その70,お供え物
朝が来た。
夜は全く眠れず、あれやこれやと色々考えてしまっていた。
バールはというと、疲れていたんだろう。
ヒールをエンチャントしているベッドで横になった途端、寝息を立てた。
まだ寝ている。
起きた瞬間驚くだろう。その身体の身軽さに。
よだれを垂らして間抜けな寝顔のイケメンは、ああ見えてこの世界では神だ。
お供え物じゃないが、朝飯でもご馳走してやるか。
ズッキーニの皮を適当にむき、薄くナイフでスライス。塩を振ってボウルでこれでもかと揉む。もみもみする。親の仇とばかりにもみもみする。
外に出て石を積み上げて焚き火をピクシーに起こさせ、簡単な竃を作る。適当でいいんだこんなもの。
鍋で米を炊くために、よく水を吸わせておく。
半透明の米が水を吸って真っ白になればいい。この時期なら30分程か。
米は街のスパイス屋で売っていたものだ。東の国から仕入れていたものだと聞いていた。米の形も楕円系で、昔辛酸を嘗めたタイ米よりは丸い。
部屋に戻り竃に鍋で湯を沸かす。
もう一つの竃で米を炊く。
そういやタイ米自体はカレーとかに合うんだけど、日本食には合わないんだよなぁ。粘りがなくて、米の香りが別のものだった。
俺が子供の時は米を買うためにはタイ米が抱き合わせで売られてて時にはタイ米とのブレンド米が…ってこの話はどうでもよかったな。
米を水に浸けている間、(俺の地元じゃ『うるかしておく』なんて言ったもんだが)野菜などを切る。
フェルニルの肉を一口大に切って、皮に付いている脂を適度に切り取る。朝からこの脂は少しくどいし匂いも強いからな。
大根のような、かぶのような野菜を銀杏切りにし、葉も刻んでおく。
若いリーキも斜めに薄く切り、大根の葉ぽいのとフェルニルを一緒に、軽く油を引いたフライパンに投入。
軽く炒めたら湯を沸かしていた鍋に入れ、大根のような野菜も入れる。
米が水をよく吸ったようで、真っ白になって膨らんでいる。
水は目分量だ。ざるにあけてよく水を切り、鍋に入れ、均して掌を置き、だいたい手の甲あたりまで水を入れる。
蓋をして火加減は中火。
サハギンの村で買った魚の塩漬けの切り身。見た目は鮭か鱒みたいだ。大きな樽に重ねて浸けてあったヤツ。
水分が程よく抜けて香りもいい。
身の表面に塩を擦り込んで、毎日上下を入れ替えては重石をしてを繰り返すらしい。
鮭の山漬けみたいなもんだな。
切り身を網に乗せ、外の竃の遠火でじっくりと焼いておく。焦げないように水のピクシーに見張りをさせておこう。
米の鍋は蓋から泡が立ち始めた。ピクシーに火を少し弱めるように命じ、弱火で煮込んでいく。
ここで革袋に手を入れて、四角く、柔らかい箱状のものを取り出す。
味噌だ。賞味期限は…切れてない。俺の部屋にあったものだけど。
フェルニルや根菜を煮ていた鍋を火からおろす。
スプーンで味噌を取ってレードルを使い鍋に溶くのだ。
途端に味噌の良い香りが立ち昇り、和食の雰囲気を醸し出す。
最後にサハギン茶で調味して味噌汁の出来上がりだ。
頃合いを見て米の鍋を火からおろして蒸らしタイムだ。
10分位蒸らせば米も出来上がり。
「おはよう…なんだか懐かしい匂いがする…美味そうな匂いだ」
バールが目を覚まし、寝ぼけ眼でのそのそとベッドから出てきた。
「ああ、『豊穣の神さま』にお供え物でもしようと思ってね」
振り返るとちょうど窓の外でピクシーがノックし、くるくると回って合図する。
バールに座って待っているよう言い、外の魚の様子を見に出た。
竃からは魚の脂でもくもくと煙が上がっている。
それだけ脂が乗っているということだ。
身も良い感じに焼けている。ちょうどいい。
ピクシーには焚き火の火を消しておくよう指示、魚は網に乗せたまま持って部屋に戻る。
ズッキーニは水気が出ているので握り絞り、小皿に盛り付け。
スープボウルに根菜の味噌汁、皿には焼き山漬け、蒸らした米もスープボウルに盛り付ける。
茶碗なんてものがないからな。
「バール、箸は使えるのか?」
小枝を削って作った箸が何本かある。もっとも使うのは俺くらいだけど。
「箸まであるのか?ああ、頼むよ、なんなら箸の方が使いやすい」
バールの目の前に、和食の雰囲気の朝食が用意される。
白飯と焼き鮭、味噌汁に浅漬け。
お供え物にはまあ及第点だろ。
俺の分もテーブルに運び、向かい合って座る。
手を合わせて頭を下げ、食事の挨拶。
「「いただきます」」
焼き鮭 (のようなもの) に箸を入れると、するっと身が離れる。
一口食べてみると、まさに山漬けの味だった。適度に脂が乗り、旨味の凝縮された山漬けに、堪らず白飯を口に運ぶと鮭と同時に咀嚼する。
久しぶりの和食だ。
鮭と白飯を飲み込み、口に残る余韻に味噌汁を流し入れると、鼻にその鮭やサハギン茶、味噌の香りが抜けていく。
この世界に来てからというもの焼いた肉とか、洋食のようなものばかりで、感極まって目が潤む。
恥ずかしくなり、ふとバールに見られたかなと目線を上げると、バールは涙を流しながら食べていた。
なんだこいつ。
「泣くほど美味いかよ」
「ああ、ああ、東の国の味だ。こんな遠くに来て、美味い飯が食えるとは思わなかった。ありがとう、ヤキトリ」
バールは喋るのか泣くのか食うのか、よくわからん状態で食いながら泣きながら喋っていた。
そんなバールを見て、俺も何故か泣きながら食っていた。
大の大人の男2人、泣きながら飯を食っている。
こんなの誰かに見られたらきっと気持ち悪く思うだろうな。
ガチャ
扉の開く音がして振り返ると、なんとも言えない顔をしたシェロちゃんが立ち竦んでいた。
それもそうだ。
俺が知らない男と泣きながら朝飯を食ってるんだからな。
久しぶりの食べ物回です。
もう少し良い書き方を思いついたら改稿するやもしれません。
ここまでお読み頂きありがとうございました!
拙い文章ですが、感想、レビュー、評価頂けますと泣いて喜びます!




