14 旅は道連れお供は如何
「それで私についてきた本当の理由は何ですか?」
「いきなり核心だな」
「当然でしょ。私、命を狙われる理由なんて無いもん」
「あぁ……実際はそうとも言い切れん」
「どういう意味です!?」
「それも含めて順を追って話す。まずは落ち着いて欲しい」
落ち着けって言われても……命を狙われているって宣言されてゆったり出来る程神経図太く無いよ……この人も本当に信用出来るのか分からないし、あぁ本当に参っちゃう……
「そもそも俺達が君を追って来たのは、まぁ、そのなんだ……端的に言えば金目的だ」
「それって……私を攫って身代金を要求する的な?」
「違う、いくら何でも何処の誰かも分からん奴を攫うなんて、場末の奴隷商絡みの連中位だ」
「奴隷!? じゃあ私をその奴隷商とかに売りつけるつもりで──」
「──だから違う、そうじゃない。だが、君の存在はそういった連中を惹きつける可能性がある。何故かと言うと君は昨夜、自分は異物鑑定士だと言ったな?」
確かに言ったのははっきり覚えているけど、それが何かあるの?
「言ったけど……」
「異物は鑑定前でも金になるが、鑑定済みとなれば値段は遥かに高くつく。いわばたかが石ころを金に変える錬金術、そんな力を放っておく筈が無い。分かるか? 君はあの時自分は貴重な人材ですと自ら吹聴したようなもんだ」
……うぅ。今までそんなの考えた事も無かったけど、確かにその通りだ。石を金に変える力なんて誰もが欲しいに決まってる。私が甘かったと言わざるを得ない。
「じゃあ、なんで貴方達はわざわざこんな回りくどい真似を? さっき言いましたよね、お金の為だって。自分で言うのもなんですけど、さっさと捕まえれば良かったんじゃ……?」
「確かにな、けど俺達が求めているのはそんな一時のはした金じゃない。もし本当に君が異物鑑定士なら、収集だけじゃ無く買い取ってでも異物を集めれば幾らでも金を稼げる。だから初めは穏便に取り込みたかったんだが……あの大馬鹿、何を狂ったのか君に襲い掛かりやがって」
そう言いながら大男は眉間に深い皺を刻みながら後ろのお姉さんを睨み付けた。でも当の本人は治療が終わったのか木陰で寝転がっている。いい気なもんだよホント……
「でも、それでも……例え狙われるかもしれなくても貴方達と一緒には行けません。幾らなんでも信用出来ませんよ」
「まぁ……だろうな。ただ覚えておくと良い。次に出会う連中がどんな奴か分からないが、君の思う良い人とは限らない。とすれば君の秘密を知ってなお穏便に済ませたいと思っている我々を、仲間にしておいた方が利口だと思うがな」
この期に及んで……脅し!?
「そんなの、信じられると思いますか!?」
「無理だろうな、でも事実は事実だ。どっちにしたって一人旅は危険が多い、護衛を雇ったと思えばそんなに悪い話じゃないと思うぞ」
それはまぁ……確かに一人でいる以上必ずついて回る問題だけど、う~ん……
「どうしても……少なくともあの人は信用出来ないんですが……」
「そりゃあなぁ、俺だってそうだ。ならあいつはともかく俺を信用して欲しい。そう簡単には出来ないだろうが、一緒に入れば気持ちも変わるかもしれん」
う~ん、むむむむむ……あぁもう!
「分かりました、分かりましたよ! 一緒に行けば良いんでしょ!? その代わり死んでも最後まで私を守ってくださいね、何処かに売り飛ばしたら一生恨みますから!」
「あぁ当然だ、約束しよう。もし反故にしたらさっきの変な物でぶち殺してもらって構わない」
大男がニヤリと笑ってるけど、単に嬉しいからで良いんだよね!? 騙して悪いがとかそんなの無いよね!? あ~、早まったかなぁぁぁ……!?
「なになに? ついてって良いの?」
げっ、あのお姉さんさっきまで寝てたのにいつの間に!?
「おい、誰が来て良いって許可した。言ってみろ」
あれぇ? てっきり私はこの大男がお姉さんの尻に敷かれてると思ったけど違うの?
