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異物鑑定士  作者: くらげ
17/51

17 異物に眠る想い

 私は口から心臓が飛び出るかと思う程驚いた。同様の学者が数多居たとしても、未知だからこの世界の物では無い、それは思考放棄だと言われかねない言葉を平然と言ってのけただから。


「異世界、ですか?」


「そう、異世界。それにさぁ、あたしあんたにもすんごい興味あるのよねぇ。鑑定士とかそういうの抜きで」


 何故だろう、酷く嫌な予感がする。それでも一応何故か問いかけると、レダさんは「それだよそれ」と私の脇辺りを指差した。


「確か銃、とか言ったっけ? どっからどう見ても異物なのにも関わらず、この世界で見た事も聞いた事も無いそれを何故あんたは知ってる? 本とか宝石ならいざ知らず、それが何か理解してこそ鑑定出来る筈なのに、おかしいと思わない?」


 レダさんの言葉はまるで私が何者か見透かしているかのように、すらすらと流暢に出て来た。曇り一つ無い疑問はもはや確信へと至っているレベルで、どう反応して良いかすら分からない。


 どうしよう……本当の事を言うべき? いやでも、もし正直に答えたら今度こそ目の色を変えて何処かに売り飛ばされるかもしれない。そうしたら奴隷なんてもんじゃない、一生研究材料扱いされるのは馬鹿な私でも分かる。……でも、どうすれば。


 取るべき行動が分からないままどんどん奥へと進んで行く。今の私には足音も、時折聞こえる水滴が落ちる音ですら緊張を煽る不愉快な雑音でしかない。


「ねぇエルマ、是非ともあんたの意見を聞かせてもらいたいんだけどねぇ」


 ……やっぱり正直に打ち明けるしか無いのかな。でもいまいち踏ん切りがつかなくて声が出てこない……うぅ、本当にどうしたら……実際の時間は大した事無かっただろうけど、酷く長く感じる重い空気で俯いていた私の頭に、不意に手が置かれた。ゴツゴツとしていて何処か男臭い、でもお父さんを思い出す、そんな手だった。


「レダその辺にしておけ、エルマが困っているだろ。お前はいちいち場の空気を悪くしなきゃ気が済まんのか?」


「おっとついうっかり。悪いねぇエルマ、気になる事は追及したい性分でね、悪気は無いんだ。それに、人には言いたくない事だってあるだろうし、綺麗さっぱり忘れておくれよ」


「え、あ、うぅ……はい」


 そんな簡単に……忘れられたら苦労しないってぇの……! ハァ、ディドさんのお陰でバラさなくて済んだけど、多分反応を見る限りほぼバレてるよね。……自分で明かすまでは待っててやるって事で良いのかな。


 変な気苦労のせいで重くなった足取りだけど、幸か不幸かじきに広間を見つけた。見つけたのは良いんだけど、これは……


「いやしっかし町から近いだけあって完全に荒らされちゃってるねぇ」


「見た感じ腐ったような板切ればっかだな。どうする? 他を当たるか?」


「う~ん、見逃しがあるかもだし一応探してみるとするかねぇ。普通の連中なら宝石類は石ころと同義だし、一個でも見つかりゃ御の字さ」


 という訳で始まった異物探し。かび臭いグズグズになった板切れを起こしてはそれっぽい石を鑑定してみたけど、全部外れも外れ。まぁそんなホイホイ宝石なんて落ちてる筈も無いし当然っちゃ当然なんだけど、ここらで一つ実績を上げとかないと偽物扱いされそうでヤバい。主に私の命が。


 本の欠片でも何でも良いから出て来てください、お願いします。板切れを起こす度にそんな事を祈っていると、ついに祈りが通じたのか変な物を見つけた。これは、人形……というより市松人形だよね多分。


「エルマ、何か見つけたのかい?」


「あ、はい。これなんですけど」


 レダさんのに市松人形らしき異物を手渡すと、何故かあからさまに嫌そうな表情を浮かべた。折角念願の異物なのにそんなに渋い顔する必要ある?


