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六話

 我が臣下達よ。今宵の良い夜であったぞ。また次週、この世が存在していればまた会おう」


 俺はマウスを操作し、パソコンの画面にある放送終了のボタンを押した。

 

 ふぅ。今日もこれで放送はお終い。楽しかったなぁ。

 

 俺が考えたこの世界の構造とか創世とかを語ったり、ひたすら中二ワードを連発したりするだけで爽快になる。三十分という短い時間だったがそれだけでもなりきり演じるのは楽しかった。俳優とか声優にもしかしたら向いてるんじゃないか俺。でも人がいっぱいいる現場は嫌だな。

 

 こうしてルシフェールになりきっている時間が一番楽しい。悩みとか不安とか忘れて夢中になれるんだから。

 

 俺は動画に書かれたコメントを見直すために自分の放送を見返した。

 

 総コメント数百件のうち初見の方が送ってくれたのは三件。残りは一人のユーザーのものだった。ユーザーネームは『ちや』つまり天ヶ原さんだ。

 

 俺が中二的格好良いことを言う度に『格好良い』とか『素敵ー!』とか書いてくれている。

 

 俺としてはコメント書いてくれるのは凄く嬉しい。だって反応もなしに配信しても虚しくなるだけだから。ただ、ちやちゃんだけなのがなぁ。

 

 もっとなにか工夫が必要なのだろうか。例えば普段使っている照明をロウソクに変えるて雰囲気を出すとか。でも前にココアシガレット加えながら十字架のマークが付いた十歩ライターで遊んでいたら母ちゃんに見つかって説教された挙句ライター没収されたばかりだしロウソクは使えない。

 

 ならば丁度明日は土曜日だし街にでも繰り出して新しい衣装でも買おうか。黒いジャケットに赤いネクタイなんか着こなしてお洒落な仕様にするとか。あ、あと眼帯ね。

 

 うん、それいいかもしれない。ルシフェールが人間界で過ごすときの服装っていう設定で。そして堕天使の力を解放するときに眼帯を外して黒い翼がバサっと生えて。そして真の姿になってからこう言うのだ。『……冥府より。堕天使ルシフェール降臨。さぁ貴様の罪を数えろ』って。

 

 くぅ! 格好良い! よし。これでいこう。

 

 そうと決まれば明日に備えて眠るだけで。俺はカツラやらカラーコンタクトやら衣装やらを脱いだり外したりしてパジャマに着替えた。

 

 ベットに入り、明日起きる為に携帯でアラームをセットする。するとそんなときに誰かから通知が来る。相手は天ヶ原さんだった。

 

 『配信お疲れ様でした?今日もルシフェール様素敵過ぎます///コキュートスに居座るリヴァイアサンを退治したり雷神ロキと三日三晩の激闘を繰り広げたり……。あ、明日ってお暇ですか?』

 

 天ヶ原さんがそんなメッセージを寄越してきた。

 

 『ふむ。明日は人間界に溶け込む為に衣服を調達する予定なのだが』

 

 俺は予定があることを素直に書いて返信した。すると僅か数秒で返事が返ってきて。

 

 『じゃあ私もご一緒してよろしいですか?ルシフェール様のお洋服選びしたいです!』

 

 一緒に来たいか。まぁ一緒に選んでくれるというのは悪くはない。天ヶ原さんはお洒落だし、きっと俺が選ぶよりセンスがいい服装を選んでくれるかもしれない。

 

 『では、眷属よ。君の同行を許可しよう』 

 

 それにしても女の子と一緒に買い物か。妹と母ちゃん以外だと初めてかも。ちょっとワクワクする。

 

 しっかし。こういう女の子とブラブラするってのはあれだな。なんというか、その。

 

 『やったぁ! 明日は楽しいデートにしましょうね』

 

 天ヶ原さんからそう返信が返ってくる。

 

 そう。デートだよ。デート。うっひょおおおおお!

 

        ×   ×   × 

 

 翌日の朝。小鳥達がチュンチュンと囀り、カーテンの隙間からはキラキラした朝日が差し込んでいる。今日は絶好のデート日和といえよう。

 

 そんな爽やかな朝の中、俺はというと。

 

 「くひひっひひっ」

 

 ろくに眠ることが出来ず、こうして朝を迎えていた。

 

 だってデートだよ。それって街中を手繋いで歩いたり、ソフトクリームをあーんして食べさせあったり彼女を家に送った後、ぎゅっと抱き合ってキスしたりするあれでしょ? そんなこと考えたら寝れるわけないじゃないか。

 

 心臓が爆発するんじゃないかってくらいにドキドキと音を鳴らし、夜中から緊張で寝られなかった。

 

 まじどうしよう。絶対くまとか出来てるよね? ふぇ……こんなんじゃお外に出られないよぉ。

 

 しかもデートに着られるような服もない。くっ! ここで休日引きこもりボッチの弊害が……とりあえず黒で統一しておけば格好いいか。後、前に買った指なしグローブを履いて行こう。

 

 そんなこんなでデートの時間になってしまった。もう出発しなくてはいけない。確か待ち合わせは駅前になっているはずだ。

 

 今の時間は……げぇ! もうこんな時間! 遅刻しちゃう!

