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異物鑑定士  作者: くらげ
10/51

10 今改めて

「ねぇお父さん! しっかりしてよ、ねぇってば!」


 慌ててお父さんの元に駆け寄って息を確認すると……うん、大丈夫。まだ息はある。……でも右腕からの出血がヤバい……どうしよう……


「う……エルマ、無事だったか」


「うん……私は大丈夫だけどお父さんが……」


「俺を置いて行け……どのみち血を流し過ぎた。……どうにもならん」


 そんな……そんな、馬鹿な事……言わないでよ。最期だと思って私を撫でないでよ。


「絶対に……諦めてやらないんだから!」


 まずは血を止める、その上で血を増やす。輸血なんか出来る筈も無いし、なら、手段は一つしか無い。


『水よ、来たれ』


 イメージしろ、血が血管を通り増えていくイメージを。多分血液なら固まるイメージも出来る筈。お願いします神様、何とかしてください……! 最後はもう藁に縋る思いで神様に頼り、魔法をイメージし続ける。


 それからどれだけ時間が経ったか分からない。ただひたすらに血が止まりますように、治りますようにと祈りながら魔法を続けていると、唐突に頭の上にポンと何かが乗った。これ……お父さんの手だ。


「エルマ……」


「お父さん!? 大丈夫!?」


 さっきと比べれば顔の血色もだいぶ良くなってるように見える。成功……したのかな?


「ねぇ大丈夫なの!? ねぇってば!?」


「お、おぅ……大丈夫だからそんなに揺すらないでくれ。痛ぇよ」


 おっと、心配過ぎて手に力が入り過ぎちゃった。……でも、本当に良かった。本当に──


「──心配したんだから、勝手に突っ走らないでよばかぁ……!」


 私はもう耐え切れなくなって大声で泣いた。年甲斐も無く、年相応に。そんな私をお父さんは優しく撫で続けてくれる。温かい……この温かさを守れて本当に……良かった。


 一しきり泣いた後、私はお父さんの肩掛け袋の中から包帯を取り出し、分からないなりに傷口を巻いてから地上へと戻るべく立ち上がった。


「お父さん大丈夫? 歩ける?」


「あぁ何とか。しかし……お前こんなのどうやって倒したんだ……!?」


 一つ目熊の死骸をギョッとした様子で見ているけど、まぁそうだよね。正直私ですら本当に倒せたのが不思議でしょうがない。……本当に、撃って殺しちゃったんだね。


「実は異物でこんなの見つけてね。それを使ったらどうにかなったの」


 そう言いながら私は銃をお父さんに手渡したんだけど……あれ、渡したらさっきの私みたいに変な感じになっちゃうかな。


「へぇ、こんな小さい物で魔物を倒せるなんて異物ってのはすげぇな」


 あれ? 予想に反して普通だ。ただ珍しいのかそもそも銃自体がこの世界に無いのか、まじまじと見てるけど。って、お父さん!


「駄目! 銃口見るなんて何考えてんの!?」


 衝撃的な行動に私も思わず声を荒げ、お父さんの手を銃ごと上に上げた。う~ん、銃を全く知らないなら無理も無いかもだけど……心臓に悪いって。折角助かったのにうっかり事故で死にました、なんて笑い話にもならないよ。


「お……おぉ悪い。でもエルマ、何でこれの使い方が分かるんだ?」


「え、え~っと……」


 私の世界にあったから。なんて馬鹿みたいに正直に言える訳も無いし、そもそも何で私も完璧に使えたのか分からない。引き金を引くだけと言われたらそれまでだけど、それにしてもあまりに手に馴染み過ぎていた。まるで自分じゃないみたいに。


「う~ん……神様が教えてくれた、とか……?」


 嘘は言ってないよ。私も知らない何かがあった訳だし……


「……成る程、未知の異物を理解出来るんだから神様が教えてくれるのかもしれないな」


 あ、納得してくれるのね。神様って便利。その後銃は「俺じゃ扱いきれないだろうからエルマが持っていろ」との事で私が預かる事に。正直私も持ってて気分が良い物じゃ無いんだけど、下手に誰かに触られるよりはマシか。


