その69,その男、バール
バールがいたという東の国は、帝国の手によって陥ちたらしい。
そして、次なる標的はこの街だそうだ。
フムン。そういうのは求めてなかったんだが、ここまで街が大きくなって、色々と噂にもなれば…ということか。
「それで、帝国はどのくらいの兵力で、どんな手で陥したんだ?」
魔導列車の入り口に付いた小さな階段を降りながら、話を進める。
「帝国の兵の数はざっと1,000くらい、こちらは1万。舐められたもんだと思いつつも、あっという間にやられちまった。ちょうど俺らも留守にしていてな、その隙を狙われたってわけだ。殿、つまり俺たちの王もあっさり殺されて、守るべき者が居なくなった俺は仲間達とも散り散りになっちまった」
なるほど、実際この街には逃げて来たわけだな。
顎に手を当てて考え込む。その仕草を見てバールは焦ったように続けた。
「いや、逃げて来たわけじゃないからな!俺は守るべき者を守るためにここに来たんだ。ある人の紹介でな」
誰だ、ここを遠く離れた国のこいつに紹介するなんて奴は。
話を聞いてきた、というだけではなく"紹介"となるとまた別だ。
「で、どこのどいつだ、そんな傍迷惑な紹介をなさった御仁は」
駅から歩き続け、俺の寝床に向かっている。
正直なところ、こいつの名前、まぁ本名とは限らないが、それしか知らないわけで。
もしかしたら敵かもしれないし。
だからとりあえず街から離れた俺の寝床に連れて行く。
「ああ、よろしくって言ってたよ、アラクネが」
「またあいつか!!あのポンコツ!またもや俺に面倒を押し付けやがったな!」
つい声に出てしまった。あいつはとりあえず神さま扱いなんだったな。僕のくせに。
「ははは、ポンコツか。古い付き合いなんだ、アラクネとは。ヤキトリを頼ればなんとかなるって言ってたぜ」
どこまでも俺を困らせる気だな。
がっ
と、そんなこんなで寝床に到着。
木製のドアを開くと、真っ暗な部屋が出迎える。
火のピクシーに竃とランプに火をつけさせ、椅子に腰掛ける。
向かいあった席に座るよう目で合図すると、バールも席に着いた。
「アラクネと古い付き合いと言ったが…あんたは結局何者なんだ?」
水のピクシーに茶を用意を命じ、バールに問いかける。
バールはガチャガチャと鎧や刀を外しつつ、それに答えた。
「俺はバール。バール・ゼブルだ。東の国の豊穣の神。尤も、あっちではイナリと呼ばれていたんだけどな」
バール・セブル。聞いたことあるような…。
バールゼブル、バールゼブル…ベルゼブブだ…。
思い出し、革袋からギルドの討伐依頼書を取り出す。
バアルゼブル討伐。
書いてあるのはハエ。
依頼者は帝国総務部。
ああ、なるほど、逃した敵に賞金を掛けたわけか。
「バール、あんた賞金首になってるぜ。だがハエの絵が…」
俺がハエという言葉を出すと、想像もつかない顔でギリギリと歯軋りをしてこちらを睨みつけてくる。
そして俺の肩を大きな手で、物凄い力で掴んだ。
「もう一度言ってみろ…アラクネの知り合いだとしても許さねえ…」
「いてててててッ!やめろ!ここに書いてあんだよ!」
討伐依頼書をバールの顔に投げつけると力を弱めた。
投げつけられた依頼書を、埃の被ったテーブルの上にシワを伸ばして広げる。
「クソっ帝国の奴らめ。異教徒のビヂグソ野郎どもがヨォ!」
目を釣り上げ、ドス黒くなるほど真っ赤になっているバールの怒りを収めるためにも、ここは話を聞かなければ。
「どういうことなんだ。ベルゼブブといえば、俺の世界でもハエの姿をした悪魔の王という設定だったぞ。それがあんたというのはまたよく分からんのだが」
ハエのキーワードを出してしまったことを後悔したが、今度は掴まれることもなかった。
バールは深呼吸し、すこし冷静になったように見える。
「ああ、その噂を流したのは帝国だ。帝国の宗教では俺はハエ扱いなんだ。バール・ゼブルの名が、ベルゼブブに似ているとバカにしてるんだよ。しかし俺は豊穣の神。東の国が穀物で栄えたのは、俺があの国を守ってたからというのもあるんだ」
なるほど、要らぬ言い掛かりというわけだな。
名前を馬鹿にして仇名を付けるなんてしょうもないことをするもんだ。
イケメンでハエの要素は見当たらんし、嫌われるような感じも今のところ無いけどな。
そんな雰囲気を汲んでか知らずかピクシーがカップにお茶を注ぎ、俺たちはその香りに安堵する。
「なぁ、バールに行くところが無いのなら、この街に居ればいい。畑もやってるからあんたが居てくれたら俺たちも助かる」
「いつか東の国を取り戻したいんだ。日の出ずる国、ヤマトを」
日の出ずる国ヤマトか。こっちの世界の日本みたいなところだろう。
行ってみたいし、きっと俺の気にいる国に違いない。
「ああ、その時が来たら俺も協力する。俺も元々は世界が違えど日の出ずる国出身だからな、きっと気にいる」
椅子から立ち上がって右手を差し出す。
俺の言葉に微笑みながらバールも立ち上がり、その手を握り返し「よろしく頼む」と深々とお辞儀をした。
こんなやりとり久しぶりだな、なんて考えながら、その手を強く握った。
拙い文章ですが、ここまで読んで頂きありがとうございます。
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