二話
翌日、学校の昼休み。リア充達が馬鹿話をしていたり眼鏡をかけたいかにもオタク臭い奴等が教室の隅で話していたり、ガリ勉が参考書を片手にいそいそと勉強している中。俺は今日もここにいる。
具体的に何をしているかというと机に伏して先代の人が彫ったであろうチンコとかウンコとか書かれている文字や絵を眺めているのだ。
これは友達がいないし、一人でみじめに座っているのが格好悪いからとか寝たふりをしている訳でななくてだな。ほら、俺堕天使だから、簡単に下界の人間共と会話するのも設定的におかしいしなにより俺の圧倒的オーラで話しかけづらいところあるからだから。
決して入学式の翌日にあった自己紹介でルシフェール口調で話しちゃってそこからあだ名で『堕天使(笑)』とか呼ばれた挙句そのブームも去ってこうして一人ぼっちになった訳じゃないから。
しかし俺だけがこうしてボッチやってる訳ではない。俺の隣に座っている女の子だってそうだ。
名前は天ヶ原 茅耶。彼女は一人席に座りボーっと携帯を弄っている。
規則違反の金髪のショートヘアー(しかし彼女の金髪は地毛だって誰かが言ってたのを寝たふりして聞いてた)に長く、水を垂らせば水滴が滴るような睫毛にシャープで美しい瞳。これだけ見れば十分可愛いしボッチになる理由が分からないだろうが彼女がボッチなのはそう、一言も言葉を発しないからだ。
入学してから一度も俺は彼女の声を聴いたことがない。いや、俺の前だから話さないだけか? なら少なくとも俺だけは声を聴いたことがないに変更。とりあえず彼女は声を出さないのだ。確か自己紹介の時もその場で頭を下げて終わりだった気がするし。
そしてなにより彼女は常時マスクをしている。可愛いのに勿体無いと思うのだが。いや、これは鼻から下が不細工だから隠しているのかもしれない。まぁ少なからず俺よりは顔面偏差値が高い彼女がマスクをしているのは不思議なことだ。
全く話さないのとマスクをしていることから話かけんなオーラが半端ない。その所為か彼女と仲良くしようとする奴もいなく、こうしてボッチになっている。
しかし、あれだな。金髪にマスク、しかも声を出さないって凄いキャラが立ってていいな。群れをなさない孤高の戦士って感じで格好良い。まぁ俺も孤高のボッチではあるけども。
そんな彼女のことを枕代わりにしている腕の隙間から眺める。彼女は表情一つ変えずに携帯の画面を眺めている。何を見ているんだろうか? もしかして彼氏とメールでもしているのだろうか。そんなことを考えていたときに机の中にしまってあった俺の携帯がブルブルと震えているのが分かる。
何事かと思い画面を覗くとそこにはちやちゃんから新着メッセージがあった。
俺はそのアイコンを指でスワイプしてツイッターを開く。なんだろうこんな時間に珍しいな。
『こんにちは☆ルシフェール様とお話したくってメッセージ送ちゃった(//∇//) 学校超ダルくてぇ、暇だし。なんか隣の気持ち悪い男子がチラチラ見てくるし笑 』と、いう内容が送られてきた。
ちやちゃんはどうやら学生みたいだな。彼女も学校がダルいのか。なんだか親近感があっていいな。
それにしても気持ち悪い男子よ。俺のちやちゃんを困らせるのは止めて貰いたいものだ。文章的にこの男子もボッチなんだろう。きっと異性となんか碌に話が出来ないもんだから遠巻きにちやちゃんを見つめているんだと思うが逆の立場になって考えて欲しい。話したことのない女子に見つめられるってのは相当不快なものだろ。それも不細工に。
俺は寝た体勢のままだとメールが打ちづらいので周囲の状況を確認してからワザとらしく背伸びをしたりして起きる振りをする。これが高校に入学してから一番上手くなったことなんて悲しくて他の人に言えない。いや、まず言う人がいないんだけどね。
俺はツイッターの返信機能を使って。
『小悪魔よ。周りの目など気にすることではない。お前は俺だけを見ていればいいのだから』
送信っと。我ながらキザで格好良い文章を送ってしまった。
そして僅か数秒で返ってきた返信が。
