その85.夜明けの逢瀬、再び
「ううう、私が先にチューするはずだったのに…ううう…」
サキュバスが飛び去った後、残されたシェロちゃんが恨めしそうにこちらを見ている。
「いや、あのさ、サキュバスも、この状況を覆す事が出来るって言ってただろ、だからあれは不可抗力というか、仕方ないというか」
「んもう!信じらんない!!」
バフッと抱えていた枕を俺の顔に投げつけ、フンス!フンス!と息を荒げて出て行ってしまった。
しかし、たしかに、帝国と対抗するためには力が必要だ。
抗う力。
それを抑え込む程の大きな力。
帝国領の領主としてのシェロちゃんも罪人扱いか。
ベッドに横になり、天井を見つめる。
まるで投影されるように、今までこの世界に来てからの事が映し出されるようだ。
右に揺れるマシュマロ…
左に揺れるマシュマロ…
上下に跳ねるマシュマロ…
俺は、シェロちゃんやみんなを守らなけりゃならない。こうなったのも俺の責任だ。
とはいえ…何も思い浮かばないな…。
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少し寝ていたようだ。
窓から、朝日が少し覗いている。
空はまだ薄暗い。
俺は、あと数日後に死刑になる。
やだなー。
ホントやだなー。マジでやだなー。
お前死刑ねー、ハイわかりましたーって応じるとでも思ってんのかよ。
ベッドから起き上がり、窓の外を眺める。
薄暗い中に、最近建ったばかりの家や、駅、公園や噴水。
ここには生活している人がいて、それぞれの人生がまたあるんだよな。
この街に、この世界に来た事が原因で、これから死んでしまう人もいるかもしれない。
それだけは避けたい。
シェロちゃんもそうだ。
俺がこの街に来なけりゃ、シェロちゃんはこの先もずっと平和に暮らしていたはずなんだ。
明日、もしかしたら俺は死んでしまうかもしれない。
その前にちゃんと謝っておかなきゃなんないな。
立ち上がり、ドアをそっと開ける。
向かいはサキュバスの部屋。隣にはシェロちゃんが寝ているはずだ。
コッコッ
部屋の前に立ち、軽くノックする。
「なぁに〜」
寝ぼけたシェロちゃんの声。
ドアを開けて中に入ると、白で統一された清潔感のある部屋、その真ん中の壁側にベッドがある。
シェロちゃんが身を起こしてこちらを見、怒ったように頬を膨らませる。
「わたし、いま、ねてたんだからね!昨日のこと謝ろうって来ても、時間考えてよね!!」
「いや、夜明けの逢瀬でも、と思ってさ」
赤くなった顔の半分を勢いよく毛布で隠すシェロちゃん。
「そこ、座っていいかな?」
ベッドの横を指しながら進んで、答えの前に座る。
「だ、だ、だから、寝てたん」
人差し指をシェロちゃんの唇に当てる。柔らかい。俺の指め!
「まだみんな寝てるから静かに…。俺もシェロちゃんもさ、いきなり帝国に死刑だなんて言われちゃったけど、死ぬつもりもシェロちゃんが死刑にされるのも許すつもりはないんだ。だから、帝国には出向かない。シェロちゃんも連れて行かせない。シェロちゃんは、いや、街のみんなも、俺が守らないとならない。俺一人の命でなんとかなるならそれでもいい」
「そんなのやだよ…。ヤキトリ様が死ぬなら、わたしも一緒だよ」
シェロちゃんが、縋るように抱きしめてくる。
「ただ、一つ考えがあるんだ。協力してほしい」
ゆっくりとシェロちゃんを離し、耳元で囁く。
「え?それって、でも、わたしには荷が重いよ…」
「大丈夫。俺も手伝うし、シェロちゃんならきっとみんなも力になってくれるはずだ」
コクリ、と静かに頷き、俺の目を見つめる。
「改めて、こんな時に申し訳ないんだけど…夜明けの逢瀬の続き。シェロちゃん、結婚してくれないか?」
「うん…。もうサキュバスとか他の人とはキスとかしない?」
「もちろん」
「他の人とも結婚しない?」
「もちろん」
「もう死なない?」
「もちろんさ」
「あの日からずっと、シェロはヤキトリ様だけの奥さんなんだから…」
「もちろんだよ」
そっと目を閉じ、その瞳からは一筋の涙が溢れ出る。
シェロちゃんを抱えるように横になり、そのまま唇を重ねた。
それから朝まで、その夜もその次の夜も、夜通しでこれまでの事やこれからの事、街の事や家族の事を話した。
シェロちゃんとは何も起きなかった。
心身ともに色々と考慮しなければならない、月に一度の1週間だったからだ。
だから何も起きなかった!
ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想、レビューなど頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!
大変長らく休んでいましたが、またよろしくお願いします。