 

 俺は急いで携帯やら財布やらをケツポケットにねじ込み、階段をドタドタと下る。

 

 「お兄ちゃん、こんなに急いで何処行くの?」

 

 リビングで食パンを齧っている夏美が不思議そうな顔で俺のことを見て、そう尋ねた。

 

 「ああ、お兄ちゃんちょっと出掛けてくる。……いや、デートしてくるから」

 

 キメ顔でそう言ってやった。すると夏美は顔をしかめてから。

 

 「お兄ちゃん。大丈夫? デートって本物の女の子だよね? ゲームの話じゃないよね?」

 

 「大丈夫だ。俺が現実とゲームの区別がついてないと思うか?」

 

 「思ってるから心配なんだけど」

 

 くぅ! この妹は! しかも馬鹿にしてるんじゃなくて本気で心配しているのが余計に悲しくなる。俺だって区別くらいついてますぅ! ちょっと中二病を患ってるだけですぅ!

 

 「ねぇ。本当に大丈夫? 壺とか変なネックレスとか買わされない?」

 

 「だから大丈夫だって! 普通のデートだよ。相手も普通の女の子!」

 

 普通の女の子かどうかは異性の経験値がない俺には分からないが天ヶ原さんは普通だよな?

 

 俺が言っても夏美はまだ信用ならないのか微妙な表情のままだ。まいったな。何か納得のいくこと言わないと。

 

 ここは一つ何か格好いいことでも言っておくか。

 

 俺はコホンと一息ついてから片方の腕を組み、もう片方を顔を覆い隠すように添えた。

 

 「我が妹よ。安心しろ。俺は気高き漆黒の堕天使。人間の女子などに遅れをとる筈なかろう」

 

 決まった。完璧に決まってしまった。さて、夏美の反応は……。

 

 「だからそういうのが心配だって言ってんの。お兄ちゃん口調だけ大物ぶるけど基本小物だからね。ゲームで言ったら雑魚キャラと同じだよ」

 

 「むきぃー!今何て言った? 俺が雑魚キャラだって!?」

 

 「そうだよ。ゴブリンとかスライムだっけ? そんなのと一緒だよ」

 

 あろうことか妹はこの堕天使を雑魚キャラの代名詞であるゴブリンとスライム扱いしやがった。これは侮辱行為に当たり何かしらの罰を執行せねばならない。

 

 俺は指をニギニギと動かし、夏美に近寄る。脇腹こちょこちょの刑だ。確か夏美はくすぐったいのに弱いはずだ。こちょばしてヒィーヒィー言わせてやる。

 

 ジリジリと夏美に近づくと彼女は不審者でも見るような視線で俺をみてくる。

 

 「ちょっと。何する気?」

 

 「ぐへへ。兄貴を馬鹿にした罪だ。お前をくすぐり殺してやるからな」

 

 俺は夏美に駆け寄り、ソファーに押し倒した。夏美に跨り、陸上で鍛えたであろう彼女の細く、しっかりとしたお腹を掴んだ。絵面的には完璧アウトだが俺達は血の繋がった兄妹だし問題ないよね?

 

 「ちょっ! やめてよ! 離してって!」

 

 普段はクールぶっている夏美も流石に動揺しているようで、顔を赤くしながら俺を睨みつけてくる。

 

 「いいや、駄目だね。これからお前に地獄を見せてやるからな!」

 

 くくくっさぁ、脇腹こちょこちょの刑の開始だ!

 

 俺は特に可愛くはない豚がプリントされているTシャツの上から脇腹を弄るように触っていく。

 

 こちょこちょ。

 

 ふふっさぁ! 悶え苦しむがいい!この堕天使を馬鹿にした罰だ!

 

 果たして夏美の反応はというと……。

 

 「…………」

 

 ご覧の通り全くの無反応である。

 

 あれ? あれれー?おっかしいぞぉ?ならばくすぐり方を変えてだな。

 

 今度はお腹に指をツーっと滑らせてみたりしてみる。

 

 が、しかし。それでも夏美は表情一つ変えない。


 「……ねぇ。お兄ちゃん。こんなことして楽しい?」

 

 それどころか何処か哀れみの表情で尋ねてきやがった。

 

 おかしくね? 俺が想像していたのと全然違うんですけど。最初にくすぐったときに大声で笑い転げて俺に許しを請う筈だったのに。そして俺は手を休めないでくすぐり続けると段々笑い声が「んっ」とか「あっ」とかに変わり始めてきてなんだかいたたまれなくたって止めるパターンだと思ってたのに。

 

 「……もう満足したでしょ?さっさと降りて」

 

 「あ、はい……」

 

 俺は諭される形で夏美から降りた。そして乱れたシャツを整えてから。

 

 「こういうことあんまり女の子にしたら駄目なんだからね」

 

 「はい。分かってます……」

 

 「そんなんだからお兄ちゃんは何時まで経っても友達出来ないんだよ? 分かってる?」

 

 「……返す言葉も御座いません」

 

 「そう。分かってるならいいけど。じゃあ私もう部活行くからお兄ちゃんもデート頑張ってね。私が帰ってきたらソファーで泣いてるとか無しだから」

 

 「はい。一生懸命デートしてきます」

 

 ひとしきり俺に説教をした夏美は準備していたスポーツバックを肩に背負って玄関へと足を運んだ。くそ、なんで朝から怒られなきゃいけないんだ。しかも妹に。

 

 こうなったらデート思い切り楽しんで家に帰った後耳にタコが出来るくらい自慢してやるんだからね!

 

 そんなことを思っていると夏美が玄関から戻ってくる。

 

 「どうしたの? 忘れ物?」

 

 「いや。なんか玄関に怪しい女の人いるんだけど……」

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