「どうかしたんですか?」


「あぁ、エルマは知らないかもだけど人形の異物ってのはあんまり金にならないのさ」


 何でよ。異国感があってむしろ人気があっても良さそうなのに。


「というのもこういった人形が鑑定された後、変な噂が出回るようになっちまってね」


 噂……あっ、何か分かるかもしれない。


「曰く、夜の間に髪が伸びただの喋っただの、歩いていたのを見たなんて言う奴も出る始末でさ。不気味がって買い取り屋もあんまり良い返事してくれなくなっちまったのさ」


 あぁ~……良くある七不思議的なやつね。私も昔テレビでそういうの見た事あるわ。実際は劣化とかでそういう風に見えるだけだなんて言われてたけど。


「じゃあそれどうしますか?」


「売れない方が多いからねぇ……賭けで持ち帰るのもありっちゃありだけど、少しでも荷物は増やしたく無いし……置いて行くのが賢明かな」


 まぁ……仕方無いか。これ位良いだろうって積み重ねが後々手間になるよりも。……でも、こんな所に石のままで居るより、せめて元に戻してあげても罰は当たらないよね?


「レダさん、一応鑑定しても良いですか?」


「ん? あぁ良いよ。こっちもあんたの実力を見れるんだ、願ったり叶ったりさ」


 では改めまして。元の姿に戻ってね──


「──お人形さん」


 ピシリ、そんな音を立てながら少しずつ石が皮のように剥がれ落ちていく。フゥ良かった、成功して。銃の時もそうだけど大まかに分かっていれば大丈夫なんだから有り難いもんよ。それに……正直私は見慣れた光景だけど、二人共目を丸くして凝視しているのが少しだけ優越感に浸れて気持ち良いかも。


「はぁ~鑑定するとこんな風になるんだねぇ」


「これはまた不思議なもんだな。けど鑑定士ってのが本当で何よりだ」


「当然です。嘘なんかついてませんよ」


「それはそれでどうかと思うけどねぇ」


「いやまぁ……つっ! ぐ、あぁ!」


 レダさんから視線を逸らしながら照れ隠しで頬を掻いていると、最後の一欠けらが地面へと落ちた。その時、頭が割れるような酷い痛みに襲われた。……うっかりしていた、異物には……記憶が──




 ──やったぁ! ありがとうお婆ちゃん!


 ──こら! 折角お母さんが作ってくれた物を乱暴に扱うんじゃないよ!


 ──ふふふ、良いのよ。あの子が喜んでくれたなら、それで十分さね。




 ──駄目お母さん、あそこにはお婆ちゃんが! 戻って助けなきゃ!


 ──馬鹿言わないで! 早く防空壕に行かなきゃ……あんたも死んじまうんだよ……! 早く来なさい!


 ──ふ……ふふ。二人共、早くお逃げ……ちゃんと、生きとくれよ。……あぁ、お前さんもここに居たのかい……あの子には悪いけど……一緒に、逝きましょうかね……ぇ……




「……マ……エルマ……エルマ!」


「……ッハ! あれ、避難は!? 火の海が!?」


「落ち着きなよエルマ! 一体どうしたんだい!? 突然倒れちゃってビックリしたよ」


 酷く思考がぼやけていたけど、目の前には焼け落ちた家ではなくレダさんが居た。震える手で胸に手を当てると、痛い位早く動いている心臓が嫌でも分かる。全身からじっとりと汗を垂れ流し、呼吸も浅く早い。……あの時の銃と一緒だ……私は……


「少しは落ち着いたかい?」


「はい……ごめんなさい……」


「良いさ。何があったかは後で聞くとして、今日はもうさっさと出ちまおう。ディド、エルマを頼んだよ」


「おう」


 レダさんが私の頭をポンポンと叩いた後ディドさんは私を担ごうとしたけど、どうしてもしなくちゃいけない事があったのでちょっと待ってもらった。


「あんた、まさかその人形持ってくつもりかい?」


「いえ……ここに置いて行きます。多分……この子もそれを望んでいます」


 地面に落ちていた人形を抱え、なるべく人目に付かないように部屋の隅の壁へ持たれ掛けさせた後、そっと手を合わせる。私が体験した記憶から鑑みるに、何故こんな所に市松人形があるのか、何故最初に防空壕みたいだと思ったのか……多分、そういう事なんだろう。


「満足したかい?」


「はい、お手数かけました」


「良し、じゃあ後はディドにおぶさってな」


 帰りはディドさんの背中で楽出来たけど、頭が天井に擦りそうで正直怖かった。それにしても……やっぱり異物は異世界の物、もっと言えば恐らく遺跡もそうだろう。銃の時は少々ぼやけた記憶で、そもそもそんな場合じゃ無かったから確信には至らなかったけど、あの子の記憶に触れてしまった以上……そう判断せざるを得ない。……あ~ぁ、これレダさんに言うのやだなぁ

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