「あいだだだだだ! 馬鹿止めろ、砕ける、頭砕けるぅ!?」
「馬鹿はどっちだ。ちったぁ反省しろ」
巨体に見合った大きな手はお姉さんの頭をがっちり掴み、万力のように締め上げ幾ら罵声を浴びせて暴れても一向に力を弱めない。うわぁ……これはちょっと同情しちゃう。
「ぐおぉあぉぁ……殺されるかと思った」
「殺されると言えば、お前さっさとこの子に謝れ」
「あぁん!? ど~してあたしが謝んなきゃなんないのよ」
「馬鹿か。お前のイカレた行動のせいでどれだけ迷惑を掛けたと思っている。それに……この子が手心を加えなかったらきっと今頃くたばってたぞ」
大男に諭されたお姉さんはばつの悪そうにこっちをチラチラ見ては頭をポリポリ、そんなに人に頭を下げるのが嫌かね。こちとら死ぬかと思ったっていうのに。
「……チッ、はいはい。あたしが悪かった。どうか許してください~」
結局大男の無言の圧力に屈したみたいだけど、最後の最後まで素直じゃ無いなこの人。まぁこれで手打ち、水に流そう……と簡単には割り切れるもんじゃ無いけど。
「許すかどうかは置いといて、これからどうするつもりなんですか?」
「ちょっと、人の誠意を置いとかないでよ」
「基本的に君についていく予定だ」
「無視!?」
「うるさいぞさっきから。とにかく我々も手助け、助言はするがあくまで護衛。君の指針に従おう」
「となると……この街道をずう~っと行って中央都市に向かうつもりです」
「成る程な、確かに中央都市なら初めての旅のゴールとしてもアリだろう」
「あ、いえ。最終的には南に向かおうかと」
「南? ……とするとサウラ砂漠地帯にある蒸気都市ヴェイバかい?」
「あ、そうです。良く分かりましたね」
何でか知らないけどお姉さんと大男の目が鋭くなったような?
「ヴェイバか……そこへ何しに行くんだ?」
「何しに、と言われても……なんでも最新技術である蒸気機械で栄えた町ってお父さんから聞いたので、一度見ておきたいなって」
この世界、お世辞にも科学技術が進んでいるとは思えない。だって銃の存在自体知らないという事は、火薬があるかすら怪しい。にも関わらず色々な過程をすっ飛ばしていきなり蒸気機械なんてそりゃ気になるに決まってる。
「どうする?」
「そりゃ行くでしょ。ここに来て怖気づいてたまるかってんだ」
「あの、そこに何かあるんですか?」
「ん? あぁ……まぁそうだね。取り敢えず先は長いんだ、歩きながら話そうじゃないか」
含みのある感じだけど、まぁ暇つぶしにはなるし良いか。長らく停滞していたけどようやく進める。
「そうそう、あんたの名は何だい? 流石にずっとお前だのあんた呼ばわりは仲間としてよろしく無いからねぇ」
仲間ってのはちょっと引っかかる部分もあるけど、確かに名前も知らないのは何かと不便なのは同意だね。
「私はエルマです」
「エルマか、良い名だね。あたしはレダ。で、こっちの無駄にデカいのがディドだ」
「よろしく頼む」
「あ、はい。こちらこそ」
何か変な人だけど無駄にえっちぃ雰囲気のお姉さんがレダさんで、寡黙だけど良い人、でも無題にデカいのがディドさんね。よし覚えた。それはそうと、さっきの話の続きが気になる。
「レダさん、さっきの続きなんですけど」
「あぁそうだね。時にエルマ、親父さんからはヴェイバの事をどんな風に聞かされたんだい?」
「え? えぇと蒸気機械っていう新しい技術で栄えた町、としか」
「ふぅん……まぁ見た感じ田舎から出て来た感があるからその程度だろうねぇ。端的に言うと今のヴェイバは旅で行くにゃお勧めしない」
「何でですか?」
「話すと長いんだけど、まず蒸気都市はそもそも国境付近にあってね、ちょっと色々あってきな臭くなってるって噂なのさ」
「……きな臭い? 国境って事はつまり隣国と何かいざこざを?」
「そ。最初蒸気機械ってのは今からちょっと前、大体数十年位前にこの国で発見された異物から研究された独自の物だったんだ。でも突然砂漠の隣国にも酷似した物が現れるようになった」
「という事はスパイか何かに技術を盗まれた?」
「実際そうとも限らない、遺跡なんざ世界中にあるからね。偶然隣国の遺跡でも見つかった可能性もある。でも国のお偉いさんもあんたと同じように考えて、元はオアシスがあるだけの場所に蒸気機械と技術を集約、それでいつしかそこは蒸気都市なんて呼ばれるようになっちまったのさ」
「でもそれだけならきな臭くなる必要なんて無い筈じゃ?」
「甘い甘い。家のお隣さんが突然変な物で武装を始めたらどう思う?」
……そういう事か。いくら元凶が隣国とはいえ軍拡紛い、紛いじゃ無くてそのまんまだろうけど当然対抗するに決まってる。これはまた……予想以上にヤバそうなきな臭さでしたわ。
「自分が何処へ行こうとしているのか理解した所でもう一回聞くけど、本当に行くんだね?」
そう問われると気持ちが揺らいじゃう……けど、それでも異世界の技術を見るというロマン! これを逃して何の旅か! ……危なくなったら逃げるとしても──
「行きます。そっちこそ怖気づいたんならどうぞ何処へなりと行ってください」
「言ってくれるじゃない。こちとら荒事なんて慣れっこなんだからちゃんと付いてきなよ?」
「分かってますよ」
……はて、主導権が変わっているような気がしたけど気のせいよね、うん気のせい。ひょんな事から同行者が増えちゃったけど、ま、何とかなるでしょ。