ちょっと危険みたいだけどそこに行ってみようと思うよ」


「危険? 何か居るのか?」


 おぉディドさんが先に反応するなんて珍しい。まぁ私も気になったから良いや。で、レダさん曰く「ショクジン」なる何かが居るらしく、ディドさんも当然知っているようで面倒くさそうに頭をバリバリと掻いた。はて、ショクジンとな? 響きから想像すると何かこう人を食べちゃう魔物的なのを思い浮かべたけど……当たっていてもあんまり嬉しくないなぁ。


「あいつら北の方にしか居ないと思っていたが、こんな辺境にも居やがったのか」


「たまたまあっちの方が多いだけでしょ。あいつらあんなだし、それこそ何処にだって湧く可能性はあるんじゃない?」


「そりゃそうだが」


「レダさん、食人って何ですか?」


「聞いてくると思ったよ。よくもまぁそれで田舎から出ようと思ったもんだねぇ、お姉さんある意味感心するよ」


 うぐ……痛い所を突かないでください、いや本当に。だって仕方無いじゃんお父さんも知らなかったんだし調べる手段も無いし。……えぇい私が無知なのは認めるから頬をムニムニツンツンするのを止めろぉ!


「ちょっとレダさん止めてくださいよもう……」


「まぁまぁ授業料だと思いなって。ちなみにエルマはどんな物だと思う?」


「分からないから聞いているんですけど」


「それじゃあ面白くないじゃないか。それに想像力を働かせるのは案外色々役に立つかもよ?」


 やっぱり面白がってるし。ハァ……全く本当にこの人は。


「察するに人を食べる魔物みたいな物かなって思いましたけど」


「ふむふむ、ある意味当たってるねぇ。良いよぉ冴えてる冴えてる」


 えぇ……当たってるの? 正直外れていて欲しかったんですけど。というかそそんな場所行くの私嫌だよ!?


「危険じゃないんですか?」


「さっきも言ったけどちょっとだけね。相手の特徴と対策さえ分かっていれば何にも心配はいらないさ」


 ん~……レダさんも自身あり気だし大丈夫なら良いんだけどさ。


「まぁ対策法は後にするとして、特徴から話してあげる。まず最初にショクジンってのは植物が宿った人間、略して植人だ」


「人間に植物が!?」


 創作物じゃ割りと良くある話だけど、いざ実在するってなると変な気分。それに人間に植物って……要するに寄生虫みたいな感じなのかな。


「人間っていうかまぁ厳密には人間の死体だね。植人の元となる植物は人間の死体を宿主に選ぶのさ、それから死体に残っている栄養を吸ってすくすく育つって訳」


「……? 別に聞いた限りじゃ危険には感じませんけど」


 だって死体に宿ってるだけならいずれ栄養を吸い尽くして枯れるだけじゃない? 何がそんなに危険なのよ。


「こいつの一番面倒な所はね、宿主の身体を操って生き物を貪り食い、自分の栄養に変えちまう所なのさ」


 ……前言撤回だよチクショウ! 何それ、つまり私達って植人にとっては美味しいご飯って事じゃん、超危険じゃん!


「あのレダさん、行くの止めません?」


「そんなに青い顔しなくたって大丈夫だよ、確かに奴らはこっちに襲い掛かって来るけど所詮は植物。動きも遅いし何より馬鹿だ、それに元になる死体さえ無きゃ数を増やす事さえままならないから、数匹適当に首を刎ねてやりゃ終いになるだろうし」


「……何で首を刎ねるんですか?」


「植人の根は脳に下ろすからねぇ、そこに栄養が行かなくなったらその内枯れる。そしたら死体と一緒に腐ってさよならさ」


 ……さっきから私の頭を面白おかしくペシペシしているレダさんは無視するとして、これあれだ。何か変な既視感あるなぁって思ったら所謂ゾンビ的な奴だ。……いやいやいや、もし仮にゾンビだとしたらつまり──


「もし噛まれたら……植人の仲間入りって事ですか?」


「ん~どうだろうねぇ、噛まれた奴が生きて戻って来たなんて話聞いた事無いし。まぁ栄養分となったんならある意味仲間入りって事なんじゃない?」


 あえて死体を残して子孫を増やそうとみたいな発想が無いのは、所詮植物だからなのか。なら何処ぞのウイルス性ゾンビよりも有情と考えられなくも無い。どっちにしたって噛まれるのは絶対嫌だけどね。




「おっと、やっと見つけた。エルマ気を付けな、足元がぬかるんでるよ」


「はい。……うわぁっとっとと……あっぶなぁ」


「だから気を付けなって言ったのに」


 そこは窪地になっているせいか地面がやけにぬかるんでいて非常に歩きにくい。こうして……うぉっと、歩くだけでも一苦労だし。んぉ? 何故かディドさんに肩を掴まれて止められたけどどうかした?


