19 金は揉め合いの元
朝起きて、近くの遺跡に潜って、戻ったら野営。そんなルーチンワークみたいな事をほぼ毎日繰り返していたら、あっという間に一月が過ぎてしまった。でも地図を見る限りまだまだ、およそ半分どころか三分の一にも達していないっぽい。……うっはぁ、覚悟決めて来たつもりだけどきっついわ。でも今日は違う、なんと今は町へと向かっている最中なのである。
「おっようやく見えて来たねぇ。バスクの町だ」
「以前のラフェンと比べると少し小さいように見えますね」
「まぁ大体こんなもんさ」
「そもそも何で遺跡探索を抜きにして突然町に向かう気になったんです?」
というのも、これまで道中にもちょっと街道から逸れれば小さな村や集落がいくつか点在していたんだけど、一度たりとも寄る事は無かった。それが今日の朝になってレダさんが「今日は町に直行するから遺跡は行かないよ」とサラッと決めちゃっていた。まぁ自由気ままなのは分かり切ってたし町に行く事自体私も賛成だから良いんだけどさ、やっぱり気になる所よね。
「ん~? だってディドの荷物入れそろそろきつそうだしねぇ。ここらで纏めて売り払わないと」
あぁ~確かに何だかんだ言って結構収穫あったしなぁ。宝石類は小さいしそもそも数も片手で余裕な位だから気にしないにしても、意外に残ってて変な壺だの皿だの、果ては絵画まで出て来たからそりゃかさばるわ。当の本人は涼し気な表情をしているけど、私ならその場で潰れる自信があるよ。
「なら町じゃなくても見かけた村とかでも良かったんじゃ?」
「無理無理、そこらの村じゃ買い取る為の元手なんかある筈ないし。普段農耕やら狩猟やらで暮らしてる人間に宝石買い取れなんて言って応じられると思う?」
うん無理ですわ。いくら懇切丁寧に説明したとしても正直怪しさが半端じゃないし、そもそもお金があるとは思えない。私の家だってたまたま異物鑑定でちょっと小金持ち位になったかもだけど、基本的には細々と暮らしてたんだから。
とまぁそんな事を喋っている内に町の入り口まで到着した訳だけど、今回は以前のように番兵さんにお小遣いをあげなくて済んだ。何か残念そうにムスッとしてたけどそんなの私に関係無いし、そもそも子ズルい金稼ぎなんかしないで欲しいもんよ。
「じゃあディド、異物全部売って来るからあたしに寄こして。あんたはエルマと一緒に先に宿見つけといて」
「おう」
「分かりました」
バックパックの中身を全てディドさんに預けたレダさんは、代わりに異物をこれでもかと詰め込むと少しよろつきながらも買い取り屋へと向かっていった。
「じゃあ行きましょうか。とは言っても私は初めてだからディドさん頼りですけどね」
「任せろ。最近ご無沙汰だが馴染みの場所がある」
何やら自信あり気なディドさんと一緒に向かった宿は、ちょっぴりガタが目立つ所もあるけどその分お安い。なんと一人頭一泊三シルで、ラフェンで泊まった宿のおよそ半値。う~んお得。それから鍵を受け取って受付けすぐ近くの部屋に入って見たけど、うん、まぁボロいのは仕方無い。むしろずっと野宿だったから屋根とベッドさえあれば豪華にさえ感じる。
「ディドさん入っても良いですか?」
「あぁ」
部屋に荷物を置いた後、別段する事も無いので隣のディドさんの部屋にやって来た。……うへぇ狭い。私は人よりもすこ~しだけ小さいからそんなに気にならなかったけど、ディドさんにとってはもう子供用ベッドかと錯覚するレベル。バックパックもとびきり大きいからスペース取るし、ラフェンの時もそうだったのかな。
「ディドさん窮屈じゃ無いんですか?」
「まぁ窮屈ではあるが慣れてるしな。そもそもゴレム族はヒトよりもかなり体格が良いから、どうしようもない」
多種族が共存する弊害ってこういうちょっとした所にも表れるものなんだね。私の世界じゃ外国人とのいざこざなんて日常茶飯事だったけど、こっちはどうなんだろう。特に獣人族の始まりとか、あんなの火種にしかならないと思うけど。機会があったら聞いてみよっと。
