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中二病の俺でも青い春は訪れるのだろうか  作者: 天近嘉人


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十一話

俺達は休憩するためにフードコートに来ていた。うどんにラーメン。たこ焼きにソフトクリームと様々ある中。またもやハンバーガー屋に並んでいた。別にハンバーガーが好きなのではなくて小腹が空いた程度なのでハンバーガーくらいが丁度いいからだ。

 

 「いらっしゃいませ。店内でお召し上がりですか?」

 

 店員さんの恐らくバイトであろう女子大生が教育された営業スマイルで聞いてくる。この前のときは緊張して噛みまくったけど今度こそ上手く注文してやるからな。

 

 俺は喉の調子を整えるために咳払いを一つしてから「はい、そうです」と言った。

 

 「それではご注文の方は何にしますか?」

 

 「えっとハンバーガーセットを一つ。天ヶ原さんは何にする?」

 

 「私はあんまりお腹空いてないのでポテトで」

 

 「じゃあポテト一つ。あ、セットの飲み物はコーラでお願いします」

 

 「かしこまりました。それでは隣のカウンターに並んでお待ち下さい」 

 

  ふふっほらどうだ? スムーズだったろ? 俺は前回の教訓から小難しい名前の商品は注文しないことを学んだ。まぁそれだと一生普通のハンバーガーしか食べられないんだけど。

 

 出来上がったハンバーガーを受け取り、空いている席に座る。勿論天ヶ原さんは隣に座ってきた。

 

 

 「ねぇねぇ、ルシフェール様。またあーんしましょうよぉ」

 

 ポテトを持ってそう言ってくる天ヶ原さん。

 

 「いや、でももうやったし。それに俺もポテトあるからいいよ」

 

  それに休日で人が多いこんな場所でやるのは恥ずかしいし。

 

 「えぇー。じゃああーんが駄目だったら……」

 

 おもむろにポテトを口に咥えたかと思えばそのまま俺の方に顔を近づけてきた。

 

 「あーんが駄目ならちゅーはどうれふかぁ?」

 

 ポテトを加えながら話しているため呂律が回ってなく、そこがまた可愛い。ってそんなこと思ってる場合じゃなくてだな。

 

 「ちょっ! 駄目だってそういうのはっ!」

 

 俺は天ヶ原さんの口からポテトを没収した。すると天ヶ原さんは拗ねるように唇を尖らせる。

 

 「いいじゃないですかぁ。ちゅーしましょうよぉ。あ、もしかしてポテトじゃなくて違うものを咥えさせたかったんですか? いいですよ。なんでもぺろぺろしちゃいます。ふふっルシフェール様のは何サイズかな? Sサイズ? Lサイズ? こんな感じの細いタイプじゃなくて皮付きのぶっといやつですかぁ?」

 

 右手を筒状に丸めて、舌を出しながら口元で前後に動かす。なんだその意味深なジェスチャーは。


 「まじで止めてほしいんだけど。俺達ただでさえ目立ってるんだからさ」

 

 「ほえ? そんな目立ってますか? どこからどう見ても普通のカップルじゃあ……あっ! ルシフェール様の隠しきれたいないオーラとかですか?」

 

 「いや。そうじゃなくてさ。これだよ。これ」

 

 俺はTシャツの裾を掴んで天ヶ原さんに見せる。

 

 こんなもん男女で着ていたらそりゃ目立つでしょ。いや。男同士で着るものでもないのだが。

 

 そのせいでここに来る前や、フードコートに入った後もちらちら視線を感じるし。

 

 ルシフェールとしては是非とも注目を浴びたいがこんな形で浴びるのは恥ずかしい。

 

 「そうですかね? そんなに目立ってますぅ?」

 

 「うん。すげぇ目立っているよ」

 

 「そうですかぁ。じゃあ……」

 

 天ヶ原さんが自分が座っている椅子を俺に近づける。そして俺の肩に身を預けるようにちょこんと頭を乗せた。

 

 「もぉーっと目立って私達のラブラブさをみせつけちゃいましょ」

 

 えへへ、とあどけない笑みを浮かべる天ヶ原さん。

 

 「ちょっちょっと……」

 

 俺は彼女から離れようとしたのだが、そんな笑顔であんな可愛い台詞を言われたら離れられるもんの離れられない。……可愛いってずるい。

 

 そのまま天ヶ原さんの人肌の温もりを感じながら、水滴がコップについているコーラを飲んでいる。と、そんなときだった。

 

 ガツン。

 

 俺達が座っているテーブルに誰かが足をぶつけたようだ。見てみると茶髪カールで目つきが悪い女子高生と髪の毛を整髪料でベタベタに塗りたくり、制服のズボンを腰より下でベルトを巻いている男子高校生が。どちらも制服からして他校の生徒だ。

 

 「痛ってぇ。まじ最悪なんだけど」

 

 ぶつかったのは男の方で舌打ちをしながらテーブルを睨み付ける。女の方は「まじうけるね」とかどこが面白いのか俺には理解出来なかったが笑っていた。

 

 「まじないわぁ。誰だよこんなところに机置いたやつ」

 

 男が俺達の方をちらりと横目で見てから。

 

 「おい何このウザカップル。今時ペアルックとかないわぁ。俺だったら恥ずくて死んじゃうわぁ」

 

 女の方も俺達を見て便乗するように嗤ってから。

 

 「ほんとないぁ。しかも見て男の方。ちょう冴えない顔してんだけど。しかもあの手袋クゾダサいんですけどぉ。もしかしてキモオタってやつ? ないわぁ」

 