『土よ、来たれ』


 ディドさんがそう唱えると、ぬかるんでいた地面は街道のそれと遜色ないレベルまで固く締まり、草で覆われた遺跡の入り口までの一本道が見事に出来上がった。うわぁすっごい、私なら多分途中で力尽きるわ。


「ちょっとディド、やるなら先にやってよ。汚れちゃったじゃ無いのぉ」


「知るか。お前が勝手に行っちまったんだろうが。これならエルマも歩きやすいだろう」


「はいとっても。ありがとうございますディドさん」


 返事は「おう」の一言だけで素っ気無いけど、やっぱり優しいよねディドさんって。何処かの悪戯大好きで愚痴ばかりのお姉さんも見習って欲しいものよ。


 その後、いつものように明かりを準備してから謎のゾンビもどきが蔓延っているらしい遺跡へと突入した。外が湿地みたいになっているせいか内部もいつも以上に湿気がキツく、少し歩いただけでも外套がじっとりと濡れ始めている。何より木の根だか何だかがそこら中にあるせいで歩きにくいったらありゃしない、正直焼いて回りたい気分だよもう。


「レダ、何か聞こえるか?」


「いんや、今の所は静かなもんさ。鼠の足音だって聞こえやしない」


「分かるんですか?」


「そりゃ勿論、この長い耳は伊達じゃないからねぇ。一番奥でエルマが寝息を立ててもバッチリ聞こえる筈さね」


 レダさんはそう言いながら自慢の耳をピクピクと動かす。そういえばいつも狩りに出ているし、変な所で優秀なんだから困ったものだ。


「静かなら良かったですね、意外と噂が先行しただけだったりして」


「なら良いんだけどねぇ。あいつらは普段栄養を無駄に使わない為にじっとしてるし、何より鼠だのの動物の気配一つ無いなんて普通は有り得ないんだよ」


 そういえば……確かに今まで入って来た遺跡も慣れちゃっただけで、ちょこちょこ小動物を見かけている。こういう場所だもん、巣を作っていても全然不思議じゃない。にも関わらず何の気配も感じないって事は──


「──植人の餌になっちゃったって事ですか」


「ご明察だねぇ。奴らは死んでいるから痛みなんて微塵も感じない、だからそこらの野犬に噛みつかれようが気にも留めないで食い始めるのさ。何でも食う、それが厄介な所なんだよ」


 いつもの数倍緊張感を高めながら、一つ一つ路地を確認しては奥へと進んで行く。普段はこんなに慎重では無いんだけど、口調は軽くても危険性は重々承知しているようでしらみつぶしを敢行するレダさんだった。


「っと、部屋を見つけちゃったか。ディド、エルマを頼んだよ」


「言われんでも分かってる」


 部屋の内部へ先行したレダさんは、目よりも耳に意識を集中しているらしく、さっきからしきりに耳を動かしている。すると突然、腰から短剣を抜き取りランタンと共に構え始めた。何か居るのかなと私も目を細めて確認しようとしたけど、全然さっぱり見えやしない。……でもさっきからズリ、ズリと何かを引きずるような音が小さく聞こえているような……?


「チッ。さっさと土に還んなクソどもが」


 レダさんが悪態をついた瞬間、構えていた短剣がランタンに照らされ、宙に軌跡を描いていく。一瞬の剣戟だけど、まるで流れ星のような煌めきは思わず見惚れてしまう程綺麗だった。そんな事を考えて呆けていた私を戻すかのように、ドシャリと何かが地面にぶっ倒れたような音が響くと、「もう良いよ~」とレダさんの声が聞こえて来た。


「何匹居た?」


「三匹。それとディド、ちょっとこれ見て」


 私もディドさんにくっついてそれを見て見ると、うわぁお……首が綺麗に飛ばされた死体が三つ転がっていた。でも意外と流れる血の量が少ない……多分栄養に使われちゃったんだろうけど。……ってあれ? ディドさん達はさっきから死体の衣服に刻まれた紋様を見てる。それにやけに渋い顔してるけどどうしたんだろ。


「これ全部プルトン教団の連中か。まさかこんな場所にまで調査に来るとはな」


「全部死体で助かったよ、これが中身入りなら面倒で溜め息が出る所だったわぁ」


「プルトン教団? 何ですかそれ」


「エルマは太陽神と地底神が元は一つだったって話を知ってるかい?」


 あぁそんな話を昔お父さんにしてもらった気がする。確か元が一つだったプルトン神を人間達が制御しようとしたら、激怒してみんな消し飛ばしちゃった。そしたら二つに分かれて、一つは太陽に、もう一つは地底に消えたとか何とかって。


 って言ったらレダさんが「あれまぁ、珍しく知ってる事もあるんだねぇ」目をぱちくりさせて驚いてるもんだから失礼しちゃうわ。私だって少し位知ってますぅ。

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