その90.トライアングラー
「わざわざ出向いたのは、グランウッドにも我々クレア公国にも利のある提案があるからじゃ」
何故か応接間の上座に座ったクレア公国の君主、イヴ様。
細く長い指で目尻の先から髪を取り、耳にかける。
甘い良い匂い。
そして何故か2人きりだ。
国のことを相談するならばシェロちゃんやドライアド達にも聞いて欲しいし相談したかったんだが。
「今はグランウッドが帝国に乗り込まれようとしているわけだし、そこに帝国とクレア公国の喧嘩を持ち込まれちまったら、ここはただじゃ済まないだろ」
イヴ様と向かい合うように座り、焦りや不安を感じさせないようにする。
「そこでじゃ。クレア公国はグランウッド共和国との同盟を今ここに結ぶ。ヤキトリ殿は海の向こうのことはまだ疎いであろうが、対岸では対帝国同盟が樹立しておる。そこにグランウッドも加入するのじゃ。よもや対岸の同盟側に与したとあらば、帝国とて易々手を出せぬであろうよ」
踏ん反り返ってテーブルの上に片足を乗せ、なめまかしく逆の足を伸ばし組むように乗せた。
見えそうで見えない。履いてるようで履いてないようで履いているのかわからないが見えそうで見えない。
思わず生唾を飲む。
「ほぅ…ヤキトリ殿、随分と目が血走っておるが、疲れておるのかえ?フフフ」
足を組み替え舌を出し、ペロリと真っ赤な唇をひと舐めする。
「いや、クレア公国は随分とお行儀が悪いんだなと思っただけだよ!別に履いてるとか履いてないとかそういうことは言ってないからな?!そんなことより、グランウッドとクレアが同盟を組むことによって、そっちにはなんのメリットがあるんだ?」
「履いておらぬし、それと…既に申した事ではあるが…クレア公国と帝国との間では戦争が始まっておる。対岸を挟んだ戦争じゃ。地続きではないため膠着しておるが、まさに一触即発なのじゃ。そこで、我が領地の手前にワンクッションあるとしたら?」
つまり、クレア公国としても、海を渡る前の壁が欲しい。ということだ。あと履いてない。
「しかし、戦争相手と同盟を組んだと知れば、帝国にここを攻め落とす大義名分が出来てしまわないか?」
「そこでじゃ。クレア公国との同盟だけではなく『対岸の同盟に加入する』と申したじゃろう。対岸の同盟には帝国を上回る国もある。世界はこの大陸だけではないのだ。わらわとて、そちを無碍にしておる訳ではない。あちらでもヤキトリ殿の名は轟いておるのじゃぞ」
実際のところ、クレア公国との同盟や、対岸の同盟に加入した事によって起きることは俺の頭では想像もつかない。
ただ、近々起きるであろう帝国からの荒唐無稽な断罪は回避できる。
それにしても履いていないと言っていたトライアングルの闇は深すぎる。全く見えない。
椅子を引いて立ち上がり、深々と頭を下げる。
別に何とかして履いてないトライアングルをどうにかしたいと思った訳ではない。
「わかった。イヴ様、クレア公国とグランウッド共和国の同盟をこの場で受けさせてくれ。そして対岸同盟のほうも宜しく頼みます」
「頭を上げよ、ヤキトリ殿。この場においてクレア公国とグランウッド共和国は対等となったのじゃ。『様』は要らぬ。どうか今後は友人として接してくれぬか?」
ドンッとイヴの方から音がし、頭を上げた。そこには組んでいた片足をテーブルの端に立て、トライアングルを露わにしていたのだ。
「履いてない、というのは嘘じゃ」
そう、履いていたのです。
「もうおうち帰る!!!!!」
ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!




