その81,うぬぼれ
グチュッ
ヌチュッ ヌチュッ
グチュッ グチュッ
「はぁはぁ、ヤキトリ様…もう…私…」
ヌチュッ ヌチュッ
「ああ、リョーコ、こんなにして。すっかり…ほら、こっち来いよ」
プシャーッ
「ああ!ごめんなさい!ごめんなさい!ヤキトリ様!」
「やれやれ…こんなにびしょびしょにして」
ドタドタドタドタッ!
ドンドンドン!
ガチャ!
息を切らせてシェロちゃんがキッチンのドアを勢いよく開けて入ってくる。
「ヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤキトリ様ぁぁぁぁぁ!!生き返って早々!ふ、2人で!ななな!何をしてるんですかぁぁぁあ!」
顔を真っ赤にして何故か怒っている。
「いや、何ってバールの奴が俺の料理食いたいって言うからリョーコに手伝ってもらってたんだよ。手を洗うのに蛇口を捻ったら勢いよく水が出ちゃってさ。見ろよこれ」
「へ?」
何を勘違いしたのか、今度は耳を真っ赤にしてプルプルと震えながら俯くシェロちゃん。その向こうではドライアドがはらはらとしながらウロウロしている。
「ちょうど良かった。シェロちゃんも手伝ってくれ」
口を尖らせてキッチンに入り、口を尖らせたまま、俺とリョーコの間に入る。
「私だって、料理のひとつやふたつ出来るんだもん!ヤキトリ様のお手伝いだっていつもしてるんだから!」
なんなんだ一体。
「はいはい、わかったよ。じゃあリョーコとシェロちゃんで俺の続きをやっておいてくれ。ちょっと取りに行くものがある」
濡れた手をエプロンで拭き、頼むぞ、と残してキッチンを去る。
リョーコとシェロちゃんはお互いの顔を見合わせて、
「「なんで私がこの人と?!!」」
と何故か険悪ムードだったが、知らん。仲直りしといてくれ。
☆☆☆
宿舎の裏には小川が流れていて、陽の光を反射してキラキラと眩しい。
その川辺には大小様々な石がある。手の空いているドワーフの奴らと一緒に石を宿舎の前に運び、積み上げ、簡単ではあるが細長い石竃を作った。
火のピクシーに薪を燃やしておくよう命じ、雪風と街に向かう。
「ちょっと買い物に行くぞ、雪風」
「えー、まだ食べ足りないのだー」
肩を落としてあからさまに嫌そうな顔をする。
「まぁそう言うな。これからまだまだ美味いものを食わせてやるから」
「わーい!やったのだー!」
コロコロと表情が変わる奴だ。単純だけど、それでいい。
こいつには美味いものも沢山食べて、楽しく生活してもらわないとな。
草原を歩き、少し日の落ちた空を仰ぎ、賑わいを戻しつつある街を遠目に見る。
振り返れば宿舎とその周りにいる楽しげな人たち。
あの日、人生が一変してしまったが、これはこれでいいのかも知れない。
誰かの為にと思いつつ、実際は自分の為にやってるんだ。
この世界が不便な世界だなんて、ただの俺の思い上がりだ。
俺がみんなの為に何かするだなんて、自惚れだ。
全てみんながやってくれた事だ。
俺が生き返って喜んでくれた人たちに、今日は感謝の意味も込めて料理を出そう。
そのためには準備も必要だけど。
さっさと買い物を済ませて戻るか。
「それでご主人様、何を買うのだ?」
ごしゅじん、からご主人様に少しグレードアップしてるな。
「なんだそのご主人様ってのは??」
俺の少し前を歩く雪風がこちらを振り返り、後ろ歩きになる。その顔はいつもよりも笑顔で、少し赤らめている。
「シェロやドライアドとも話したのだ。ご主人様が来なければ、我はずっと独りで、ずっとワイバーンのまま、誰にも気にかけてもらえないまま、あそこで朽ちて行くと思っていたのだ。我は…わ、わたしは…」
雪風が立ち止まり、俺も立ち止まる。
少しづつこちらに歩み寄り、俺にぎゅっと抱きついて、胸に顔を埋める。
「わたしは、あの時来てくれたのがヤキトリ様で良かった。忘れかけていた怒りも悲しみも、受け止めてくれた。殺さないでくれた。だから、貴方はわたしの、英雄なんです。だから、もう、死なないで」
上目遣いに俺を見る顔は、あの時見た、シルフィだ。
「気にするな、それに俺はもう死なない」
雪風の頭をくしゃくしゃと撫でてやる。
本当はいつもいろんな事を考えて、悲しくて寂しくて怖かったんだろう。
「ほら、行くぞ、あんまり遅くなるとまたシェロちゃんが騒ぐ」
パッと勢いよく離れ、こちらを見ずに走って街に向かう雪風。
振り返り、「早く行くのだーー!」と手を振っている。
どちらが本当の雪風なんだろう、と思ったが、そんなことはどうでも良い。
あいつが楽しければそれでいい。
こちらを見ながら走り、手を振り、街の入り口で転ぶ雪風。
やれやれ、仕方のない奴だ。
ここまでお読み頂きありがとうございます!!今回はマシュマロも登場しないし完全かつシリアス回でした!
よかったら感想、評価、レビューをお願いします!!




