八話
そのまま腕を組みながら俺達がやってきたのは駅前だ。ここは他の街と比べて発展しておりこの前行ったハンガーガー屋さんに喫茶店など沢山のチェーン店が並んでる。その他カラオケ、ゲーセン、ボーリング場など学生建ちが放課後遊んだりするにはもってこいのエリアだ。まぁ俺は友達いないからほとんど行ったことないけど。
「えへへっルシフェール様とデート。こうして二人で歩くのずっと夢だったんですよぉ」
俺と腕を組みながら隣を歩き、ニコニコしている天ヶ原さん。
改めて今の状況を考えてみると俺はこんな美少女と二人きりで腕を組みながら街を歩いているんだよな。
休日とあって車と人通りが多く、その中にはカップルの姿もちらほら見え、そいつらの顔は何処か眩しかった。俺も周りからはそう見えているのだろうか。だったら嬉しいな。普段の俺ならカップルなんか見ると心の中で滅びの呪いとか呟いてるもんな。
「あっ!ルシフェール様っ! あれ見てください!」
天ヶ原さんが指差す方向にあったのはクレープ屋さんだった。
「ちょっと覗いてみませんか?」
「あ、うん。そうだね」
俺の腕を引いて、クレープ屋さんまで行く。店先のガラス張りになっているショーケースには種類様々なクレープのサンプルが並んでおり、どれも美味しそうだ。
しかし、クレープか。そんなの食べたのは小さいころお祭りだったか遊園地だったかで夏美と食べたきりだな。クレープって基本グループとかカップルとかリア充の食べ物だと思ってたのでなんとなく近寄りがたかったんだよな。
「わぁっ! すっごい美味しそうっ!」
天ヶ原さんがサンプルを見ながら目をキラキラとさせていた。こういう反応は普通の女の子らしくて可愛らしい。
「ルシフェール様。どれにしましょうか?」
「ええっとそうだな……」
俺もサンプルに目を移してどれを注文しようか考える。ここはスタンダートにチョコバナナクレープかな? いや、イチゴのクレープも捨てがたい。
「店員さん。イチゴクレープ一つ下さい」
俺が迷っていると天ヶ原さんが先に注文を済ませた。イチゴクレープか。じゃあ被らないようにチョコバナナでいいか。
「すいません。俺はチョコバナナで」
俺は迷っていた片方のチョコバナナクレープを注文する。小太りのおじさん店員がにっこりスマイルでオーダーをとると丸い鉄板にクレープ生地を流し込む。そしてヘラを器用に使って鉄板に沿った丸い形を作りその上に生クリーム、苺ムース、苺と順番に乗せそれらを生地で包めて完成だ。
俺のクレープも同じ要領で作り、俺達に渡した。手に取ると生地は出来たてなので暖かい。
早速俺はクレープに噛り付く。熱々の生地にほんのり冷たい生クリームとバナナの感覚がマッチしていて中々美味い。リア充達はこんな美味いもんいっつも食べているのか。羨ましい。
隣の天ヶ原さんも両手でお行儀よくクレープを持って美味しそうに頬張っている。
「はぁーっ美味しいですね。ルシフェール様っ!」
「うん。そうだね。美味しい」
そう返事をすると天ヶ原さんは俺との距離を少し縮めてから。
「そっちのバナナも美味しそうですね。ねぇルシフェール様。食べさせ合いっこしません? ルシフェール様のバナナ食べたいなぁ」
上目使いでこちらを見つめてくる。バナナってクレープだよね? 午前中から下ネタぶっこんできたわけじゃないよね?
「別にいいけど。食べさせ合いっこでどうすればいいの?」
「もう、決まってるじゃないですか。あーんっ」
天ヶ原さんは目を閉じて可愛らしい小さな口を開けた。歯が白くて綺麗だなぁ。後、舌が小さくて可愛い。
いや、そんな感想を述べてる場合じゃなくて。これってあれでしょ? デートでど定番のあれでしょ? うっわまじか。まじでこんなテンプレ展開あるのか。
やっべぇ緊張してきた。だって俺が齧ったもん食べさせるんでしょ?これって間接キスじゃん。しかもバナナを咥えさせるんだよ? いいのこんなこと外でやって。
「じゃ、じゃあいくよ」
俺は持っているクレープを天ヶ原さんの口へと伸ばしていく。緊張のせいか手がブルブルと震えるのだ。くっ! こんな時にっ! 静まれ俺の右腕っ!
なんとか右腕の震えを抑え、彼女の口に運んだ。
「んっ美味しい。ルシフェール様のバナナとっても美味しいですぅ」
「そ、そう? それはよかったよ」
「じゃあ私もお返しに。はいっあーんして下さい」
今度は俺があーんされる番らしく、彼女が手で支えながらクレープをこちらに差し出してくる。
「いや、いいよ俺は」
あーんされるのなんて恥ずかしいし。
「遠慮しないで下さい。苺も食べたそうにしてたじゃないですかぁ」
「……なんでそんなことも分かるの?」
「えへへ。なんでもお見通しですよぉ。はいどうぞっ! 私の大事な大事な苺を摘んでください」
意味深なことを言いながらもどうしても食べさせたいようだ。
「あ、あーんっ」
俺は口を開けてクレープを待つ。キスされるみたいでドキドキするな。
段々と苺クレープが近づいてきて、そして俺の口に入った。甘酸っぱい苺の酸味と生クリームの甘みが口の中をいっぱいにする。
「どうですか? 美味しいですか?」
「うん。甘くて美味しいよ。まぁクレープだから甘いのは当たり前だけど」
「それはよかったです。あ、ルシフェール様。ちょっと屈んでください」
彼女の言葉の真意は分からないがとりあえず屈んでみる。すると天ヶ原さんは俺の両肩に手を置き、顔を近づけてきた。
え? 急に何? もしかして間接だけじゃなくて直接なの? クレープより甘いことされんの?
「ちょっと天ヶ原さんっ!? なにすんの?」
「ふふっちょーっと動かないでくださいね」
天ヶ原さんの息が鼻にかかるまでの距離まで顔が近づいた。すげぇいい匂いするんだけど。いや、そんなこと言ってる場合じゃねぇ! 俺の初めてがクレープ屋さんの前で終える危機なんだけどっ!
でも人はいつか卒業するときが来るのだ(卒業しないで一生を終える人もいるのだろうけど)場所なんて関係ないのかもしれない。こうなったら覚悟を決めろ俺。
俺は意を決して瞼を閉じた。さぁ来るなら来いっ!
そして。
ぺろりっ。
「あ、あれ?」
唇ではなく、頬を舐められる感触が伝わる。え? キスってフレンチ的なキスなの?
慌てて目を開けてみると。
「頬っぺたにクリームついてましたよ」
ちょこんと舌を出して何処か恥ずかしそうに笑う天ヶ原さん。
それで全てを察する俺。なんだ気張って損した。でも舐めとるって普通のキスより恥ずかしくね?
そう考えると心臓の鼓動が再び加速してきてドキドキという心音が周りの音を遮る。
「あ、あの。その、えっと」
この場合お礼を言えばいいのかどうすればいいのか分からなくなってしまい、上手く声が出せなくなってしまった。
「えへへ。ご馳走様でした。……じゃあそろそろ行きましょうか」
俺の腕にまた彼女は自分の腕を通す。そんなに近づかれたら俺のドキドキが彼女にまで聞こえそうだ。
俺は天ヶ原さんに連れられて歩き出す。歩いたときに生じる風が頬に当たり、舐められたところが少し冷たくなるのを感じる。が、体の熱ですぐ頬は温かくなっていった。




