その83.死罪
あれから早いもので数ヶ月の日々が何事もなく過ぎていた。
小高い丘の上から望むグランウッドは、まるで都会の様相だ。
襲撃で閑散としてしまっていた街は賑わいを取り戻し、魔導列車での人の往来も増え、エルフ達の作るお菓子や乳製品、野菜も好評のようだ。
グルーンやサハギン村への道の側には人々が移住し始め、流通や金の動きも活発になり、最早グランウッドは中継地点ではなく、目的地となった。
勿論人の往来が増えた分犯罪が増えた事もあったが、バールが設立してくれた自警団のおかげで治安もだいぶ良くなった。
帝国竜騎士襲撃事件以来、すっかり帝国に対して敵愾心と警戒心を持った街の人たちは、街の帝国側に高い塀を立て、関所も設けた。
これで安心して街のみんなと暮らせる。
そう思っていた矢先だった。
「ヤキトリ様〜!!大変だよ〜!帝国の使者って人たちが関所に来てるよぉ〜!」
大きなマシュマロを上下左右、右往左往させながら、シェロちゃんが向かってくる。
ドテッ
こっちに向かってきたマシュマロが、足を滑らせて前のめりに倒れる。
「おい大丈夫かシェロちゃん」
胸元が大きく開いた服に皮の胸当てをつけ、スカートは股下から測った方が早いほど短い。
おぱんつが見えてますぞ。けしからん!実にけしからん!
さりげなく下着を凝視しながら側に駆け寄り、手を差し出す。
「あたたた、あ!そうだ!ヤキトリ様!関所の帝国が、じゃなくて、んーっと、関所!使者だって!帝国の騎士!ヤキトリ様また死んじゃうの??ふぇ〜ん!もう死なないで〜!お願いだから〜!」
落ち着け!
混乱と興奮と嗚咽と涙で言葉が出てこず、あたふたと身振り手振りで表すが、アベコベだしバタバタと暴れるようにジェスチャーするもんだから色んなところがはだけてきている。
「わかったから落ち着け!で、その使者はなんて言ってる?」
シェロちゃんの手を取り、立ち上がらせ、頭を抱いて落ち着かせる。
シェロちゃんは少し過呼吸気味に、それでもきちんと説明しようとしてくれたんだろう、深呼吸を繰り返して顔を上げた。
「関所に帝国の騎士がやってきて、人数は、あのね、3人くらいなんだけど、ヤキトリ様が、帝国の土地を勝手に使って、国を作って、反逆を企ててるから、あのね、あのね、ヤキトリ様は死刑にするって!」
俺の服の裾を掴むシェロちゃんの手が震えている。
俺が反逆だって?国だって?死刑??
どういう事だ??
シェロちゃんをこんなに怖がらせて、絶対に許さんぞ。それにまた殺す気か。
「わかった、とりあえず関所で話を聞いてくる。シェロちゃんは俺の寝床…おじいちゃんの家で休んでてくれ、俺は大丈夫だから」
シェロちゃんの頭をポンポン、と軽く叩いて視線で寝床を示す。
シェロちゃんは一瞬何かを言い出しそうにし、俯いて言葉を飲み込んで涙を浮かべ『待ってるね』と寝床の方に走って向かっていった。
☆☆☆
「…という事である!これは帝の勅命であり、絶対である!1週間後、尋問審判に出頭せよ!また、この勅命に背く事は帝と帝国に対しての宣戦布告とし、このグランウッド国に与する者全てを殲滅する!」
グルーンのような高い塀の、その下には小さな入り口とカウンター。
そこで仰々しく巻物を開いて勅命とやらを宣言した騎士達は、また仰々しく関所の前で皆殺しの宣言をした。
それを聞いた関所の近くに居た冒険者達は、ある者は帝国の方向に逃げ、またある者は剣を抜きその切っ先を騎士達に向けた。
「お前らやめろ。で、俺が行かなきゃ全員殺す、行けば俺一人の命でこの街は助かるんだな?」
息を荒げる冒険者達を制し、騎士達の前に一歩出る。
「ああ、言い忘れていたな。ヤキトリ殿と、グランウッド建国に関わった主要な者達を死罪に処す、だ。グランウッド領主シェロ・グランウッドも対象となっている」
「なんだって?!シェロちゃんは関係ないだろ!人を集めたり考え出したのは全部俺だ!それに!国だって作ってない!あんたらのとこより便利だから集まってきただけだろ!」
つい頭に血が上って騎士の肩を掴んでしまい、傍らに居た別の騎士の剣の柄で腹を突かれる。
「カハッ」
「この街は既に国として形容されている。お前を死刑にした後、この街は正式に帝国に接収され、『属国』として帝国に税金を納めてもらう。そして、新たな領主として、第一王子が就任する」
「クソッ、本当の目的はそれだな…」
帝国はこの街が暴力で手に入らないことが分かると、別の力で奪いにきた。
圧力。
権力。
目的はこの街の金と経済だ。
俺がまた死ぬくらいならともかく、シェロちゃんや街のみんなを死なせるわけにはいかない。
シェロちゃんも、街も、街のみんなも、俺自身も、全て守るためにはどうすればいい?
「考えておくよ」
今は行くとも行かないとも言わず、ただその場をやり過ごす事しか出来なかった。
新しい章に突入しました!
よろしくお願いします!




