その91.調印式
グランウッドの夜が明け、街はその帳の開幕と共に騒々しくなる。
帝国からの刺客だとかなんだとか、勘違いして騒ぐ者ばかりだ。ははは、わかるよ、わかる。
ギルドの目の前に300のハーピーがたむろしてるんだから。
俺だってびっくりだ。
帝国と海を挟んだクレア公国。
その要所となるグランウッドが帝国の手に落ちればクレア公国も困る、ということだった。
グランウッドは帝国の首都から遠い手の伸ばしづらい場所だったが、今は適度に生活も出来るような環境になった。
それが逆に、帝国が手に入れるにはちょうどいい、ということらしい。
だが、俺だってみすみすまた殺されるわけにはいかない。
何故なら新婚ホヤホヤだし、この国を守って行かなきゃならない。
しかしだ、今日、ギリギリその悪夢から逃れられそうではある。
俺、シェロちゃんとドライアド。イヴ、その傍らにハーピー。
イヴは昨日とはうって変わって金の刺繍が施された真っ白なドレスだ。
シェロちゃんも似たようなドレスを纏っている。
きっとイヴが用意してくれたんだろう。
そのドレスにも引けを取らない真っ白なテーブルクロスが引かれた上には大仰な紋章の書かれた紙の板がある。
きっとクレア公国のマークなんだろう。よくわからんけど。
シェロちゃんとイヴが並んで座り、その後ろに俺たちが並んで立つ。
「街のみんな、聞いてくれ。今、この場において、クレア公国及び対帝国同盟の調印式を行う。ここにいるもの、いないもの全ての国民に、この同盟の賛同者となってもらいたい!」
どよどよとハーピーの護衛の向こうに街の人たちが集まってくる。
「では、始めようかの?クレア公国との条文と同盟会議の条文じゃ。気に入らないのならサインはしないでよいぞ」
『グランウッド共和国及びクレア公国は偏にグランウッド共和国の独立と平和を維持することを希望し、且つグランウッド共和国とクレア公国の商工業の自由と均等の機会を維持し……』
つまりこうだ。
・グランウッド共和国と同盟国は常に対等であり続ける事
・グランウッド共和国は中立を保ち、正当な防衛を除きどの国の戦争にも加担しないが、同盟国に交戦ある時には他国(つまり帝国だな)が加わることに抵抗する事
・グランウッド共和国の中立及び独立、平和はクレア公国及び同盟会議が保障する事
・グランウッド共和国の有事の際にはどのような理由があっても同盟国は援助を惜しまない事
・加盟中は他国(帝国その他)との同盟及び密約を交わさない事
・この条約の期限は2年継続し、互いに問題なければ自動的に2年延長される事
同盟会議、対岸同盟のことだな。
それもほぼ同じ内容だ。
グランウッドとしてはメリットの方が大きい。
クレア公国や他の対岸の国と帝国が交戦しない限り、俺たちが自ら戦う必要がない。
そして、グランウッドはクレア公国や同盟会議が守ってくれる。
これに対するグランウッドの対価はなんだ?
しかしこの条文を読む以上、深い思惑などは感じられなかった。
イヴが言うように、ここは帝国との最前線なのだ。
そのかわり守る、と。
シェロちゃんが傍らに立つ俺をチラッと上目遣いで見上げ、それに無言で頷き答える。
クレア公国の紋章の入った調印書と同盟会議と書かれた調印書に『シェロ・グランウッド』とサインをし、無事調印式を終えた。
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