 「だよな。俺女だったら絶対一緒に歩きたくない。つか同じ空間にいたくないわぁ」

 

 「流石にそれいい過ぎでしょ~。あたしだったら同じ空気吸いたくないけど。キモオタならエラ呼吸でもしてろって感じ」

 

 「お前もどギツイこと言ってんじゃん」

 

 漫画の効果音なら『ドッ』なんかが付くような感じで二人は笑う。いや、これは完全に嘲笑だ。

 

 俺は心の中で怒りや憎悪などの感情ではなく沸き立つのは悲しみと後悔だ。

 

 俺は何か勘違いしていたのかもしれない。天ヶ原さんのような美人にデートに誘われ、好きだと言われて浮かれていたのだ。自分がイケメンでリア充だと思い込んでいたのだ。

 

 鏡を見れば一目で分かるのに。そこに映っているのは冴えない顔をしたボッチがいることが。

 

 もう帰ろう。全てが馬鹿らしくなってきた。それに天ヶ原さんに申し訳ない。俺のせいで不快な思いをさせてしまった。


 思えば折角のデートだというのに俺は彼女を楽しませることなんて出来ていない。さっきもちゅーを拒否してるしきっと彼女だって内心ガッカリしているに違いない。考えてみればそうだ。俺なんかとデートして楽しいはずないのだ。

 

 俺は席を立とうとテーブルに手をついた。そんな時に。

 

 「あれれぇ。何処からか私達のラブラブっぷりを恨む声が聞こえてきたぞぉ」

 

 天ヶ原さんがそう言って大袈裟に辺りをキョロキョロし始める。

 

 「おや、こんな近くにザ・モブキャラのような男女二人組が……どうしたんですかぁ。そんな芋くさい顔並べてぇ」

 

 「おい今何つった!?」

 

 男の方が天ヶ原さんに怒声を放ち、女の方は無言で睨み付ける。

 

 「ちょっ天ヶ原さん!? 止めようって……」

 

 場の空気が悪くなるのを肌で感じ、天ヶ原さんを制止しようと声をかけたのだが、それでも彼女は止まらず。

 

 「だって見てくださいよあのズボンの履き方。何ですかあれ足が短いんですか? ダックスフンドちゃんなんですかぁ? それと女の方も頭に焼きそばが乗ってますよぉ」

 

 「てめぇっ!」

 

 男がテーブルに身を乗り出し、天ヶ原さんの胸倉を掴む。場の空気は完全に大荒れだ。

 

 流石にこれはまずいと思い、止めに入ろうとした。そんな時に。

 

 「殴るなら殴ればいいじゃないですかぁ。でもいいんですかぁ。こんなに人もいる中で女の子を殴っても。明日学校で噂になってなきゃいいんですけどねぇ。ふふっ」

 

 男を挑発するように。それでいて見下すように笑う天ヶ原さん。

 

 その言葉を受け、男は無言のまま彼女から手を離し、そのまま女と一緒に何処かへ行ってしまった。

 

 「だ、大丈夫だった?」

 

 心配になったのでそう聞いてみると天ヶ原さんはいつも俺に向けている笑顔に戻って。

 

 「はい。大丈夫ですっ! ルシフェール様の敵を私がやっつけてやりました!」

 

 フンスと自信げに鼻息をたてて胸を張った。

 

 そんな彼女に俺は何と言えばいいのだろう。頑張った偉いね? それとも俺のせいでこんな、目に遭わせてごめん? どうすればいいのだろうか。

 

 でも。一つだけ言わなくてはいけない言葉がある。褒めるよりも謝るよりもまずすべき行動がある。

 

 「……ありがとうね。俺のために」

 

 俺は彼女に頭を下げた。そう、俺がしなくてはいけないのは感謝の言葉。つまりお礼だ。

 

 天ヶ原さんは俺のために戦ってくれた。ならばそのお礼を言うのが正しいだろう。

 

 「ルシフェール様。顔を上げて下さい。私は貴方様の眷属ですからこんなことは朝飯前ですよ。それにお礼なら……」

 

 そう言って天ヶ原さんは俺の頭を両手で掴む。そしてグイっと上げると。

 

 「私。お礼のちゅーが欲しいなぁ」

 

 天ヶ原さんが自分のおでこを俺のおでこにくっつかせる。おでこから伝わる熱、鼻にかかる吐息、視界に広がる顔。天ヶ原さんの全てを俺は五感で感じ取っている。

 

 「あの、あの……」

 

 「なぁんて冗談ですよぉ。ふふっびっくりしましたか?」

 

 俺から離れて、そしてイタズラっぽく笑った。

 

 「もうなんだよ。びっくりした」

 

 俺は安心から一息漏らす。ほんと、びっくりしすぎて心臓飛び出るところだった。

 

 「こんな場所でちゅーするなんて味気ないですからね。するなら二人きりのときに、ね?」

 

 「そうだよね。二人きりでムードがあるところでさぁ」

 

 俺は緊張からかまるでキスをする前提で話をしていた。何を言ってるんだ俺。

 

 「そうです。だから今は……」

 

 そう言って一指し指と中指を俺に近づけてくる。彼女のか細い二本の指が俺の乾いてガサガサになっている唇に触れた。

 

 そしてその指を自分の唇にあてる。チュっと可愛らしいリップ音が鳴った。

 

 「今はこれで満足しますね」

 

 指を唇の上で滑らせながら照れくさそうにはにかんだ。

 

 俺はドキドキしている鼓動を落ち着かせようとコーラに手を伸ばす。ストローを咥えようとしたが一瞬考えてから口をつけるのはやめた。

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