表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/102

その6,はじめてのまほう

 ちょっと押し付けがましかったかな、などと反省しながら、果物屋で買ったりんごを齧る。この村の特産品は多分、りんごだ。どこの店でも売っているし、なにより美味い。甘くて瑞々しい。

 しかし、りんごとは縁があるな。


 この世界ではあまり砂糖が用意できないらしく、果物や蜜の類はとても重宝されているらしい。


 フムン、そういや街にきてお菓子はまだ見たことがないな。

 このりんごでお菓子でも作れれば、少しは稼ぎの足しになりそうだけど。


 そんなことを考えながら歩いていると、街の正面に大木とレンガ造りの建物が見えてきた。

 三階建て、装飾があまり無い、言うなれば豆腐建築。建築系ゲームでちょっと良い資材が集まってきて、まず手始めに建てるやつ。

 入り口ドアは観音開きの木製だ。


 建物から木が生えているように見えたが、実際は大木を囲むように建てられている。


 シェロちゃんがタタタッと建物の入り口前に駆け寄り、両手を大きく広げ片足立ちでおどけてみせる。

「じゃじゃーん!ここがこの村のギルド本部だよ!」


 ほーん、結構デカいやんけ。(緊張の面持ち)


 ギィッ

 扉を開けると、錆びついた蝶番の音が響く。

 中にいた大勢の柄の悪そうな人々が一瞥を投げるが無視。

 正直チビリそう。


 ギルドの正面には2人のエルフの女性が座っている。受付だろう。美しさにも程がある。


 左側には依頼の紙だろうか、たくさん貼ってある。きっと掲示板だ。読めないけど。


 右側はというとバーカウンターがあり、兎人族(ラビットぞく)かしら?黒いハイレグのレオタードを着た、見た目も格好もたわわバニーちゃんな女の子が、おっさん数人を相手に酒を注いでは尻や胸を触ろうとする手を払い落としながら接客している。


 そんなけしからん光景を横目に、負けず劣らずな(?)シェロちゃんと近くのテーブルに座る。


 しかし読みはなんとかなったが、書きが出来ないことには依頼も受けられない。困ったな。


 困った時の神さま頼り。ご都合主義。いやいや、そんなことはない、こういう時のための巾着袋だ。


 腰にぶら下げたままの巾着袋をまさぐると、硬くて四角い…これは本だ。


 巾着袋より一回り大きい本を取り出すと、シェロちゃんが目を丸くする。


「その魔書、どうやって入ってたの?!」

「ん?ましょ??」


 その魔書と呼ばれる本は、少し古ぼけてはいるが、表紙に金の糸で刺繍の装飾がしてあり、見るからに豪華で高そうだ。


「魔力を含む本は『魔書』と呼ばれてるの。

持ち主の魔力にもよるけど、その本を開くだけでその本に書かれている魔法を使えるようになるんだよ!」


 魔書の表紙を捲ると、みるみるうちに文字が頭に入ってくる。

 視覚を通して直接脳に上書きされていくようだ。


『リテラシー』


 すこやかロリータ様の声が聞こえた気がした。


 そしてどうやら俺は『リテラシー』の魔法を覚えたんだ。


 『リテラシー』は所謂永続系バフ魔法のようで、どんな文字も言語もクリアーにするみたいだ。


「大丈夫?ヤキトリ様?」


 何も書かれていない本を広げたまま、虚ろな目で一言も発していない俺はさぞかし不気味だったろう。ごめんね。


「Es scheint, dass die Magie, die ich jetzt beherrsche, "Alphabetisierung" heißt. Ich kann jetzt alle Sprachen lesen und schreiben."」

「は?なにいってんの?ヤキトリ様」



「今、俺が習得したのは『リテラシー』という魔法らしい。全ての言語を読み書きできるようになった」


「「「ええーっっっ」」」


 ギルドの建物内にいる全員が驚きの声を上げたせいで、ミシミシと音を立てて崩れそうだ。


 そして、ある者は色々な意味でショックで気絶し、あるものはうなだれて涙さえ流していた。


「『リテラシー』の魔法は最上位魔法の1つで、習得はおろかその存在すら伝説と言われてて、魔書には懸賞金もかけられてたんだから!」

 よくある説明台詞をありがとうシェロちゃん。


 つまり誰もが憧れる伝説級の最上位魔法を、ぽっと出の、どこかの馬の骨の、それもアホの片割れが賞金を貰わずアホみたいに習得しちゃったというんだからショックがデカいのもわかる。

 国の研究機関に寄付するような幻の深海魚を、釣り上げたその場で捌いて刺身にして可食部以外は海に捨てちゃったようなもんだよな。


 ちなみにその賞金額10,000金貨。日本円にして1億円。


 そしてこの魔法は伝説的な魔法なので、習得出来る人間は今んところいないんですって。というかその存在すらお話の中の物だとさえ信じられてたとか。


 騒がしくどよめいているギルド内で俺は急な回るような眩暈と激しい頭痛に襲われる。


 目の前が赤や黄色、紫と目まぐるしく変わる。

 きっとここれは魔力のコントロールが効かないんだろう。そりゃそうだよ憧れはあったけど実際使ったことも無いし。


だめだ


意識が保てない



ブラックアウト

ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界タクシー 〜行き先は異世界ですか?〜
こちらも連載中です。宜しくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