その77,ちんちくりん
地方都市郊外の一角。
チェーン店のスーパーやコンビニ、病院などある程度に数があるくらいの地方都市郊外。
その駅の近く、古いアパートが俺の城だ。
1DKの小さな城。
キツい坂を上り、更に上り、上り、どうやって建てたんだってくらいのところにあるから家賃が安い。
『いかんせん、坂がツラい』そんな理由で別れた女も居ましたね。
部屋にあるのは小さなテレビ、ワンドア冷蔵庫、洗濯機。
三種の神器は一応揃っている。
寝室にはベッドとハンガーラックが一台。
本棚には新旧混じったファンタジー漫画。
働いていた会社が倒産し、2ヶ月。
事態が事態だっただけに、失業手当もすぐに支給されて、とりあえず食うだけは困らなかった。
しかし毎日こうやって天井を見ながら過ごすのも飽きてきた。
俺に魔法が使えたらなぁ、なんて馬鹿みたいなことを考えて『黄昏よりも暗きもの…』とか魔法詠唱の真似事なんてしてみたり。
外出はする。
たまにハロワに行って、
面接して、
失業保険の手続きして、
帰りに飯を買って帰る。
あとは週に1度、スーパーで野菜やら干物やら。
この歳で親に仕送りを頼む、という訳にも行かないし、何より年老いた親にこれ以上心労をかけられないしなぁ。
幸い飲食店での経験があったから自炊出来ているものの、毎日買い弁だったなら今頃俺が干物になって孤独死しているに違いない。
だが、そんな毎日も来月で終わりだ。
って、あれ?
あれれれ?
ここは、俺の部屋のベッドの上?
間違いない。この枕の加齢臭は俺のものだ。
ペラペラの布団も懐かしい。
そんなことを懐かしんでいる場合ではないぞ。
ほら脇腹には短刀が…刺さった痕がない。
ちょっと待ってくれ、今までのは全部夢かよ。
そんな訳はない。
俺はたしかにあの場所に居たんだ!
「どういう事だ、これは!」
ガバッと起き上がると、横にはフードを被った少女が寝ている…。
布団をめくると…履いてない。
「これもどういうことだ!!!!」
少女がこちらに寝返りを打ち、フードをめくる。
そこには見た顔、アラクネが顔を見せる。
「ヤキトリ様、寒いですよぉ〜。それに、"せっかく死んでしまった'"んですから、もう一度こちらで、あと少し生きてみません??」
目をこすりながら、抱きついてくるアラクネ。
最初から威厳など無かったが、なんだこいつ。
履いてないし。
意外と似合っている真っ赤な口紅を引いた唇をゆっくりと近づけてくる。
が、頭を押さえつけ阻止。
「いや俺は向こうでまだやりたい事があるんだよ。こっちに来るのはそれからでもいいだろ」
「え〜。そうですけど〜今、ヤリたいこと無いですか〜?こっちでゆっくりしましょうよ〜」
鼻にかかかった、甘えた声を出しても無駄だ。
足を絡ませ、俺を強く抱きしめる履いてないアラクネ。
「だって〜ヤキトリ様〜あっちにいたらもっと危険な目に遭うかも〜。剣で切られたり〜?矢を受けたり〜?火だるまになっちゃうかも〜」
誰だよオメーは。
いや、まあ確かにそう言われればそうだ。
今回の数でこの有様だしな。東の国にはあの10倍が攻めて来たらしいし。
魔法まで破られ、槍で突かれ、短刀で命を落とした。
「だけど、あっちに戻してくれ。戻りたいんだ」
この部屋に愛着がないわけでもない。
この世界の生活も、軌道に乗りはじめていた。
親や友人とも何も言えずに別れた。
しかし、それはあっちの世界でも一緒だ。
シェロちゃんやサキュバス、ドライアド達。
バールと飲む約束だってしたんだ。
「あーでもー、ヤキトリ様はあっちの世界では荼毘に付したっていうか、もう土の中っていうかー」
棒読み。まあ理由は分かってる。
誤魔化しきれないのだ。
「じゃあなんで俺はここにいる?ここに存在している?」
バッと俺から離れ、あからさまに顔を背けるアラクネ。
「いやーあははーそれはー」
「しかも時間まで巻き戻されている。俺は列車に轢かれて死んだ筈だ。なのに五体満足ってことは、俺が死ぬ前の時間だろ。これはアラクネが任意の時間と場所に転移させることが出来る、若しくはそれと同様の力があるんじゃないのか?」
「あは、バレちゃいました?」
舌をチロッと出してウインク。
そんな事で許されると思ってるのかコイツは。
「もちろん、あちらの世界の死ぬ前に戻る事も出来ますが、それなりのペナルティというか、何かが犠牲になる事になりますのであまりオススメは出来ませんね」
再び足を絡ませて頬をスリスリと俺の肩に擦り付ける。
というかさ、なんでペナルティなんてものがあるんだよ…。
アラクネを払いのけベッドから出て冷蔵庫を開け、スクリューキャップの酒瓶を取り出す。
アルコール度数が低いから、まあジュースみたいなもんだ。
キャップを開け一気に飲み干し、心を落ち着かせる。
久しぶりの味だ。やはり美味い。
向こうじゃ冷えた炭酸飲料なんてないからな。
「ペナルティがあるなんて聞いてないぞ、前回あっちに行った時のペナルティはなんだったんだ?」
空の瓶に蓋をし、テーブルの上に置く。
その瓶を見つめながら、少し間を置き、アラクネが俺に視線を向けた。
「前回は私がペナルティを受けました。見た目がこんなちんちくりんになって…ヤキトリ様が転移する為のご用意に掛かった経費も全て私の徳から引き落としされてますし…」
「そりゃそうだろお前の責任なんだから」
「ですので、戻られるとなると、私の貯めていた徳ではほとんど何も出来ないかと…。なので、今回はヤキトリ様の徳を消費させて頂ければ…あちらの世界にもすぐ戻る事が出来ますけどどんなペナルティがあるかは分かりません」
アラクネは身を起こしてフードを被りなおして続ける。
「それとは別にまた何かしらの能力や道具とかもご用意は出来るんですが、やはりここまでの徳を使ってまでというのは…」
「じゃあ何でもいいからさっさとあの後に戻してくれ」
ここまでお読み頂きありがとうございます!!
もう少しだけヤキトリ死亡遊戯におつきあいくださいな!
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