『はいそうですね♪私はいつまでもルシフェール様だけをみています☆』
「ふひっ」
か、可愛え……っ! なんだこの子、可愛いの化身かよ。思わず噴出した後に気持ち悪い声だしちゃったじゃないか。
俺はキョロキョロと周りを確認する。ふぅ、目立ってはいないな。よし、もっと格好良いこと言ってベタ惚れさせてやろう。
そう思って返信内容を考えていると、黒板の上に設置されているスピーカーが予鈴の鐘を鳴らした。
どうやら、昼休みももう終わりのようで、次の授業は体育だから早めに移動しなくてはいけない。返信するのはまた後でにしよう。俺は机の中に携帯をしまおうとした。その時、チャリンと小粋な音が聞こえる。
どうやら携帯に着けていたキーホルダーが机にぶつかった音だろう。このキーホルダーは親戚のガラス細工をしているおじさんに作ってもらったアクリル製の羽がデザインされている特注品だ。透き通った透明な色にこの羽のデザインが凄く気に入っていて配信やツイッターでも画像に上げて自慢した。
そんなお気に入りの品に傷でも入っていないか確認しようと思った時に。
「……」
隣の天ヶ原さんから視線を感じる。なんか凄い目つきでこっち見てんだけど。
俺何か悪いことでもしたかな? 心の中でボッチだとか実は不細工説とかを考えてたのがバレたとか?
「え、えっと。何かな?」
「…………」
愛想よく笑いながら聞いてみるが返答はなく、ただ見つめられるだけ。
なに、なんだよ。せめて一声喋ってくれよ! 無言で見つめられるの怖いよ!
「あ、えっと……次体育だから俺先に行くね。天ヶ原さんも遅れないようにするんだよ」
俺はそう言い残し逃げるように教室を後にした。女の子に見つめられたから逃げ出すのは男としてどうなんだって気持ちは少しはあるが怖かったから仕方がない。ルシフェールとしては人に見られることは慣れていても小野 秋人としては全くもって別なのだ。危うく小便を漏らすところだった。
とりあえずおトイレに行ってから体育館行こう。
体育の授業も終わり、そのまま次の授業も聞き流し、今日も授業が終わった。
聞き流したといってもちゃんとノートは取ってる。ほら、テスト終わりに提出もあるし、誰かにノート写させてもらえないしさ。俺ボッチだから。
そんなこんなで放課後、今日も家に帰って撮り溜めていた今期の春アニメや漫画を読んでツイッターで格好いいこと呟いて寝よう。
今期のアニメで俺がお気に入りなのが『痛撃のJOKER』。異世界に転生された主人公がトランプを駆使して戦うファンタジーだ。
中でも俺が好きなのがジョーカーのカードの能力『仮面の裏返し』は相手の魔法攻撃を打ち消し、その技をコピーして攻撃できる最大の必殺技。
主人公がこの技を使う為に被っている道化師のマスクを外すところも格好良いし、なによりキコピー、キャンセルなんて中二心をくすぐられるじゃないか。
俺も何か技とか考えたほうがいいかな。例えば『堕天使の不干渉』とか。ううむ、技名がイマイチ。帰ってから練り直そう。
そんなことを考えながら教科書などを鞄に入れて帰る支度を済ませる。すると。
「小野君。ちょっといい?」
俺の耳には聞き慣れない声が聞こえてきて思わず体がビクっと反応した。
一体だれが俺に声をかけたんだ? 誰かに話しかけられるなんて入学式にトイレどこだっけ? って尋ねられた以来だぞ。
辺りを見渡し声の主を探すと、近くにいるのは天ヶ原さんしかいない。と、なると彼女が俺に話しかけてきたのだろうか。
「
ええっと。もしかして俺のこと呼んだ?」
恐る恐る聞いてみると。
「そう、小野君。放課後予定ある?」
「いや、特にないけど」
「ならちょっと付き合ってよ」
ええっ!? 付き合ってって言われてもそんなっ!? 俺達まだ初対面でしょ?そういうのはもっとお互いを知ってからにしましょうよ!
なんてジョークでも言おうと思ったが天ヶ原さんのゴミを見るような目に怖気づいて何も言えない。勿論断りも出来ない。
あぁ。キャンセル能力使えないかなぁ。