その89.笑うなよ兵が見ている
お互いが近づいていくにつれて、だんだんとその姿がハッキリと見えてくる。
手に持ったランタン型のランプは、火の灯りと言うよりは煌々とした電気のようだ。
ついに目の前にしたその鳥人ハーピー集団の先頭には、羽の生えた、大きく真っ赤な馬。赤兎馬かよ。
そして妖艶な女性。
まるでベンチにでも座るように横座りをしたその女性はどす黒い血のようなドレスから真っ白な足を覗かせ、そしてその唇も血のように赤い。
「お、お前ら、帝国の刺客か」
緊張で声はうわずり、強く握った手も震える。
あの日、1度殺された記憶が蘇る。
赤兎馬からふわりと降りると、ドレスの裾が空気を含むように膨らみ、その白い足を露わにして、つまり、履いていない。
違う、宙に立ち、1歩、また1歩とこちらに歩みを進める。
スラリとして、それでいてスタイルがよく、青みがかった黒い長髪が歩く度に揺れる。
「お、おい、それ以上こっちに来てみりょ!どうなっても知なんからな!」
噛みながらも宙を後ずさりし、拳に魔力を込める。
すると、ハーピーの連中が吹き出し、プークスクスとニヤニヤする者、肩を震わせ俯く者、咽せ始める者まで出てきた。
「わ、笑うんじゃねえよ!」
しかし、帝国の刺客にしてはこちらに手を出してくる雰囲気はない。
「あははははっあーはっはっはっはっはっはっはっヒィヒィ〜っあははは、いや、あははははは、すまぬ、わらわは、わらわは…ふふふ、アハッ『わ、笑うんじゃねえよ』ぷぷぷっ」
ハーピー達もそれを聞いて堂々と笑い出し、腹を抱えながら涙を流していた。
「いや、あの、すまぬ、ふふ。わらわはクレア公国のあははは、つまり、お祝いに参った、んふふふふふ」
要するに、この失礼な履いてない女性は、あの頭の悪そうな手紙の主。
クレア公国君主、イヴ様というわけか。
「お祝いにしては失礼な対応じゃないか!」
きっと今の俺の顔はイヴの唇よりも赤い。
「勝手に勘違いをして笑わせに来たのはそなたではないか。わらわは公国騎士団の精鋭300を護衛に、グランウッド共和国の建国宣言、そしてそなたらの結婚祝いに参ったのじゃ」
大勢で夜に来んなよ。
「いやそれはすまん。だが明日か明後日には帝国の刺客が攻めてくる。それはもう耳に入っているだろう?これじゃまるで戦争にでも来たみたいじゃないか」
ハーピー達の目やその表情は柔らかく、よく見るとまだ若い女の子達だ。
しかし身に纏うそれは、戦う為の鎧と剣。
「ヤキトリ殿。そなたらは、その帝国の刺客とやらが参ったらどうなるのじゃ?処刑という名のもとにむざむざ殺されるのか?それとも抗うのか?戦うのか?どうなのじゃ?」
イヴのその美しい顔から笑みが消え、切れ長の目を細くし、舌なめずりをしてこちらに撓垂れ掛かる。
背筋が凍るような冷たい視線。
「いや、死ぬつもりもないが、戦ってみんなを巻き込むつもりもないんだ」
ふ、と小さくため息を吐き、くるっと馬の方に向いて戻って行く。
「甘いのじゃ。そなたは死ぬぞ。それは困るのではないか?助かりたいのでは無いか?そのために来たとしたら、どうするのじゃ?」
イヴはその赤兎馬から降りた時のように、空気を含むようにふわっと馬上に上がりゆっくりと横座りの体制に戻る。
胸元から徐に取り出した扇子をばっと手首を降ってひらき、口元を覆いながら目元だけで笑みを浮かべる。
「クレア公国と帝国は戦争をしておる。このグランウッドを帝国に取られることは、わらわも困るんでのう。」
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