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一話

今日の月は研ぎ澄まされた牙のように鋭く、的を射る弓のようにしなった三日月。薄暗い六畳半の部屋には白銀の髪と鮮血の赤い瞳が不気味に光り、黒く気高い漆黒の衣装と羽が闇に同化する。


 その姿はまるで悪魔、いや違う。気高さが残る立ち姿、オーラ。それはまるで天使のようにも見える。そう。彼は元天使で天界に仇をなし地獄に落とされ悪魔となった堕天使なのだ。

 

 堕天使は青白い光に照らされてその気品のある顔を晒しながら高らかに笑う。


 『ふははははっ! 漆黒の小悪魔達よ。今宵もよい晩餐であったぞ。ではまた次回、人間界の時が二十二時を刻む頃再び逢おう』

 

 ブツリ。

 

 俺はパソコンの『放送終了』のボタンをクリックし、ページを閉じ、それから床に設置してある照明の電源を切って部屋の明かりを点けた。

 

 「ああ、今日も楽しかったなぁ」

 

 自作の黒い羽と白いカツラを脱ぎ捨てベッドに横たわる。生放送終了直後のやりきったというすっきりとした心地よさが俺は好きだ。

 

 俺、小野 秋人は世間で言うところの所謂中二病患者だ。

 

 子供の頃、周りの男子は野球選手なんかに憧れていた中、俺はファンタジー系の主人公が大好きだった。そりゃそうだ。バットを振るより剣を振るった方が格好いいし、玉を投げるよりファイヤーボールやエレキボールを投げた方がいいだろ。

 

 中学に上がりお小遣いが少しだけ増えてからはコスプレ衣装に費やした。ただ本格的なものはお高いので安いのを購入して後は自分で手作り。この『堕天使の両翼』だってダンボールで出来ている。高ければ良いってもんじゃないんだ。問題は質ね。俺の両翼は防水性とかないけど。

 

 まぁとにかく、衣装を身にまといキャラクターに成りきるのが俺の楽しみになっていったのだ。因みに名前は堕天使『ルシフェール』我ながら良いネーミングセンスだと思う。

 

 これは俺が中学のときに考えたキャラクターで創造神『ゼウス』に反旗を翻し、地獄に落とされた。ゼウスに再び挑むためにはまず勢力が必要で、地獄を統一した後にこうして人間界に赴いたという設定。

 

 初めは設定を文章でまとめたり、絵を描いたり、コスプレでなりきったりしただけで満足だったがルシフェールはそれだけでは満足出来なくなり、遂にネットの世界に羽を羽ばたかせた。

 

 まず、ツイッターのアカウントを作り、毎日五件は格好いいことを呟く。そしてニヤニヤ動画の生放送での配信。こうして堕天使の名は全世界に広められ有名になったのであった。まぁまだフォロワーは数十人でその内の半分が成りきりBOTだったり『厳選エロ動画』だったりするのだが。

 

 だがしかし! 俺にもちゃんとファンが居るのだ。しかも女の子! なんで女の子か分かったのかと言うとユーザーネームが『ちや☆』だから。こんな名前つけるのは女の子しかいないだろ? 逆に男だったらどん引きする。

 

 そんなことを考えていると俺の携帯からピコンと軽快な音が鳴った。俺としてはもっと格好良いSEにしたいのだがまぁそれは置いておいて。

 

 俺はベッドに横たわったまま手を伸ばし携帯を掴んで画面を開く。すると表示されているのは例のちやちゃんからのメッセージだ。

 

 『配信お疲れ様でした☆今日もルシフェール様かっこよかったです///次回も楽しみにしてますね』

 

 くぅー可愛いっ!癒されるわぁ。

 

 ちやちゃんは毎日俺の呟きにいいねを押してくれるし配信にもコメントしてくれるし俺にとって本物の天使と言っても過言ではない。いつかオフ会なんかして会ってみたいなぁ。きっと黒髪清楚系の可愛い女の子なんだろう。そして何? 俺のことが好きだって?

 

 「ふひひっデュフっ」

 

 堕天使には似合わない気持ち悪い声が漏れた気もするがそこには触れないでっと。

 

 まぁとにかく、俺が今もこうして中二ライフを満喫出来るのも彼女のお陰でもある。俺も高校生だ。こんなことはもう卒業しなくてはいけないのだろ。しかし、好きなことを恥ずかしがってだとか皆やってないからだとかの理由で辞めるのもおかしいと思うのだ。そりゃこんな趣味声に出して言えるものではないけどだからと言って辞める気も更々ない。

 

 俺が辞める時と言えば興味がなくなる時か母親に衣装や道具を全部捨てられた時くらいだ。

 

 理由がなんだかしょぼい気もするが俺は引退する気なんか一切ない。うん。それだけは言える。このまま活動を続けて人気になっていつかはメディアに露出するまでになるのだ。

 

 そして有名になったあかつきにはちやちゃんに大胆告白なんてのもありだな。

 

 膨らむ妄想に夢を馳せつつも、もう寝なくてはいけない時間になってしまったので俺は再び部屋を暗黒に染めた。瞼の裏に映るルシフェールとちやちゃんが中世ヨーロッパにでもありそうなお城の屋上で月明かりの下、キスをするシーンなんて浮かべながら、俺はそっと眠りについた。

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