「そういえばディドさん、レダさん一人で行かせて良かったんですか?」
「うん? 大丈夫だろ」
「でもあれをみんな売れば結構なお金になると思いますよ? ろくでもない連中に襲われたりとか」
「フッ、あいつはイカれてるが腕っぷしは俺も認めている。そこらのろくでなしが束になっても絶対叶わん
。だからそんな心配するだけ労力の無駄だ」
う~ん、いつもは普通なんだけどレダさんの事に関してだけは口が悪くなるというか何というか。どれ位一緒に行動しているのか分からないけど、これもまた信頼の証ってやつなのかなぁ。
「さて、もうそろそろ金に換え終わった頃だろうし迎えに行くか」
「じゃあ私も」
「エルマは駄目だ」
「何でですか?」
「お前が異物鑑定士である事を知っている奴が他にいないとも限らん。考え過ぎだろうがその方が案外丁度良い事もあるからな、自分の部屋で待ってろ」
まぁ……仕方無い、か。私自身金の卵を産む鳥みたいな所あるし。でもなぁ守ろうとしてくれている心意気は嬉しいんだけど、何と言うか息が詰まる気分なのは如何ともし難い。箱入り娘ってこんな気分かな、もう大分外を飛び回ってるけど。
自分の部屋に戻ってから十分位ベッドの上でゴロゴロしてるいると、ドアを乱暴に叩く音と「エルマ~戻って来たよ~」とレダさんの声が外から聞こえて来た。
「もうちょっと静かに呼べないんですか?」
ドンドンとやかましいったらありゃしない。けどレダさんはそんな注意もサラリと流し、ニヒヒと気持ち悪い笑みを浮かべている。何? 遂に頭おかしくなっちゃった?
「い~やいやいや、エルマ様様だよ本当に。まぁまぁまぁ取り敢えず中に入って話そうじゃあないか」
何のこっちゃ? 正直気色悪いしレダさんにディドさんも入って来たから狭くてたまらない。さっさと終わらせて欲しいもんだ。で、ベッドに私とレダさん、ディドさんが床に腰を下ろした所で、レダさんはやけに大事そうに抱えていた小袋の中身をベッドの上にぶちまける。
「いやぁ大量大量。異物収集をやるようになって長い事経つけど、ここまでアガリが出たのは初めてさぁ」
あぁ~そういえば異物を売りに行ってたんだもんね。そりゃ気持ち悪いホクホク顔にもなるか。う~んと、ゴルが二枚にシルが……おぉ結構一杯ある。あとは端数分のカパと半割やらが少々。まぁ相場なんて全く知らないしこんなものじゃない?
「良く分からないですけど良かったですね」
「良かったですね、じゃないよ。エルマの手柄が一番デカいんだからもっと喜びなって」
と言われてもね、お父さんが凄く褒めてくれてたから正直慣れちゃってるのよ。
「流石鑑定士、これ位じゃ驚きもしないな。じゃあ分け前だが、どうする? すっかり忘れちまってたからちゃんと決めとかねぇと」
「別に案分で良いんじゃないんですか?」
あれ、私変な事言った? 二人共変に苦い顔してるけど。……あぁ~もうちょっと色付けた方が良かったかも。どっちにしたって基本的には私足手まといだし。
「エルマ、さっきも言ったじゃないか、あんたの手柄が一番デカいって。ならあんたの取り分が多くなって当然でしょうが」
「私は別にそんな気がしてませんし、気にもしませんけど」
「馬鹿、俺達が気にするんだよ。金ってのはある意味一番内輪揉めの原因になるからな、全員が納得してこそだ」
言ってる事は分かるけど、あんまりもらい過ぎると今度は私が恐縮して気分悪い。そんなこんなでだらだらと話し合った結果。私が五、残りの五は二人で半分ずつという事に決定と相成りました。最初は私が六だったんだけど貰い過ぎな気がして何か嫌だったので却下、次は私が四にしようって案を出したら今度は二人が貰い過ぎだと反発されたので、これもあえなく却下。最終的に間を取る事となった訳です。
旅の目的にお金稼ぎもあるけど、一人でやっても所詮たかが知れてるし、配分を見ても十二分に得を取ってると思う。だからまぁこんなもんでしょ。