 それからゆっくりと歩き続けてロープまで戻って来たは良いんだけど、ここで一つ問題が。……お父さんどうやって上に戻そば良いんだろ。


「お父さん、ロープ上がれる?」


「いや……流石にキツイな。けど無理してでも上がらないと他に手が無いだろ」


「おばか。怪我人が無理してどうするのよ」


「けどどうする?」


「……私が上から引っ張り上げるとか」


「それこそ馬鹿だろ、というか無理だろ」


 う~ん、はてさてどうしたものか。自分で言ってはみたけどお父さんを持ち上げるのなんて流石に無理。むしろ私が落ちる。考え込みながら何となく崩れ落ちた土砂の山に目を剥けると、一つの考えがピンと来た。


「お父さん、私が先に上がって良い?」


「あぁ任せる。けどどうするんだ?」


「取り敢えず試したい事が出来たの。それでも駄目なら、また考える」


 ひとまずロープをよじ登り、さらに下のお父さんにも手伝ってもらってロープで肩掛け袋を上に上げて……さぁここからが本番だ。気張ってよ私。


「お父さん、そっちの土砂の方に立ってくれる?」


「分かった。こうなったらお前を信じて待つだけだ」


「ん、任せて」


 土で人形が出来るならという事は、土自体を動かせる筈。なら──


『──土よ、来たれ』


「……お、お、おおぉ!? こいつは驚いたな……」


 イメージしろ私。リフトみたいに土を動かしてお父さんをこっちまで持ち上げるんだ。お願いだから保ってよ、私のマナ!


「お、と、とぉ。ふぅ……何とか上がれたな。助かったぜエルマ……エルマ!? おい、大丈夫か!?」


「う、うん……平気平気。多分マナが切れただけだと思うから……」


 うぅわきっつぅ……マナ切れもそうだしイメージし続けるのって意外と頭を使うみたいで吐き気と倦怠感と頭痛が一気に押し寄せてくるんですけどぉ……これ位がマナの限界、良い経験になった。


 結局私とお父さんは互いに身を寄せ合いながらゆっくりと遺跡から出ると、外はもうすっかり星空に変わっていた。ありゃ~……これはこってりお母さんに叱られそう。


「お母さん絶対に怒ってるよね」


「だろうな。俺にとっちゃ魔物なんかよりあいつが怒った方がおっかないぜ」


「私も」


 互いにアハハと笑い飛ばし、星空とランタンを明かりにして夜の山道を歩き続ける。何だかんだこんな時間出歩いた事無いし、少し新鮮かも。……それにしても──


「──お父さんボロボロだね」


「何言ってやがる、エルマも泥まみれだろ」


「それは、そうなんだけど……」


 もし私が、もっともっと稼げたら、お父さんにこんな無茶させなくて済むのかな……?


「ねぇ、お父さん……私少し前にお母さんと話したんだけど、私もお父さんみたいに異物収集家になろうかなって」


「あぁ、結構前に言ってた気がするな。でも何だって急に?」


「私がもっともっと稼げればお父さんだってそんな無茶しなくて良いし。今度は私がお父さんとお母さんを養ってあげられるし。良い事尽くめだと思うけど」


「……! そういう事か。ならもっと上を目指して世界一の異物鑑定士とか目指しても良いんじゃないか?」


「……! 成る程ねぇ。でも世界一って何を以てして世界一なんだろう」


「そりゃあれだ。世界にお前の名が轟けば世界一を名乗っても良いんじゃないか?」


「アハハ何それ、でも……良いね、それ頂きだよ。私……世界一の異物鑑定士になる……!」


「おぉ頑張れ、俺も応援するからな。それにはまず……レベッカを何とかしないとな」


「一番気が重くなるんですけど……」


 その後私とお父さんの悲しい笑い声が虚空に響いたのと同じように、家に帰った瞬間私達の悲鳴がこだましたのは、集落の間でも当分話題になりましたとさ。

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