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その80,日本

作業台のまな板の上にフェルニルの肉を一枚、ドン、と置く。

作業台といっても奥行きは1m、幅も2mくらいある。

その上は一枚板で出来た木のまな板になっている。


フェルニルの肉はでかい。

およそ30センチはあろうかというモモ肉を切り分ける。大きすぎて調理がしづらいからな。

皮を剥いて、白く柔らかなブヨブヨとした余計な脂をナイフで取り除き、半分、また半分と分ける。


切り分けた一切れを今度は一口大に切っていき、ボウルに放り込んでいく。


「ヤキトリ様、他のもその大きさで良いんですか?」


「ああ、手伝ってくれるのか?」


まな板を占領され手持ち無沙汰だったリョーコがフェルニルの一片を取り、自分の前に置いた。


「助かるよ、ありがとう。同じ大きさに切ってくれ」


「ええ、でも、コレを全部?」


リョーコが切り分けた大量のモモ肉を指差して少し驚いたような顔を見せる。


「ま、『細工は流々仕上げをご(ろう)じろ』ってヤツさ」



2人とも黙々と作業を続け、ボウルが山盛りになる。


「次はネギだ。ネギも同じような大きさで頼む」


「ヤキトリ様、これはもしかして?」


「名前からもしかしてと思っていたが、リョーコも東の国とやらの?」


「ええ、まぁ、というか、ヤキトリ様なら言っても信じてもらえると思いますので…。私、実はこの世界の出身じゃない、というか…別の世界から来たんです。タクシーって言う鉄の馬車?みたいなもので」


落ち着いた顔でネギを切りながら、少し陰を落とすリョーコ。


タクシーで来たって??


この世界に??


「タクシー?!あんたタクシーで来たの?!」


タクシーと聞いてつい大きな声を出してしまった。


「ヤキトリ様、やはりヤキトリ様も。この世界にはヤキトリなんて言葉はありませんでしたから。だからもしかしてって思って。ヤキトリ様もタクシーで?」


「はい。全てを捨てて、それで、タクシーに乗って。違うかな、タクシーに乗って、全てを捨てることが出来た、って言うほうが正しいかもしれません」


2本目のネギに取り掛かりつつも、視線は下げたまま。


俺はつい手も止まり、リョーコを見つめたままだ。



「ほかにタクシーで来たって話は聞いたことがないんですけど、信じてもらえないと思って誰も言わないのかも」


切り分けたネギを肉とは別のボウルに掴んで入れ、次のネギ。


俺は剥いた皮を細く切りわけながら、久しぶりに聞いた『タクシー』という単語にドキドキしていた。


「俺は…日本で電車に轢かれて死んだ。色々あってこの世界に来たんだ」


日本、電車。

その言葉にリョーコは遂に此方を向き、俺の目を見つめる。

その瞳からは大粒の涙が零れた。


「私も、日本。なんだか嬉しいです。同じ日本の話がやっとできる。しかもそれがヤキトリ様だなんて」



それから、日本の事について色々と話した。


日本食が恋しい、だとか。


音楽のこととか。(時代が少し違った)


テレビドラマの話。(時代がやっぱり違った)


私生活や仕事については、お互いに詮索するようなことはしなかった。


「じゃ、久しぶりの!日本の食べ物を食べさせてやる!」


竃に火を入れるようピクシーに命じ、革袋から醤油、みりん、砂糖、料理酒を取り出す。

今度は新品だ。少しは気を使うようになったな、アラクネめ。



醤油やみりんを見てまたリョーコの目から涙が流れたが、まあ楽しみにしていろ。


レードルで、醤油、みりん、砂糖を1:1:1の割合で鍋に入れ火にかける。

焦げないようにピクシーに火加減を調節させ、混ぜながら煮詰めていく。


その間、リョーコには大きなフェルニルのムネ肉をリョーコのこぶし大に切り分けてもらい、また別のボウルに入れておいてもらう。


鍋の中身にとろみがついて、醤油と砂糖の甘い香りがキッチンに充満する。腹が減る匂いだ。


ガーリックとジンジャーをすりおろし、ムネ肉のボウルに投入。

よく洗ったレモンのような柑橘の皮もすりおろしたら、果実を半分に切ってそのボウルに果汁を絞る。

そこに醤油、料理酒をドボドボと入れてよく揉み込む。


懐かしい醤油の香りに、リョーコが恍惚の笑みを浮かべる。


「ああ、懐かしい匂い。この匂いだけでご飯が二膳は食べられます!」


「はは、大袈裟だな。ま、俺も今そんな気持ちだよ。だがまだ出来上がりは先だぜ」


「はい!」


醤油を入れたフェルニルのボウルに小麦粉、フェルニルの卵を入れる。


「コレをよく揉み込むんでくれ。粘りがでてもっちりするくらい」


袖のないワンピースのリョーコは、腕まくりをするジェスチャーをして「任せてください!」と気合を入れて揉み揉みする。その意気だ。


俺は、鉄の串にフェルニルの肉とネギを交互に刺していく。

長い分、沢山刺さる。なんかちょっとイメージと違うけどまぁいいか。

皮は面倒だから細く切った一枚のまま、蛇腹状に刺す。

思ったより難しいが、上手くいった。自分で自分を褒めたいところだが、それは出来上がってからだな。





キッチンには醤油の香りと、肉を揉み込む音だけが響いていた。





いつもお読み頂きありがとうございます!

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異世界タクシー 〜行き先は異世界ですか?〜
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