その76,嗚咽
「うわぁぁぁぁぁぁッ!」
シェロが大声を上げて大粒の涙を流し、ベットに横たわるヤキトリに覆いかぶさるように、優しく抱きしめた。
ギルドの医務室はシェロの泣き声だけが響くが、しかしヤキトリはそれに返すことはない。
微動だにせず、冷たくなったヤキトリに未だ現実感を得ることが出来ないシェロは、嗚咽を漏らしながら、ヤキトリの頬を撫でるだけだった。
ドライアドやサキュバス達も項垂れて陰を落とす。
「せめて…私達もお側に居れば…」
「やめなさいよ!あたしたちが居たところで…そんなこと今更言ったって…ヤキトリの旦那はもう…」
コンコンと医務室のドアをノックする音がシェロの嗚咽を少し穏やかにする。
「どうぞ…」
ドライアドがドアノブに手を掛けようかと振り返って手を出すと、その前にドアが開く。
「遅くなってすまなかった。ヤキトリは?」
手負いのバールも回復に時間がかかり、顔には疲労が隠せない。
そのバールに黙って首を振るドライアド。
しばらく沈黙が続いたが、ボロボロと涙を流しながらシェロが立ち上がる。
「ヤキトリ様はもう…ねえ!わたしの命と引き換えに、生き返らせてよ、バールさん神様なんでしょ!!」
珍しく大きな声で激昂するシェロ。
シェロも、バールのせいではないと思いつつも、バールが居たのに何故ヤキトリが死ななければならないのか、と自分の心を整理出来ずにいるのだ。
「いや、すまなかった。俺の責任だ。俺が悪かった。あの時俺が油断していなければ、俺の傷なんて治さずにいれば、こんなことにはならなかったんだ…」
「バールさん、ごめん、なさい、そういう意味じゃ…」
バールは踵を返し、ドアを開けたまま「すまん」と一言だけ残し行ってしまった。
***
全ての竜騎士が亀裂に落ち、土のピクシーが「サヨナラー」といってまたチョップのような仕草をする。
すると轟音と共に亀裂が徐々に閉じていき、そこには土の割れた後すら残らなかった。
あの魔法飛竜騎士の死体も亀裂に飲み込まれ、その後どうなったかは誰にもわからない。
そして、グランウッドに帝国が攻め入り、ヤキトリもその際死亡したという話が瞬く間に広まる。
それを聞いた街に残った人たちや、東の村からの移住してきたエルフたち、サハギンの村の者もドワーフ達も皆、悲しみに暮れていた。
中には帝国に敵対する国を焚きつけて葬いの戦争するべきだと言い始める者もいる。
しかしそれはヤキトリも望まないだろう、という意見が多く実現しなかった。
街には多くの人が訪れ、ヤキトリの功績を讃えていく。
世論は最早帝国の敵で、再びこの街を制圧するという雰囲気ではなくなり、人々の往来もかつてより増えたのは結果的には良かったのかもしれない。
ただ、ヤキトリを知る者達はヤキトリが死んだことを受け止めきれず、悲しみの渦中で何も手につかずにいた。
人の往来はあれども街としての機能は果たせず、ギルドも同様に機能を失っている。
しかしながら、誰からともなく、街をあげて大々的にヤキトリを送り出してその想いを受け継ぐべきだという声があがり、多くの人が賛同した。
ギルドマスターの個人的なお金で、街の中心部、ギルドの前に大きな墓碑を建てることも決まった。
ヤキトリの葬送の祭りは、明日行われることになる。
ここまでお読み頂きありがとうございます!
ヤキトリ死亡にまつわるエトセトラ()はもうちょっと続きます。
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