その71,狐面
シェロちゃんが泣いている。
大粒の涙を流して、オイオイ言いながら泣いている。
泣きながら味噌汁を啜り、鮭と白飯を食いながら泣いている。俺の飯…。
飯が美味くて泣いているわけではない。
バールのここまでの経緯を聞き、同情して泣いているのだ。
バールも泣いている。シェロちゃんが泣いてくれた事に対し、泣いているのだ。
俺はその2人を見て冷静になり、ほぼ無の心境である。
なんかお腹もいっぱい。
ケトルにお湯を沸かし、革袋から取り出したインスタントコーヒー (賞味期限切れ) をカップに入れた。
「ヤギドリじゃまぁ〜グジュグジュ、バードゥじゃんを〜もぐもぐ、ごのまぢでぇ〜グジュ」
お前も食うのか泣くのか喋るのかどっちかにしろ。鼻をかめ。
「バールにはこの街で農業に携わってもらおうと思ってるよ。それに帝国の手が伸びてくるようだし、バールがいれば頼りになると思うからな」
「おでも〜グジュグジュ、ヤギドリのだめに〜むしゃむしゃ、がんばどぅぅぅぅ〜」
うるせえなこいつら。
アホ2人揃った感じかよ。
「とりあえず、飯食ったらドライアドのところで対策を考えよう。せっかく街に人が集まって来ているのに、邪魔されたら計画がパァだ」
「「うん、グジュグジュ、わがっだ、グジュグジュ」」
俺は、チベットスナギツネのような顔でコーヒーを飲んだ。
***
シェロちゃんの屋敷の客間、円卓に付いた俺たちにバールが加わっている。
「…というわけなんだ」
さっきの様子とは全くの別物の、いつものイケメンに戻ったバールが経緯を説明する。
「でもその話、信用していいのかしら?」
俺の影からサキュバスがシュルシュルと姿を現す。
が、ネグリジェ一枚の姿だったため押し戻してやった。
「たしかに東の国が帝国のもとに降りた、とは聞いています。ちょうどヤキトリ様が眠りにつかれた頃ですわ」
こういう面倒くさい事態もわかってて早く戻れって言ってたのか、あのポンコツ。
「うーん、でも街はもうすぐ外壁が出来上がるけど、農場や宿舎は街の外だよ、ヤキトリ様」
シェロちゃんが心配そうな顔でこちらを伺う。
「ま、その件に関しては問題ないだろう。街の外の防衛の要は…」
チラリと雪風を見ると、鼻の穴を大きくし、フンスフンスと鼻息荒くこちらを見ている。凝視している。
「我が居れば問題ないのだ。我はワイバーン、空翔ける妖精なのだ」
立ち上がり無い胸を張る。
ま、心強いのには変わりない。
「俺も防衛に回らせてくれないか?帝国が制圧にくると聞けば、多分俺の仲間たちもこちらに来るだろう。来てくれれば役に立つ」
バールも立ち上がり、両手をテーブルに突いて提案する。
まあ見た目も強そうだし、刀も飾りではないだろう。
バールの仲間が来てくれるのならばそちらも心強い。
「街は外壁も含めて『ディフレクト』を『エンチャント』、農場や宿舎にも『エンチャント』しておこう。グルーンは防衛力が高いから守りに徹してもらうとして、サハギンの村にも『ディフレクト』しておこう」
あとは帝国側がいつ攻めてくるか、その見極めが必要だ。
まさか帝国に「いつ来ますかー」なんてのは聞くわけにもいかんしなぁ。
「ヤキトリ、帝国は東にある。グルーンの東の山間部を抜けてやってくる筈だ。帝国を出て2、3日でこちらに来るだろう。奴らはラプトルというドラゴンに乗ってくる。竜騎士だ。そいつらに俺たちの国もやられたから間違いないと思う」
深刻そうな顔で両手を広げ、危機を煽る。言っていることは事実で、煽っているわけでもないんだろうけど。
「なるほど、誰か偵察に行かせてみた方がいいかな?とはいえ雪風は機動力があっても目立つしなぁ」
その真剣に話す2人の様子を横目に、シェロちゃんとドライアドは胸を円卓に乗せてお茶を飲みリラックスし、雪風は顎を乗せてその胸を眺めている。残念だったな。何がとは言わないが。
と、その胸を俺も見ていた時、窓に顔がニュウッと浮かび上がる。
ただの顔じゃない、狐のような顔だ。
「きゃーおばけー!!」
俺だ。騒いだのは俺だ。
その声と視線に気づいたバールは刀に手を掛け、窓を見やる。
しかし直ぐにその手を収めて肩を落とした。
「はあ、その登場はやめろと言っただろう、白狐」
バールがそう言うと、何事もなかったかのように窓を開けて黒装束の人間が入ってくる。
「失礼致しました、私はバール様の眷属、名は白狐と申します」
背は低い。140cmほどしかない。
声も幼く聞こえる。
徐に狐の面を取ると、目尻と唇に紅を引いてはいるものの、まだ幼さの残る女の子の顔が現れた。
「バール様、帝国の制圧部隊は明日出発する模様です」
早ければ明々後日には到着じゃん!!
ここまでお読み頂きありがとうございます!
拙い文章ですが、評価、感想、レビューなど頂けますと幸いです。




